第130話 女王陛下のフォロワーたち
「私たち、レヴィア様のファンなんです!!」
レヴィアみたいな格好をした女の子たちが、わーっと集まってきてレヴィアを囲む。
ついでに俺とメリッサとキータスも囲まれる。
闇の女神キータスは人見知りが激しいらしい。
いきなりたくさんの女の子がやって来て、目を白黒させる。
『な、ななななななな』
「ボンゴレ、もふもふ!」
「フャン!」
ボンゴレがメリッサの指示を受け、小さくなった。
そしてキータスの胸元に飛びつく。
「フャン?」
『あっ、もふもふの法則……』
彼女は現実を忘れるように、ボンゴレの毛を撫で始めた。
ああしてみてると子猫みたいなもんだからなあ。
女の子たちは、ボンゴレの変身を見て、呆然としていた。
そこに声を掛けるレヴィアである。
「一体どういうことなのだ? 私のファンだからそのような姿をしているのか?」
口調は、訝しげなものだが、明らかに言葉の響きがウキウキしてる。
「レヴィア様、嬉しいんでしょ」
「な、な、何を言うウェスカー……!」
ニヤニヤしそうな顔を、必死に精神力で押し留めているレヴィアだ。
「いやいや、だってこれって、明らかにアレでしょ。レヴィア様が今まで地道ィーにやって来た、あの傍若無人な国家を国家とも思わぬアクションがついに実を……! って、あれ? そうすると彼女たち、国をひっくり返す系ガール……?」
「やばい」
メリッサがぽつりと感想を漏らすのが、なかなか味がある。
これを聞いて、血相を変えたのは女の子たちだ。
「ち、違いますー!! 変な勘違いされて国家反逆罪とか言われたら困りますーっ!! 私たち、純粋にレヴィア様のこと素敵だと思って、女王陛下の生き方に憧れてるんです!」
「そうですよ! だから、まずは格好から入るんです!」
「男の人にも、権力にも、魔物にも負けないレヴィア様かっこいい……!!」
また女の子たちが盛り上がり始めた。
「まあまあ、落ち着くのだ。そなたらの気持ちはとても嬉しい。私も意志の力で抑えていなければ、口角が上がってしまいそうだ。これから、詳しい話を聞くとしよう。その前にウェスカー、ちょっと向こうの物陰に」
「へいへい」
レヴィアと二人、物陰に向かう俺であった。
女の子たちの視線から外れ、二人きりになる。
レヴィアがいきなり、俺の肩をぎゅっと掴んできた。あっ、俺の肩を砕くつもりか。いやそんな事はないな。
「どどど、どうしようウェスカー」
「どうしようって、顔がめちゃくちゃニヤけてますよレヴィア様」
「いやいやいや。だって、ここ、こんなのは初めてでだな……! えっ、なに。なにこれ、もしかしてみんなで私を騙そうとしているのか……? だとしたら諸共に殲滅……」
「落ち着いてくれレヴィア様! 大惨劇になる」
「わ、わかった!」
俺は彼女の頬を両手で挟んで、ぶにゅっとする。
おお、顔が非常に熱い。
この人、完全に想定外の状況に放り込まれて頭がオーバーヒートしているんだな。
「状況を整理しましょう。つまり、今までレヴィア様がやって来た、自分を貫くための活動はあの娘たちに見られてたんでしょうねえ」
「見られていたのか……! いや、それ自体は構わんのだが」
「ええ。で、どんな逆境でも信じた道を突き進むレヴィア様がカッコいいと思ってたと。それでついに、国をひっくり返して女王まで上り詰めたものだから、堂々とレヴィア様がカッコいいって気持ちを表に出し始めた……。そういうことだと思うんですねえ」
「そう言うことだったのか……!! いや、私は私で、今まで必死に前だけ向いて生きてきたので、カッコいいとかそんな事、全くわからないんだが」
「そーゆーところじゃないですかね。ってことで、レヴィア様はいつも通り、どーんと構えてりゃいいんです。ほら行きましょう」
俺が彼女の手を引くと、すごい力で引っ張り返された。
「ま、まだ心の準備が……!」
「よし、レヴィア様深呼吸!」
「すう──ッ、はぁ──ッ……!」
目を閉じて、深く息を吸い、吐き出す。
次に目を開けた時、レヴィアの瞳は据わっていた。
「よし、行こう」
「その意気です。おーい、今戻った……」
戻ったら増えてた。
レヴィアみたいなのだけじゃなく、俺みたいな格好をした子どもたちが増えてる。
「ウェスカー導師だ!」
「普通の村人から導師まで成り上がったウェスカー様だ!」
「うおー、かっけー!」
俺はスッと彼らに背中を向け、レヴィアの肩を掴んだ。
「どうしましょう」
「これは、私たちの預かり知らぬところで、何かとんでもない事が起きているのではないか……!?」
「そう言えば最近、王城と旅先の往復ばかりで、城下町は歩いてませんでしたねえ」
「ああ。久々に来たら、以前のようには歩けない環境になっていた……! これは由々しき事態だぞ。一度、城に戻って対策を立てるべきだ」
「そうしましょう」
ということで、俺とレヴィアは城に戻ることにしたのである。
そんな俺達に、メリッサはごく冷静な顔で、
「そりゃあまあ。普通、女王陛下がほいほいと護衛も連れないで街中はぶらつかないと思うんですよねー。しかもお供は色々ときめく噂がある、出世頭の天才魔導師とか。二人とも、絶対そういうの好きな人たちに妄想の材料とか提供しまくってるから」
メリッサの言葉はむつかしいな……!
