第126話 奇襲、ウィンゲル!

「ではいつも通りの力ずくで……。ワールドデストラク」


「むっ!!」


 いきなりレヴィアが走ってきて、俺を突き飛ばした。

 なんだなんだ!? と思ったら、レヴィア目掛けて緑色の風が、刃みたいな形になって襲い掛かるところだった。

 あぶなーいっ。


「ふんっ!!」


 女王陛下、風に向かって頭突きをかまし、粉砕する。


「あっ」


「あっ」


 俺たちと、頭上の何者かが同時に驚きの叫びを上げた。

 風の魔法だろうけど、頭突きで防げるんだなあ。


「馬鹿な……! 今の不意打ちは完璧だったはずです……!!」


 頭上で風が集まり、空中に留まる革の上着姿の男が出現する。

 魔将、血風のウィンゲルである。


「ええい、魔将ともあろうものが不意打ちとは卑怯な。降りてきて私と正々堂々勝負だ」


 レヴィアが拳を振り上げて怒っている。

 いやあ、しかしあれを俺が食らっていたら危ないところだった。

 かなり痛かったはずだぞ。

 レヴィアが野生の勘でこれを察知し、防いだから事なきを得たのだ。


「卑怯とは異な事を仰る。みどもは一人。そちらは多勢に無勢。数で劣る側が策を弄するは当然ではありませんかな?」


 ウィンゲルはそう言うと、肩をすくめた。

 彼の肩に、ちょろちょろっと真っ白な小猿が現れて、同じポーズを取ってウキキッと言う。

 あれはウィンゲルの相方かな?


