第139話 ウィドン王国滞在記
俺は鳥の声で目が覚めた。
どうやら、俺のテントの前で鳥が集会を開いているらしい。
「どれどれ」
俺がニュッとテントから顔をだすと、鳥たちはびっくりして飛び去っていく。
ここは、今まさに復興の真っ最中である、元ウィドン王国、現ウィドン公国とでも呼ぶのか。
レヴィアの兄である、ガーヴィン公爵が治める土地である。
俺はそんな、公爵の屋敷の外でテントに泊まっていた。
俺のテントの隣には、もう一つテントがある。
レヴィアの両足が入り口から突き出していて、ぐうぐうと寝息が聞こえるので、まだ彼女は夢の中だ。
ちなみに。
うちのパーティの他のメンバーは、全員屋敷の中で寝ている。
シュテルンとイヴァリアすら、同室で客間に泊まっているのだ。
仮にも女王であるレヴィアと、ユーティリット連合王国における、魔導師の最高地位にある俺がピンポイントでお外のテント暮らしというわけだ。
「いやあ、いい朝だなあ」
俺は伸びをした。
地面の上に藁を敷いて、その上で爆睡していたのだが、こういう劣悪な環境はやはりよく眠れる。
まるで我が家に帰ってきたようだ。
どうしてレヴィアがああも安らかに眠れているのかは謎だが。
「あっ、おはようウェスカーさん!」
「大魔導様、よく眠れましたか? 本当にごめんなさい。あの人がどうしてもって聞かなくて……。屋敷に泊めたら俺は首を吊るって……」
メリッサと、ウィドン公国の公爵夫人、アレーナが姿を現す。
二人共、バケツを手にしている。
水汲みか。
「フャン」
「ウキー」
「おお、ボンゴレにビアンコもお手伝いか。えらいぞ」
赤猫と白猿を撫でる俺。
そして、アレーナに振り返った。
「ガーヴィンの気持ちは分かる。あいつ、本当にひどいめに遭いまくったからなあ。しかし、女王を外に泊めるのは予想外だった。すごい」
俺は素直に賞賛の言葉を送る。
国家元首を野宿させる公爵!!
物語でも読んだことがないなあ。
「ほ、本当に申し訳ありません! その、あの人、もう本当に死んじゃいそうだったので……!」
「よしよし、アレーナは若いのに立派だねー」
公爵夫人の頭をなでなでするメリッサ。
うん、メリッサも大概すごいな。
ただの村娘が公爵夫人をなでなでするとか。
だが、アレーナは年が近いメリッサに心を許しているようで、何やらホッとした顔で笑う。
「私、メリッサさんがいてくれて本当に助かりました……。その、同じ年頃の女の子って、ほとんどいなくて……」
「ということで、私たち行くね! じゃあねウェスカーさん! レヴィア様よろしくね!」
「おーう。朝ごはんになったら教えてくれー」
俺は足を突き出しているレヴィアのところまで行くと、足の裏をこちょこちょした。
「ほーら女王陛下、朝だぞー」
「む、むむむ……むむ……」
レヴィアがもぞもぞし始めた。
俺はすっと、彼女の足の指をつまんで広げたり畳んだりする。
「むむうーっ! 誰だ、私の足をいじっているのはー」
「俺ですわー。いやあ、足の指もすげえ筋力。いたたたた、挟まれたら指先持っていかれそうだ」
「な、なに!? ウェスカーか! ちょっと待て! 今着替える!」
足がピュッとテントの中に引っ込んだ。
ドタバタと音がして、普段着姿のレヴィアが顔を出す。
「全く。一国の女王の足の裏で遊んで起こすというのはどうなのだ」
「テントから足が突き出してましたからな」
「昨夜は暑くてな……」
屋敷の裏庭でそんな話をする、女王と大魔導である。
井戸の水を汲み、顔を洗った。
「朝飯までの間に、これからの事を決めましょう。ワールドピースに関わる話とかはマリエルとクリストファが詰めてると思うんで」
「ああ。私もたまには為政者らしいことをしなければな」
たまにはと言うか、レヴィア初めての政治っぽい作業かもしれない。
