第140話 森林貫通、そしてマクベロンへ
「では放ちますよ。“
クリストファが朗々と魔法を唱えると、彼の前方に巨大な光のリングが出現した。
光のリングは、紋章のようなものを幾つも重ねると、ぐるぐる回転しながら光を強めていく。
あっ、これはクリストファが本気で撃つやつだ。
魔法をぶっ放していいぞ、という大義名分を得たので、彼は嬉々としてこの大破壊魔法を行使しようとしている。
「発射!!」
神懸りの宣言で、光のリングが一斉に回転を止めた。
クリストファ側から、重なるリングの先端目掛けて、光が迸っていく。
凄い光で目が眩む。
「ひえー、見えないよー」
メリッサが悲鳴を上げる。
アレーナは、ぎゅっとメリッサにしがみついているようだ。
あ、ちなみに俺は見える。
目の前に闇の幕を作っておいたので、この大光量もなんでもないぞ。
少ししてから、音がやってきた。
轟音というのではなく、甲高い、空気を切り裂くような音だ。
「むうっ!!」
目が眩んでいるレヴィアがファイティングポーズをした。
「レヴィア様、大丈夫大丈夫。ステイステイ」
「う、うむ。思わず反射的にな……。ウェスカーの気配はこっちか」
的確に俺の肩をがっしりと掴んでくるレヴィア。
野生の勘である。
「ほえー、流石ですねえ……。大きな隊商が通れるくらいの道が森に穿たれましたよ。ですけれど、延焼は避けられませんね。わたくしが消火しましょう」
前に進み出たのはマリエル。
「“我は命ずる。天地は我が掌にあり。二界を束ねて我が意思を通ず。地よ、遥か底より水を放て。天よ、雲を集めて雨と成せ。
地に亀裂が走り、そこから地下水が飛び出す。
空は一面に掻き曇り、雨を降らせ始めた。
空と大地が、一度に水を放ったのだ。
クリストファの魔法で起り始めていた大火事が、一瞬で収まっていく。
「割と大魔法ですから、これでしばらく、わたくしは魔法が使えません。大いなる力を持った魔法ほど、見た目は地味なものです」
「なるほど」
「あっ、ウェスカーさんは別です。魔力が明らかに無尽蔵なので」
「俺は別だったか。しかし、こうしてみんなのいいところを見ていると、俺もちょっといいところを見せたくなるな!」
「いいぞいいぞ。甥っ子、また面白いのを見せてくれ!」
ゼインが俺を
この男、特にやる仕事がないので、朝から酒を飲んでいるのである。
すっかり出来上がっている。隣には町で引っ掛けたお姉ちゃんもいて、一緒に飲んでいるものだから上機嫌だ。
しかし、俺はそんな囃しでも調子に乗るぞ!
「いかん!! この男、また危険なことをやるぞ! 離れろ!」
シュテルンが叫び、イヴァリアがメリッサとアレーナの手を引いて遠ざかった。
クリストファとマリエルも距離をとったので、俺の近くにいるのはきょとんとしたレヴィア一人だけになる。
「何故、皆遠ざかるのだ? まあいい。ウェスカー、何をするのかは分からんが、やってしまえ!」
「了解! えーと、世界破断魔法と同じ要領で、これを縦方向に繋げるだろ……。こうか。“
俺の拳が、世界を砕く。
すると、目の前の空間に穴が開き、この穴が連続していくのだ。
穴の中に穴が開き、また穴が開き……。
遥か先に森が見えた。
向こう側から、ひょこっと覗き込む幼女がいる。
「おー、キータス、元気だったか!」
『せ、世界の法則を乱した……』
またあの女神様はガクブルしている。
「やあウェスカー殿! ついにそちらで、我が闇の女神教団の聖地が?」
キータスを抱き上げながら覗き込んだのは、灰色の肌で角が生えた大男。
生粋の闇の女神の神官、ドバットである。
今では、俺と並ぶ大神官ドバットとなっている。
「ああ。このトンネルを通ってこっちに来るのだ。今ならウィドン王国は復興の真っ最中だから、やりたい放題だぞ!」
「人聞きが悪い! だが魅力的な話ですな。ウェスカー殿がやることは急進的で理解不能なことばかりですが、こうして教団は復活し、大きくなった! 私は貴方を信じますぞ!!」
ドバットは振り返ると、後ろにひしめいているであろう信者たちに告げた。
「者ども! ウィドン王国王都へ行くぞ! 我らもかの国の復興を手伝い、そして闇の女神のありがたい教えを広めるのだ!」
うおおおおお────!!