「白猿神バルカーンです。古来より、風神ウィンゲルの悪友であったと言われています」


「可愛い!!」


 クリストファの解説に、メリッサが感激した。

 バルカーンも、よく考えれば魔物みたいなものか。

 魔物使いのメリッサとしては食指が動くのであろう。


「数など関係ない。私がそなたをぶん殴るのだ!! つべこべ言わずに降りてこーい!」


「むっ、まさかの言葉が通じない系勇者……!!」


 レヴィアの返答を聞き、ウィンゲルは鼻白んだようだ。

 そして、ニヤッと笑うと、俺たちの後ろにわーっと並んだ民衆目掛けて、その足を振り上げる。


「それじゃあ、数を減らしてフェアにしましょうかねっ」


 風の刃が、ウィンゲルの蹴りから生み出される。

 ノリで俺たちについてきた民衆を狙うとは。

 ああ、いや、俺が魔将でも普通に狙うよね。ついつい悪乗りしてみんなでここまでやって来てしまったが、よくよく考えたらこれは大変無用心かもしれない。


「パンジャ!」


『キュー!』


 メリッサに命じられて、魔精霊パンジャは光の網を放った。

 風の刃と網が絡み合い、互いに消滅する。


「今気付きましたが、これはウィンゲルにたくさんの人質を取られたようなものですね」


「あら、本当ですわね!」


「おーい」


 クリストファとマリエルがハッとしたような顔をしていると、力なくゼインが突っ込んだ。


「何、普通の民衆が足手まといとは限らないぞ。みんな一緒に戦おう!」


 俺はとりあえず空中にふわっと浮かびながら、島の人々に呼びかけた。


「ウェスカー神がああ言っておられるんじゃ! わしらも戦うぞ!」


「おー!!」


「神がなんぼのもんじゃー!!」


 神々の島の住人としては大変イケナイ言葉が聞こえたぞ。


「いいぞウェスカー! 私も後ろに乗るぞ!」


 浮かんだ俺の背中に、飛び上がったレヴィアが抱きついてくる。


「おおっ、いつものパターンですな。ところでレヴィア様、俺はさっき新しい技を身に付けまして。もしかするとレヴィア様も飛べるようになるかも」


「なに! やってくれ!!」


 即答するレヴィアである。


「よし、現れよ、幻覚の俺!」


「現れたぞ、本物の俺!」


 俺の横に、もう一人のウェスカーが現れた。


「あっ、ウェスカーが二人に!!」


「きゃあ、ウェスカーさんが一人でも大変なのに二人に!!」


 下からメリッサの悲鳴も聞こえたなあ。


自己像幻覚体ドッペルゲンガーの魔法ですと!? まさか、そんな超高位世界魔法を使いこなすようになっていたとは……!!」


 ウィンゲルがおののいた。

 えっ、この魔法って幻覚の魔法ではなかったのか。


「しかも、本来ならば現れたドッペルゲンガーは、本体である術者と成り代わるために邪悪な企みを働くはず……! そのために制約を課すものと魔王様は仰っていた……」


 ウィンゲル詳しい。

 俺と幻覚の俺は、二人並んで「ほうほう」と頷いた。


「知っていたか幻覚の俺よ」


「初耳だ本物の俺よ。ところで俺を呼んだ理由はなんだい」


「レヴィア様と一体化して飛ばして」


「えっ、レヴィア様とか!? うわ、恥ずかしいなあ」


「そこをなんとか」


「やろう」


「えっ、私とウェスカーが一体化……!? むむむ」


 俺の背中でレヴィアもなんかもじもじしているぞ。

 だが、俺と幻覚の俺との間で、やる事に決まったのだ。

 スウッと幻覚の俺の輪郭が薄くなり、それがレヴィアを包み込む。

 レヴィアの体に、紫の後光が差したようになった。


「おお……浮く……! 体が浮くぞ……!」


「待て待て待て!! なんであなた方は、普通にドッペルゲンガーと協力できてるんですか!? ドッペルゲンガーも物分りが良すぎるでしょう!!」


「そうは言われてもなー」


 紫の後光から俺の声がした。


「御託はいい。行くぞウェスカー!」


 レヴィアがやる気になった。

 そうなれば、俺も、幻覚の俺もやる気になるわけである。


「問答無用ー」


 俺と幻覚の俺が声を合わせ、レヴィアとともにウィンゲルに襲い掛かる。


「ムギャオーッ!!」


 すると、白い小猿のバルカーンが巨大化した。

 俺に掴みかかってくるではないか。


「むうっ! 猿は俺が引き受けますよレヴィア様! レヴィア様は任せたぞ、幻覚の俺!」


「ああ、任せておけ、本物の俺! あちこちふわふわだったり筋肉で硬かったりするから、後で詳しい印象を共有しよう!」


「素晴らしい」


 かくして、俺たちは二手に分かれた。

 俺の目が光り、紫の光線が放たれる。

 これに、バルカーンが口から風を吐き出し、ぶつけ合う。


「フャーン!」


 パンジャに乗っかったボンゴレも浮上してきた。

 尻尾から光線を吐き出し、バルカーンに攻撃する。


「ギャオーッ!!」


 光線を振り払い、暴れるバルカーン。

 彼は俺とボンゴレの挟み撃ちを嫌い、地上に降りた。

 すると、民衆がバルカーンに群がってくる。

 遠くから、ひたすら棒でつんつんし始めるのである。


「ム、ム、ムギャッ!?」


 バルカーンが戸惑った。

 そして、すぐに顔を真っ赤にして怒り、民衆をなぎ払おうとする。

 そこに割り込んだのがゼインとチョキだ。


「ほいさっ! 新型の盾の威力を試すぜ!」


 ゼインが構えたのは、手のひら大のお皿である。

 これが彼の手の甲に浮かび、バルカーンの攻撃にあわせて、光の盾を展開した。

 バチーンッと強烈な衝撃で、ゼインの体が浮く。

 だが、流石はうちの叔父さん。

 攻撃の勢いを自分から飛んで殺しながら、盾の表面で衝撃を受け流していく。


「ぶいーっ!!」


 チョキが鉄球を発射する筒を構えた。

 ばりばりと音を立てて、鉄球が発射される。


「ムギャオーッ!?」


 まさかの強力な反撃に、バルカーンが戸惑う。


「さて、ではレヴィア様の援護は私が行きましょう。マリエルは」


「わたくしは、お猿さんの相手を致しますわね」


 マリエルが水の魔法を呼んだ。

 民衆の事も考えて、細く絞られた水の光線みたいな魔法だ。

 これがバルカーンに当たり、お猿のお尻をピチピチと打った。


「ムギャー!」


 マリエルの背後では、クリストファが空中に光のボードを生み出している。

 彼はこれに飛び乗り、ふわりと浮かび上がった。


「なんだ、クリストファ飛べたのか」


「いえ、これは最近開発したんですよ。ウェスカーばかり飛べてずるいじゃないですか」


「何気に負けず嫌いだなあ」


「そうだったんですよ。やっと気付きましたか?」


 神懸りは、空中で激戦を繰り広げる、レヴィアとウィンゲルの戦いに参戦する。

 さて、俺もサクサクお猿をやっつけて、レヴィアを助けに行かねばだぞ。

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