とりあえず、ガーヴィンは見ての通り、病的にレヴィアを嫌っているのでこのまま放置しておくのはよろしくないのでは、という話になる。
立ち話も何なので、屋敷の周囲を歩き回り、今後の計画をたてることにした。
「ここに闇の女神神殿を立ててはどうだ?」
「いいですな」
とりあえず、屋敷の隣りにある空き地はキータスの神殿になることが決定した。
俺は土を成形してレンガ状にし、これを積み上げて仮の神殿を作っておく。
「後でうちの教団員を呼び寄せましょう」
「ウェスカーもすっかり、闇の大神官振りが板についてきたな」
「えっ、そうですか? ハハハ、俺も人の上に立つ責任感とかを覚えたっていうかですね」
次なる場所を求めて、俺たちは歩く。
少し行くと、わいわいと人が集まって市が出来ているではないか。
並んでいる商品をみると、まあ大したものが無い。
「これはひどい品揃えだな」
「まだ復興の途中ですからねえ。流通が滞っているのかもですな」
「ウェスカー、なんとか我が王都からここまで商品を運んだりできないか?」
「運んできても、みんな金がないんじゃないですかね?」
「ふむ……では仕事を作ろう。あの辺り一帯を、闇の女神の聖地としてデザインしてだな。ウェスカーに任せれば一瞬だろうが、これをこの辺りの民にやらせて仕事とするのだ」
「あー、いいですねそれ。どれくらいの規模の工事になるか、今度ラードに計算させましょう」
俺はサラサラとレヴィアの思いつきをメモしておく。
これは、俺の周囲の空間を固定して、世界そのものにメモ書きをするという俺のオリジナル魔法、「“
メモ書きをする以外に使い道は一切ない。
「では、商品はどうする?」
「そうですねえ……。道を直でこの都市まで繋げますかねえ。あっ、クリストファに魔法を撃たせれば綺麗に道ができますよ」
「いいな! 一つ間違えたら森が一つまるごと焼き払われそうだが」
「では、これは朝飯を食ったらやりましょう。いい事は早いうちがいい」
「うむ」
女王と大魔導の決定なので、これは国家の意思ということになる。
今日の俺とレヴィアは、ちょっと冴えているぞ。
今までにない、政治的な事がどんどん思い浮かぶ。
これは、魔王を倒したら、俺たちは女王とその片腕としても上手くやっていけるに違いないな。
その後、メリッサの使いであるチョキが、俺たちを呼びに来た。
朝飯である。
何故か公爵が顔を見せない朝食の場で、俺たちはたらふく食った。
「ねえ、メリッサさん。良かったらこのあと、また旅のお話を聞かせてくれませんか? 私が知らない世界の話ばかりで、本当に楽しくて……」
「うん、いいよ! それじゃあね、次はレヴィア様がゴリラに求婚された話で……」
仲良しになっている。
そう言えば、ゴリラは元気だろうか。
久々に出てきたゴリラの話ということで、レヴィアはどんな顔をしてるかと思ったが。
「クリストファ。この後、森を焼き払って欲しい」
「レヴィア様……? まさか、ついにこの王国に女王の鉄槌を下すと……?」
「そうじゃない! そなたの魔法なら、森を貫通することが出来るだろう。街道を作り、物の流通を楽にする。森を焼き尽くすなよ」
「難しい注文です……」
「あら。レヴィア様は珍しく素晴らしい事をお考えなのですね。わたくしも微力ながらお手をお貸しします。森の延焼を食い止めましょう」
「おお!」
マリエルが加わった。
これで、ウィドン公国復興計画は大きく前進していくことだろう。
俺も闇の女神教団の信者たちを呼び寄せないとな!
「さて、これから忙しくなるぞ!」
「こいつがやる気になると、絶対にろくでもないことになる」
俺の向かいでシュテルンが呟き、イヴァリアがうんうんと頷いたのだった。
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