第二十章・闇の女神をプロデュース

第129話 女王陛下と闇の女神

 ということで神様を解放した。

 俺が片っ端から、封印っぽいのを開けて回ったのだが、うん、結局のところ鍵はいらなかったな。


『いやー。おぬし本当にでたらめじゃのう』


『神々の法則が乱れる』


 俺の両脇で、キラキラ光る髪をした男の子と、真っ黒な髪をした女の子が交互に言う。

 これ、男の方が光の神。女の子の方が闇の神ね。


『そもそもお主がいると、伏線とか重要なアイテムとか全部いらなくなるじゃろ。それってどうなのかなーとわしは思うんじゃよ……』


『世界の法則が乱れる』


「そう? でも話が早くて良くない?」


「ああ。ウェスカーは凄いぞ。便利なのだ」


 レヴィアがニコニコしながら、俺の背中をバーンと叩いた。



 ここは、神々の世界バイオーンから、元の世界に戻る途中。

 ピースの力を使って、なんだかグネグネとした光の回廊みたいなのを歩いてる最中だ。


「食べた食べたー。神様たちが色々歓迎してくれたね! バイオーンだと、あんまり食べ物の種類がなさそうだから、ご飯の心配してたんだ。でも神様がご飯食べさせてくれるなんてねー! 美味しかったー」


 メリッサが満足げに、まんまるに膨らんだお腹を撫でている。

 彼女は既に歩くことも放棄して、大きくなったボンゴレの上に転がっていた。

 まただんだん、ふとっちょになってきつつあるんじゃないかな……。


「俺は満足だぜ。何せ、女神様を口説くことができたからな! 事が終わったら、ちょっくらバイオーンに行って楽しんでくるぜ!」


「ははは、ゼインはまさに神をも恐れぬ所業ですね。これが私が流した、現在フリーの女神様でなければ今頃は石に変えられていましたよ」


「……どうしてお二人ともそこまで神を恐れない所業ができるんですか……!?」


 ゼインが大変満ち足りた顔をしてるのは、泉の女神様とデートの約束を取り付けたんだと。

 彼女が今のところお相手がいないという情報、神をも恐れぬ神懸り、クリストファからの情報である。

 ちなみに、この二人の会話をたしなめているように見えるマリエルだが、美の女神様からもらった美容グッズを、ほくほく顔で籠いっぱいに抱えている。


「ウキッ」


 おサルの声がした。

 俺の足元から、白い子猿が駆け上がってくる。


「おー、ビアンコ。お前、外の世界初めてだっけ」


「ウッキィー」


 こう見えて、白猿神という一応神様な小猿。

 すっかりメリッサに懐いているが、俺にもフレンドリーに接してくる。


「よしよし、バナナ食え、バナナ。あっちの世界はバナナが自生してて最高だよな」


「ムキャホー」


 肩に乗せたビアンコと、二人でバナナを喰らいながら光の道を歩く。


「もむ。なんだかいつもより長いな」


『バイオーンが封印から解き放たれつつあるからじゃよ。こうして、わしらの世界もお前たちの世界と、また一つになるのじゃ』


『魔王の法則が乱れる』


「ねえ、闇の神キータスっていっつもこうなの?」


『そうじゃよ。しゃべる担当はわしじゃからなあ』


 これを聞いて、我らが女王騎士はむむっと唸った。

 あれは大方、闇の女神が引っ込み思案なのは良くないから、一緒にランニングや筋トレをして仲良くなろうと考えているに違いない。


「よし、闇の女神キータスよ。私と一緒に筋トレをしよう」


『!?』


 光と闇の神が目を剥いた。


「ほらあ」


 俺の予想的中である。

 肩の上で、ビアンコが手を叩いて喜ぶ。


「筋トレはいいぞ。私は悩んだ時、上手くいかない時、いつも筋肉を鍛えてきた。そして拳を鍛えた。人と人の関係は、私たちを裏切ることがある。だが筋トレは私たちを裏切らない。これが真理だ……!」


