第125話 捜索、神々の封印
「結構暴れたと思ったけど、ウィンゲル出てこないなー」
俺は服を着ながら呟いた。
「そうだねー。魔将もこれで五人目だし、私たちの事分かってるからじゃないかなあ」
メリッサは俺の着替えを手伝ってくれている。
俺はパンツは後でいいと思っていたのだが、真っ先に穿けとうるさいのである。
ということで、俺がパンツを穿く代わりに、ローブを掛けてもらうことにしたのだ。
「メリッサも甥っ子の裸を見ても全く動じねえなあ」
「慣れたんでしょうねえ」
「あの年で男の裸に慣れるのはどうかとおじさんは思うなあ」
「ウェスカーの裸ですし問題ないんじゃないでしょうかねえ」
後ろで何やら、ゼインとクリストファがペチャペチャ話し合っている。
「もうパンツは穿いたか? 穿いたな?」
何故か隠れていたレヴィアが出てきた。
マリエルも一緒で、彼女たちの後ろには、ぞろぞろとこの島の住人が続いている。
「やはり下半身は先に隠さねばダメですか。開放感があって気持ちいいのですが」
「だ、だめだ!」
レヴィアが否定してきた。
仕方ないなあ。
「それはともかくだ! ウェスカー、魔将が出てこなかったからには、こちらから探しに行くというのはどうだ」
「おっ、積極的に行くわけですね。いいですな」
「す、凄い……! 我らは今まで一方的にやられるばかりでしたが、ウェスカー様とお仲間が来てくださったおかげで、ついに反撃に出られる……!!」
ラビット老人を始め、現地の人々も乗り気になった。
ということで、俺たち。
今までに無い大人数での進軍が始まったのである。
わいわいと、みんなでお弁当を用意し、出かけていく。
「よし、じゃあ俺が素人でも戦える簡単なやり方を教えてやる。長い棒を持ってだな。そう、ただの棒。ひたすら相手を突け! 棒なら仲間に当たってもそこまで致命的にはならんし、長物で突く動きなら、仲間に当たるということもそうそう無い!」
ゼインの教えを受け、こぞって長い棒を手にする民衆。
俺たちは、傍から見るとちょっと愉快な一行になった。
俺とレヴィアが戦闘をのしのし歩き、後をクリストファとマリエル。メリッサがボンゴレにまたがり、パンジャとチョキを引き連れる。
ゼインが先導し、民衆が棒を立てた状態で後に続く。
「この島は、上に向かって縦に伸びているんです。普通に見てると分からないのですが、『階段』があるところまで行くと、上の層が見えるようになってきます。本当は神懸り以外は入ってはいかんのですが……」
ラビット老人、チラッとクリストファを見る。
現役で神懸りの彼は、にっこりと微笑んで頷いた。
「いいに決まっているじゃないですか。慣例は壊すためにあるのです」
「クリストファさんは何気に常に破天荒ですわよね」
「えっ、そうですか?」
型破りな事に自覚のない神懸りの許可をもらい、みんなが上の層へと上がるのである。
ラビット老人の言う通り、柱があると言われたところにやってくる、いきなり目の前に白く透き通った柱が出現した。
眼の前には、ガラスでできてるみたいな階段がある。
これを登っていくのだ。
一歩踏み出すと、澄んだ音がした。
「本当にガラスの階段みたいだなこれ」
「ほう、どれどれ」
レヴィアが踵で、がんっと蹴った。
すると、ピシッという音がする。
レヴィアとクリストファを除く全員が、あっ! と叫んでしまった。
「レヴィア様、それやると階段砕けません?」
「何? 神のところに行く階段なのだから、丈夫だと思うのだが……」
「レヴィア様の場合、シャレになんないから! 万一割れちゃったら大変でしょー……!」
メリッサ、ぷんぷんである。
ちょっとレヴィアがしゅんとなった。
最近のメリッサは、ある意味このパーティ最強だな。
「大丈夫ですよ。この階段は、神々の魔力が作り出しています。彼らは封印されたとは言え、それでも膨大な魔力をこちらに送り込み、この世界を成立させているのです。例えレヴィア様が壊しても、すぐに元通りになりますよ」
「そうか、そうなんだな!」
「おっ、レヴィア様元気になりましたね。でも、普通に登っていきましょう。今回は俺たちだけじゃなく、後ろにたくさんいるので」
「そうであったな!」
俺は背後の民衆に向かい、宣言した。
「では、俺たちが先に行くので、順番に後をついてくるのだ。魔将狩りに行くぞー!」
おおーっ! という力強い返事が響き渡る。
なんか気分がいいな。
俺、この世界だと神様扱いだからな。
ちょっと楽しくなって、鼻歌歌いながらスキップで階段を登る。
「あっ! ウェスカー様が鼻歌スキップで階段を……!」
「何かの儀式だろうか」
「我らも真似をしてみよう」
ということで、大集団が鼻歌スキップで神々の階段を登っていくという光景が爆誕した。
壮観である。
最初はぎこちなかったり、お年を召した方々は辛そうだったりしたが、徐々に自分のペースを掴んできたようだ。
階段から透明な廊下に移った頃には、みんなちゃんと鼻歌スキップをしている。
これは……俺も止めどころを見失ったぞ……!!
