第132話 闇の女神教団、躍進す
一つの村を傘下に収めたので、その日の内に信者たちを率い、隣村に行く俺たちなのである。
「やー、一瞬だったねえ。キータスちゃん、最初は心配だったけど、ちゃんとやる時はやれる子でお姉さんは安心したよ」
メリッサがお姉さんぶりつつ、闇の女神の頭を撫でる。
撫でながらさり気なく串焼き肉などを与え、餌付けしているあたり抜け目が無い。
「ふふ、メリッサにも妹が出来たようなものだな。しかし、魔物がああも従順になってしまうとはな。流石の私でも、戦意が無い魔物はあまり攻撃しない」
「たまには攻撃するんですな」
「たまにな」
俺はレヴィアとやり取りしながら、キータスをぶら下げて歩いていくのである。
俺たち一行は、次元の縫い目を利用し、海側からオエスツー王国まで侵入した。
そして、即座に闇の女神神殿にて、神官ドバットを味方につけた。
「まさかキータス様が幼女だったとは……。このドバットの目を持ってしても見抜けませなんだ」
灰色の肌をした大男が、しみじみ呟きながら隣を歩いている。
彼の後ろには、闇の女神教団のローブを纏った魔物たちが続いていた。
モヒカンは頭を丸め、スキンヘッドになって大人しくなっている。
ドバット神官としては、人間だから、魔物だから偉いという事は無く、皆等しく闇の女神の愛子であるという主義らしい。
大変結構なことだ。
「ドバットさんの趣味はあれかい? 乳がでかい女なのか?」
「ゼイン殿、あまり直接的に言うものでは……ごほん、まあ千年以上前の若き頃は、そのような事もありましたが、このドバット、例えキータス様がちっこい幼女であったとしても信仰心に微塵の揺らぎもあいたぁ!!」
怖い目をしたメリッサが、チョキに命じてドバットのスネを蹴飛ばさせたようである。
魔物神官が蹲って呻き声をあげる。
「神官様!」
「神官様がやられた!」
「天罰だ!」
「ひいー、女神様お許しをぉ!」
魔物と民衆が、ひれ伏す。
彼らに対し、メリッサは傲然と胸を張り、
「いいかな? 女の子の価値は胸じゃありません!! ハートです!!」
とか言う。キータスも深く深く頷いているので、これはきっと闇の教団にとって一番重要な教義になることだろう。
しかし女神様、串焼き肉をもりもり食べている姿からは威厳も何も感じない。
「女神様、お口にソースがついてますよ」
『んー』
マリエルに口元を拭われている。
「お子様だ」
「神と言っても、人間とメンタリティはそう変わりませんからね。精神年齢は肉体に引っ張られますし」
クリストファは神々の生態に詳しい。
キータスも、ご飯を食べさせたり、甘いものを与えると大人しくなるので、大変に扱いが楽だ。
「よし、そんじゃあまあ、女神様をもり立てて次の村も教化するかあ」
「おー! 大神官ウェスカー様がやる気だ」
「頼もしい!」
信者になった魔物や村人たちが、俺の言葉に歓声を上げる。
すっかりテンションが上り、みんなで「闇の祝福を世界に!」とか唱和しながら隣村に到着したのである。
「と、止まれ、怪しい集団め!!」
そうしたら、いきなり警戒された。
村の入口を守っていた、青年団みたいな連中だな。
きっと、魔物に肉体労働をさせられているのだろう。
「怪しくないぞ。闇の女神の祝福を世界に伝えるためにこうして練り歩いているだけだ」
「そ、それが怪しくなくて何が怪しいというのだ!!」
話が分からん人々だ。
ここは、サクッと話を進めてしまおう。
「よし、ではこれを見ろ。エナジーボルト・
また後光を纏いながらふわりと浮かび上がる俺。
「うわーっ! 飛んだー!」
「女の子を胸元にぶら下げた男が飛んだー!」
「今だ信者たちよ! 強行突破ー!」
俺の指示に従い、信者たちが「うおーっ!」と叫び声を上げた。
とりあえず、相手は傷つけないように言ってあるので、手にしているのは布を巻き付けた棒だ。
