第128話 神々の島解放!

「ウェスカーさん、海神様のお腹はぽよんぽよんしてるから、あれを利用して加速できそう!」


「よしきた!」


 俺はメリッサの見事なナビゲーションを受け、ぶっ倒れた海神のお腹に着地する。

 おお、凄まじい弾力!!


『ぐべえ』


 ぼよーんっと跳ねると、俺たちが空飛ぶ速さが猛烈に加速された。

 高速で逃げるウィンゲルにすぐさま追いついてしまう。


「げええ!? あなた方は神に対する敬意というものはないのですかっ!?」


「無いことは無い! エナジーボルト!!」


 俺の目が輝く。

 連続して放たれる紫の魔法攻撃を、ウィンゲルは慌ててジグザグに飛び、回避する。

 こいつ、今まで相手をしてきた魔将、魔物の中で、一番速いぞ!

 俺が外した魔法が、全部海神に当たってる気がするが無視だ。


「ええい、この空間ではまだ狭いか! 海神が大きすぎる!」


 ウィンゲルは何事か、呪文を唱えた。

 すると、彼の頭の上に穴みたいなものが開く。

 そこに向かって飛び込む、風の魔将。


「逃げた!」


「任せろ。ワールド・デストラクションだ!」


 俺はウィンゲルが飛び込んだ穴の位置まで行って、空間を砕いた。

 閉じかけようとしていた穴が大きくなる。


「よーし、みんな続けー!」


 俺はまっさきに飛び込む。


「みんな、来て!」


 メリッサの指示に応じて、四匹のお供が飛び込んできた。

 流石に一般の人たちは、ここに飛び込む勇気が無かったらしい。


「よし、今行くぞ!」


 そのかわりに聞き覚えのある女性の声がした。


「おっ、レヴィア様が追いついてきたぞ」


「うわー、ギリギリだったね! でも、次の場所も神様がいるところだったら、レヴィア様に追いつかれて魔将と神様がまるごとやられちゃうかも」


「それは困るな。いや、俺は困らないんだけど、レヴィア様が追いつく前に解決しちゃったほうが面白いだろう」


「そうだね!」


 メリッサがぐっとサムズアップした。

 俺もサムズアップを返す。


 そしてすぐさま、次の空間が開けた。

 今度は一面に薄茶色と緑が満ちた空間だ。

 頭がもじゃもじゃというか、すっごいくせっ毛のでっかい女の人が、寝っ転がりながらお菓子を食べている。


「あれは誰だろう」


「周りの色から見ると、土の女神様かもしれないね」


 そんな感想を言っていると、同時に俺達の頭上の空間が開き、ウィンゲルが飛び出した。


「げえっ!? あなた方、どうしてここにぃっ!? ええい、こうなればここで戦うまで!」


 ウィンゲルはすぐに気を取り直すと、土の女神のもじゃもじゃした髪に突っ込んでいった。


『きゃーっ!? な、なんザマスか!?』


「遅れるな! 俺たちも行くぞー!」


「おー!」


 俺たちももじゃもじゃした髪に突っ込む。


『ぎょえーっ!? なななな、なんなんザマスーっ!?』


 土の女神様の頭の上は、さしずめ複雑に入り組んだ森の中だった。

 髪の色が茶色だったり緑だったりするし、普通に葉っぱが生えているので森にしか見えない。

 この中を掻い潜りながら、ウィンゲルが猛烈な速度で飛ぶ。

 そして時々、俺たちに向かって風の刃を蹴り出してくるのだ。


「あぶね!!」


 俺は体を傾けて、風の刃をやり過ごした。

 後ろで刃が、女神の髪の毛を切り倒している。


「なかなか速いねー。でもこっちには仲間がいるんだよ! ボンゴレ! パンジャ!」


「フャン!」


『キュー!』


 髪の毛から髪の毛を、アーマーレオパルドのボンゴレが渡っていく。

 逆方向からは魔精霊パンジャ。

 回り込んでウィンゲルを足止めするつもりだ。


「さらに隠し玉! ビアンコ!」


「ウッキィー!」


 ビアンコがメリッサのフードから飛び出していく。

 そして空中に至ると、全身に風を纏って加速した。


 流石はもと白猿神、凄まじい飛行能力だ。

 あっという間にウィンゲルに追いつき、後ろから引っこ抜いた女神の髪の毛で、ぺちぺち叩き始める。


「うぐわああああ! ば、バルカーン!! お前はみどもの右腕だったはず……!!」


「ウキ? ムキキ、ムキャホー」


「あれ、“何を言ってるんだい? おいらの右腕はここだよ”って言ってるのね」


 メリッサが解説してくれた。

 なるほど、噛み合ってはいないが、明確にビアンコがこちらに寝返ったことを示す発言だ。

 さらに、横合いからボンゴレが尻尾光線を放ち、ウィンゲルを攻撃する。


「ぬうわあっ!? 同時に!?」


 そして斜め上から、パンジャが光の網を投擲するのである。

 これに、ウィンゲルは真っ向から突っ込み、引っかかる。


「うぎゃーっ! 絡みつく!? こ、こうなれば戻って……!」


 猛烈な勢いで、風の魔将はUターンした。

 だが、そこにも我がパーティが誇る智将メリッサは布石を置いていたのだ!