凄い声が聞こえる。
闇の女神教団のモチベーションはとても高いのだ。
「あっ、ウェスカーさん! なんかその空間に空いたトンネル、広がってきてる!」
メリッサに言われて気付いた。
このトンネル、なんか世界を侵食し始めてるぞ。
「よーし、みんな早くこっちに来るんだ。そうしないと世界が滅びる……」
「な、なんと!? 我ら闇の女神教団の負った役割とはそれほど大きいものだったとは……!? よし、急げ者ども!!」
うおおおおお────!!
怒号にすら聞こえる叫びを上げながら、闇の女神教団一同が雪崩れ込んできた。
総勢数百名。
先頭は、キータスを抱っこしたドバットである。
全員がトンネルを抜け切ったところで、俺はトンネルに手を掛けた。
「“
トンネルの端と端を、ぺたっと貼り合わせる。
これでよし。
「はわわわわ……。私たちの王国に、いかがわしい一団が……! も、もしや魔王軍!?」
アレーナが怯えている。
そんな彼女の背中を、メリッサがよしよしと撫でた。
「大丈夫だよ。見た目は明らかにおかしいけど、みんないい人たちだから。それで、あの魔物の人が大神官で、抱っこされてるのが神様ね」
「神様が直接いらっしゃってるの!?」
「公爵夫人、彼らの言葉をまともに受け止めていると頭がおかしくなるわよ」
イヴァリアがアレーナに、大変人聞きの悪いアドバイスをした。
「ではー、これから我ら闇の女神教団は、ウィドン王国復興に手を貸すものとする!」
ドバットが宣言すると、わーっと盛り上がる団員たち。
魔物と人間が入り混じっていて、大変カオスである。
「思ったよりたくさん来たので、俺が作った急増の神殿では狭かろう。各自、廃材を使って神殿の周りにキャンプすることー」
「分かりましたぜ、ウェスカー大神官!」
「ヒャッハー! 野宿だ野宿だー!」
「新鮮な復興作業だぜぇーっ!」
「オラァ! 一般市民! 家を建て直してやるって言ってるんだよぉ! 案内しろぉ!」
我が教団員たちは、一斉に町へと散らばって行った。
ああ見えて、シュテルンの部下である骸骨兵士と渡り合った者たちだ。
きっとウィドン王国復興の助けとなるに違いない。
「ううう……。心配になって出てきたら、またとんでもないことになっている……! うぐぐぐぐ」
ガーヴィン公爵が出てきて、お腹を押さえている。
腹が減ったのか。
「あなた! 無理をなさらないで。でも、凄いんですよ。この方たち、あっという間に森を貫いて、街道を作ってしまいました。それに、たくさんの方々が手伝いに来られて……! 女王陛下は、ウィドン王国で仕事を作って、資材やお金を流通させて下さるって」
「くっ……。悔しいが、お前……いや、陛下には頭を下げねばならぬようだ……! あ、あ、ありがとうございまごふっ」
あっ血を吐いた。
ガーヴィンがストレスでぶっ倒れ、担架に乗せられて運ばれていく。
アレーナも付き添って退場である。
「昔から、兄上は素直ではないのだ」
レヴィアが難しい顔をした。
さて、これで俺たちがウィドン王国で成せる仕事は終わりだろう。
ここからは政治的な解決が必要になる。
伝書鳩とかで、ラードに手紙を送っておこう。
「おい、甥っ子。この道ってのは、ユーティリットまで続いてるのか?」
ゼインが聞いてきた。
「そのはずだ。まっすぐぶち抜いたからなあ」
「じゃあ、途中でマクベロンにも寄りやすくなったな! たまには里帰りと洒落込みたいんだが、いいか?」
「叔父さんが次の目的地を言うとは珍しい。よし、行こう。レヴィア様、どうですかね」
「いいぞ!」
「マクベロン……」
シュテルンが顔をしかめた。
そういえば、こいつが最初に死んだ場所だったな。
あそこには、なんかフレンドリーなお姫様がいたなあ。
あとは、レヴィアの元許婚だった魔導師がいたはず。
「よーし、次はマクベロンだ! ウィドン王国は任せたぞキータス!」
『えっ!?』
いきなり話を振られて、挙動不審になる闇の女神なのであった。
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