これでみんなで押し寄せ、村の青年団の連中を押さえつけて横に転がす。
「なんだなんだ! 満足に門番もできんのか! これだから人間は……ってなんじゃお前らー!?」
飛び出してきた、村の支配者らしき魔物。
これに、信者たちが押し寄せていく。
だが、彼らの中に身を潜めていたレヴィアが襲いかかるほうが明らかに早い。
「あっ、レヴィア様手加減……」
「喰らえいっ!!」
「ウグワーッ!?」
不意打ちからの喉輪落としを喰らい、魔物は脳天から地面に突き刺さって動かなくなった。
「ヒェーッ!!」
村にいた魔物たちが、これを見て震え上がる。
レヴィアが立ち上がり、彼らをじろりと見回す。
「皆さん。皆さんが、闇の女神に従えば、命だけは助けてあげますー」
ここでマリエルが進み出てきて、魔物たちに希望を与えるのである。
レヴィアによる恐怖で心を折り、すかさずマリエルによる優しさで彼らの逃げ場所を作る。
勢い余って親玉をやってしまったのは残念だったが、大体数分で村を制圧できたし良かった事にしよう。
「ほら、キータス様、お仕事だぞー」
『むー、労働の法則ー』
働きたくなさそうな幼女女神をせっついて、魔物たちの中から例のバッジを取り出させる。
どれもこれも、奇妙な魔物を象ったバッジだ。
それを抜き取られた魔物は、まさに憑き物が落ちたようになる。
「頭がスッキリと晴れ渡ったかのようだ……」
「人間たちには済まんことをしたなあ……」
「何もかもキータス様のお陰だ……!」
「洗脳だなあ」
しみじみとゼインが呟くのだが、これに対してマリエルは真顔で否定してくる。
「違いますっ。闇の女神キータス様は、元々魔物たちを庇護する女神なんですよ? だから、彼ら魔物は、本能的にキータス様に従うよう出来ているのです。ですけれど、恐らくそれを魔王オルゴンゾーラが狂わせてしまっている。これは言わば、正常な状態に世界を戻す聖なる旅なのです」
「いや、理屈じゃ分かってるけどよ……ほら」
ゼインが、ひれ伏す魔物たちの前で、後光を纏いつつ空でかっこいいポーズをする俺を指さしている。
何がどうしたというのだろう。
こうやってハッタリをかましておけば、なんだか凄そうだと思った村人も入信するというのに。
「甥っ子はこう……何に関わってもいかがわしくしちまう天才だな」
「それは褒めているのか叔父さん」
「多分お前には褒め言葉だろうなあ」
「ありがとう」
俺は礼を伝えておいた。
最近、ちゃんと必要な時にありがとうを言えるようになったのである。俺は日々成長しているのだ。
何故かゼインが頭を抱えてしまったが。
「ウェスカー、これで二つの村を支配したな。これからどうする?」
「ひとまずここで休んで、明日は別の村を征服しましょうや。そういう事してれば、シュテルンの耳にも届くでしょう。んで、そこから一気に都を攻め落とせばよろしい」
「なんだ、革命の時と変わらんな!」
「宗教がモチベーションになるぶん、俺としてはみんなのやる気が高い気がしますねー。ほら、御本尊がここにぶら下がってますから」
俺の胸元では、メリッサからもらった揚げ菓子をぱくつきながら、大人しくしているキータス。
もしや……この女神、メリッサの五匹目のしもべなのでは……?
「まあいいか。それじゃあ、今日はここで一泊! 明日も元気に布教しよう!」
周囲から、おーっという元気な掛け声が聞こえる。
やる気があって大変結構。
こうして、魔王の支配を免れた魔物を増やしていければ、結果的にシュテルンの戦力を削ることにもなる。
真っ向から首都を襲撃してもいいのだが、正面から戦って逃げられた、オペルクみたいな例もあるからな。
それに……俺は思うのだ。
シュテルンから、あのバッジみたいなのを抜き取ることが出来たら、どうなるのだろう? と。
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