 女神の頭の入り口で、どーんと構えるのは子オークのチョキ。

 ブタの顔にニヒルな笑みを浮かべながら、背負っていた鉄球発射筒を構える。


「ぶいぶいぶい、ぶぶいー!」


「あれはね、“僕がここで待っていたとは気付かなかったようだな。魔将め、鉄の玉でも食らって地獄に落ちろ”って言ってるの」


「ほー。チョキはボキャブラリが豊かなんだなあ」


 俺はすっかり感心した。

 というか、メリッサは魔物たちの声が、ちゃんと言葉として聞こえているんだなあ。

 その辺り、流石は魔物使いである。

 そして、メリッサの通訳どおり、チョキは筒からばかすかと鉄の玉を発射する。

 真っ直ぐそちらの方向に向かっていたウィンゲルには堪らない。


「おぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」


 まともに鉄球を食らって、こっちにぶっ飛ばされてきた。


「フャーン!」


 ボンゴレが駆け寄ってくる。


「おっ、ボンゴレ、一緒にやるか!」


「フャン!」


「ちなみにメリッサ、ボンゴレは何て言ってるの?」


「フャンって」


「そのまんまか!!」


 ということで、俺はメリッサごとボンゴレに乗り移り、彼の勢いを加速させる。

 飛ばされてくるウィンゲル目掛け、ボンゴレと俺は思いっきり体当たりをぶちかました。


「ウ、ウ、ウグワーッ!! ま、魔王様ーッ!!」


 ウィンゲルは一声叫ぶと、一瞬にしてその全身を、緑の風に変えて砕け散ってしまった。


『キュキュー!』


「ウキキー!」


 飛び上がったパンジャとビアンコが、ウィンゲルの中から吐き出されたらしいピースをキャッチする。

 これで、6つ目のピースだ!


『ひいー! は、早くアタクシの頭から出ていって欲しいザマスー!! お願い出ていってー!!』


 女神様が悲鳴を上げてるから、そろそろ出るとするか。




 女神の頭から外に出ると、レヴィアがガッカリした顔で座っていた。


「せっかく魔将をやっつけられると思ったのに……」


「だってレヴィア様、今のテンションだと魔将ごと神様もやっつけちゃうでしょう」


「そ、そんな事はないぞ! 何事も犠牲はつきものだ!」


「ほらあ」


 隠しきれない本音が出た。


「この世界を管理するウィンゲルが倒されましたから、これで神々も解放されますね。ただ、おそらく大部分の力は魔王によって奪われていますが」


 クリストファはそれだけ語ると、女神の髪のケアをしに行った。

 あそこで散々暴れまわったからなあ。


「神様の力を奪ってるということは、魔王はもしかしてあれかね? それを使って自分の本体を復活させたいのかな」


 俺はそんな事を思いついた。


『その通りじゃよー!! わしじゃ、わしじゃよ。光の神ユービキスじゃ!』


 高いテンションで、小柄な子供みたいなのが出現した。

 何もないように見える空間を、扉みたいに開いているではないか。


「おー、こっちにもいたのか神様!」


『こっちにもというか、お前らがわしの封じられている部屋まで来たんじゃぞ。ということで、ウェスカー。お前が想像した事は正しい! 魔王はわしらの力を使い、復活を果たそうとしておるぞ!』


「ほう!!」


 その言葉を聞いて、今までしおしおっとしていたレヴィアが復活した。

 やる気に満ち満ちている。


「では、さっさと魔王の居場所に……!」


『待つのじゃ! まだ、二つピースが足りんじゃろう』


「オペルクとあのドラゴンかあ。確かに。ピースを全部集めないと、魔王のところに行けないとか?」


『多分』


 曖昧だった。


『まあよい。わしが直接お前たちの世界まで行ってじゃな、今後の対策を立てるために協力しよう』


「なにっ、神様がフランクにあっちの世界行ってもいいのか?」


「歓迎するぞ! なんなら、神様も私たちと一緒に魔王軍と戦おう」


『い、いや、神様と言ってもわしらそこまで強くはないので……。ということで頭脳を貸してやろう……!』


 かくして、神々を解放した俺たち。

 だが、魔王に力を奪われた彼らは特に何もできないらしい。

 そんなわけで、白猿神ビアンコと、光の神ユービキスを仲間に加え、俺たちは帰還するのだった。

 割と最後の戦いが近づいている気がする。

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