案の定、レヴィアは何も理解してない顔をしていた。
ボンゴレをもふもふしている闇の女神を連れ、そして俺たちに似た姿をしたファン達をぞろぞろと付き従え、城に戻ってきた俺たちである。
「あっ、また女王陛下とウェスカー導師が変なのいっぱい連れてきた!」
「やめてよー」
門番たちの辛そうな声が聞こえるなあ。
では、ファンたちの足止めは彼らに任せて……っと。
「じゃあ、俺たちは城に戻るのだ! またな!」
俺は彼らに向かって手を振った。
わーっと歓声が上がる。
なんだか不思議な気分だなあ。ここまで他人に肯定的に見られるのは初めてかも知れん。
「じゃあ、直接会議室へ行きましょう。レヴィア様どうぞ」
「ああ」
いつものノリで、レヴィアが俺の身体に掴まる。
すると、女子たちからキャーッと凄い歓声が上がった。
「えーっ」
戸惑うレヴィア。
なんかもう、達観した笑顔を見せるメリッサ。
さりげに俺の尻の辺りにしがみついているキータス。
気を取り直し、俺は飛行魔法で飛ぶことにしたのである。
空まで上ってみると、ファンと言ってもそこまでの数ではない。
せいぜい百人かそこら……。
いやいや、多い。多いぞ。
ファンを名乗る子たちはみんな若者で、俺やレヴィアに近いくらいの世代だ。
どうやら、俺たちが気づかない内に、ああいう団体が作られていたようなのだ。
「これから城下町を歩く時は、変装しなければならんな……。鎧着て外に出るのは辞めておこう……!」
レヴィアが強く決心したのが聞こえた。
戻ってきた俺たちを出迎えたのは、クリストファだった。
「やあ、ちょうどいいところに戻ってきてくれました。え? ファンが増えてた? 何を今さら言っているんですか。結構前から、町にはチラホラとお二人のフォロワーが増えてましたよ?」
知っていたのかクリストファ!
だが、彼の性格からして、黙っている方が面白いと思っていたので教えてくれなかったとのこと。
「そんな事より、今後の方針が決定したんですよ。こちらへ」
クリストファに導かれ、会議場へ入っていく俺たち。
お尻にはキータスをくっつけたままだ。
このままだと、椅子に座る時に邪魔なので、俺は彼女を掴んで肩の上に乗せた。肩車状態である。
『あわわ……! もふ、もふもふ』
いきなりの体勢変更に慌てる闇の女神は、精神の均衡を保つために、一層ボンゴレをもふもふし始める。
「甥っ子、なんでそんな体勢になってるんだ?」
「ウェスカーさんの行動は、いつもよく分かりませんからね」
ゼインとマリエルの言葉を聞きながら、卓上に用意されたお茶を啜る俺なのである。
そこへ、執政官のラードが歩み出てきた。
「女王陛下、ウェスカー導師。先程の会議で今後の方針が決定したので、分かりやすくお伝えします」
「ああ」
レヴィアが重々しく頷いた。
分かりやすいのは助かるな。
「現在、オエスツー王国は未だ、魔王軍の手の中にあることはご存知と思います。ガーヴィン殿下……いや、今は辺境執政官ガーヴィン閣下でした。閣下からの支援要請が来ていましてな。オエスツーに動きあり、と。恐らく、陛下たちの猛烈な動きに、魔王軍も焦っているのでしょう。どんどん封印した世界を解放し、片っ端から魔将を倒しているので」
「なるほどな。それはつまり……あの男が出てくるということか」
レヴィアは顔に笑みを浮かべた。
オエスツー王国には、俺たちの因縁の相手がいるのだ。
魔将、鮮烈のシュテルン。
一度は倒した相手だが、魔博士オペルクの力によって蘇った。
「何度でも倒してやるさ」
「それは心強い! そこでですな。正面から攻めて国を取り戻すのもいいのですが……やはり、陛下たちのやり方はそれよりも、敵地に浸透しての謀略戦であろうという結論に……」
「謀略戦……?」
『ここからはわしが説明しよう。ウェスカーよ。お主が頭に乗せているのは何じゃ?』
光の神ユービキスが俺を指差した。
いや、俺の頭の上か。
「闇の女神キータスですな。小さくてちょうど肩車しやすいサイズです」
『うむ。不敬過ぎるくらい不敬じゃが、お主にそれを言っても何も通用せんことは学んだ……。そして、闇の女神は魔物たちの間でも信奉する者が多いことは知っておるか?』
「そう言えば、オルゴンゾーラが現れる前はそうだったと聞いたことが……」
マリエルが詳しそうだ。
『これを利用するのじゃ。ひょっとすると、魔物の一部を味方につけられるかも知れん。ちょうどそこで、キータスがもふっているアーマーレオパルドのようにな』
「フャン?」
いきなり話を振られたボンゴレが、首を傾げたのであった。
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