『じょ、常識の法則が乱れる……きゃあっ』


 レヴィアが闇の女神の手を、遠慮なくギュッと掴んだ。

 そして、文字通り光の彼方へと駆け出すのである。

 すごい速度だ。

 キータスの悲鳴が遠ざかっていく。


『か……神をも恐れぬ……!!』


「まあ、うちのレヴィア様は怖いもんないだろうなあ」


 俺は笑いつつ、二本目のバナナを食うのだった。





 光の回廊を抜けると、そこはユーティリット連合王国の王城だった。

 しかも謁見の間である。


「あ、あの、陛下。これには深い事情がですね……」


 あっ、玉座からちょっと腰を浮かせた宰相のリチャードが、レヴィアの前でだらだらと脂汗をかいている。


『王国の、法則が、乱、れる』


 キータスが、そんなリチャードにビシッと指を突きつけた。

 レヴィアにつきあわされて走っていたので、この女神様も汗をだらだらかいていて、肩で息をしている。


 ちなみにレヴィアはキョトンとしていた。


「何を焦っているのだ? 私が留守の間に玉座に座っていただけだろう」


 うちの女王、権力に興味ないからなー。


「いいかレヴィア様。君主の席に座るってのは、権力を奪う気があるみたいに取られるんだよ。こいつはな、女王陛下だけが座っていい椅子なんだ」


「そうだったのか」


「まー、レヴィア様だもんねー。知らないよねー」


「ですが、これでリチャード殿は更迭ですかねえ」


「クリストファがにやにやしてるなあ」


 リチャードの顔が真っ青になっていく。

 革命を先導して、一介の地方貴族から王国の宰相にまで上り詰めた男だ。

 それがちょっと玉座に座ってたのをレヴィアに見られて、出世から転落していきそうになっているという。


 ここでリチャード、サッと立ち上がって膝を突き、渾身の言い訳を放つ。


「待ってください皆さん!! 私が陛下から王位を簒奪しようなんて考えるはずがない……! 命が惜しい……!! だってこの方、私が王位を簒奪して放逐したとしても単身で乗り込んできて、力づくで王座を奪還するでしょう……!!」


「なるほど」


 俺たち全員が納得する返答である。

 レヴィアだけが不思議そうな顔をしている。


「これ、レヴィア様じゃなかったら不敬罪だったねー」


「うちのレヴィア様は不敬罪だけは無いからな」


『神を敬わん女王が不敬罪とかひどいジョークじゃからな……』


「あっはっは、ユービキス今面白い事言ったな!」


「ああっ、ウェスカーさん! 光の神様の背中を馴れ馴れしくバンバン叩いては……!? ああ、でもウェスカーさんですしね」


『ぐわーっ、そこの人魚の女王は常識人っぽいと思ったのじゃが、同類じゃったかぁ……!』


『法則、法則……!』


 みんなで和気あいあいとしていたら、俺たち帰還の報告を受けたらしい、ラードとゼロイド師がやって来た。

 さあ、作戦会議だ。


 ちなみに、俺とレヴィアとメリッサは頭脳労働ができないので、会議への不参加を許された。

 三人と四匹で、連合王国の城下町へ繰り出すわけである。

 あれっ、一人多いぞ。


「ああ、キータスはもっと人が多い所に出るべきだと思ってな! ふふふ、まるで妹ができたような気持ちだ」


『か、神と人の法則……!』


 闇の女神がいる。

 何か抗議している気がするが、この娘の言葉は難しいからわからないね。


 一見すると、メリッサと同い年くらいの長い黒髪の女の子で、ちょっと内気そうなのだ。

 むしろレヴィアの妹みたいなのは、メリッサの方だと思うんだけどなあ。


「うん? どしたのウェスカーさん」


「いやなあ。メリッサはレヴィア様に似てるなーって」


「ひえっ、冗談でもやめてえ」


『ふ、不敬の法則……!?』


 キータスがメリッサの口ぶりに驚愕し、メリッサとレヴィアを交互に見る。

 だが、こういうのはうちの女王陛下、全然気にしないのだ。


「大丈夫だぞ。レヴィア様は心が広いからな」


「広いっていうかレヴィア様大雑把だよね」


「ははは。些細なことは気にしないようにしているのだ」


 豪快な女王陛下と共に道を行くと、人々から声を掛けられる。


「おや、女王陛下に導師様!」


「美味い酒が手に入ったんだよ陛下! 飲んでいかねえか!」


「導師様、新作のスウィーツができたので、メリッサさんと一緒にまた……」


 声を掛けられる度に、あっちにふらふら、こっちにふらふら立ち寄る俺たちなのである。

 お陰で、ちょっと歩くだけで夕方になってしまった。


『く、苦しい……』


「食べ過ぎになって、ついに法則って言わなくなったな」


「歩くの大変そうだから、ボンゴレ、女神様を乗せてあげて」


「フャン!」


 最近、すっかりメリッサ運搬装置と化したボンゴレが、その経験を活かしてキータスを背負う。


『乗り心地……!』


「ボンゴレは女の子を載せることに関してはプロだからね」


 メリッサが得意げに胸を張った。


「メリッサも一緒に乗らないのか?」


「歩くよ! ちょっとは痩せないと……!」


「メリッサ。食べた分は鍛えれば筋肉になるぞ」


「そ、そんなに筋肉いらない……!」


 レヴィアからの提案は、真顔で断るメリッサである。

 そうして、中央広場までやってきた俺たち。

 城下町の門から城門までの、ちょうど中間地点に作った、ここは憩いの空間。


 ここで俺たちは、不思議なものを目にすることになる。

 それは、どこか見たことのあるデザインの鎧と、鎧下を身に着けた女の子たちで……。


「はあっー」


「とぉー」


「あっ、みんな! 女王様だ!」


「レヴィア様!」


「陛下ー!」


 女の子たちがわーっと集まってきた。


「ウェスカーさん」


「うむ」


「レヴィア様がいっぱいいる……」


「いっぱいるなあ……」


 俺たちは、レヴィアの格好をしたたくさんの女の子に包囲されてしまったのである。

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