「ウェスカーさん、やめ、やめよう、それやめよう。なんか私、凄い恐ろしい光景が展開されてる気がしてならない!」
「メリッサよ。人を導く立場になると分かるぞ。自分の意思で止まることはできないんだ。一度動き出した時代の流れというものは、もはや人一人の手には負えない……!」
「いやいやいや! 鼻歌スキップだよね!?」
「メリッサは正気でいるから恥ずかしい気がするのだろう。メリッサもボンゴレから降りてやってみよう。ほら、俺の横に並んで」
「ええー……」
「仕草は、こう!」
「こう?」
「いい動きだ!」
「そ、そう!?」
二人並んでスキップしてみる。
以前ならば、そこまで運動神経が良くなかったメリッサだが、今はキレッキレな体の動きである。
これまで、この年頃の女の子としてはありえないくらいの数の死地をくぐったからなー。
魔物使いではあっても、メリッサ本人は普通の女の子という状態で、よくぞ今まで無事にくぐり抜けてきたものだ。
その中で、どうやらメリッサの身体能力は磨き抜かれてしまったらしい。
「ぶいっ」
チョキがメリッサの真似をしようとして、ちょいーんとステップし始めた。
そして一歩目で転んだ。
「ぶぎー」
「チョキさんはその重武装でスキップは止めたほうがいいんじゃないでしょうか? ……って、遅かったですねえ」
チョキはマリエルに抱き上げられた。
腰や背中に、例の鉄球を発射する筒や、スイッチを押すとビリビリ痺れさせる槍を付けているが、それをやすやすと抱き上げるマリエルも何気に腕力がある。
うちの女子たちは、フィジカルが強いのかもしれないな。
結局、俺たちはスキップ鼻歌で突き進んだのだが、どうやら魔物も俺たちの行進に恐れをなしたか、誰も現れない。
そうこうするうちに、目の前には大きな扉が出現していた。
「これは、神々の封印の一つですね。全ての封印の鍵はウィンゲルが持っているはずです」
見上げるような大きさの扉だ。
取っ手は、俺が背伸びしても届くか届かないか分からないところにある。
すると、俺の隣までマリエルが進み出てきて、くんくんと鼻を動かした。
「ソーンテックの海の香りがします。これは、海神ザイレムン様が封印されている場所と見ます」
「海神ということは、マリエルの知り合い?」
「はい。私の主君みたいな方です。体が大きな方なので、このように扉も大きいのですね」
「なるほどー。じゃ、助けちゃう?」
俺がぐねぐねと身構えた。
「そうですね……! 本来ならウィンゲルの鍵が必要ですが、ウェスカーならそういう常識を吹き飛ばしていけるかもしれません……!」
「まあ! それじゃあ、是非やってください、ウェスカーさん!」
クリストファとマリエルが盛り上がる。
レヴィアを見たら、彼女もグッと親指を立てた。
「魔王が施した封印がどれほどのものか。力尽くで打ち破れ、ウェスカー!」
「ほいさ!」
俺は両手に魔力を込める。
さて、見せてもらおうか、魔王の施した封印の強さとやらを。
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