第124話 ウェスカー、神々の島で空中戦をする
「何をしとるかーっ!!」
どでかい叫び声が聞こえた。
上を見上げると、何やら大変おおきな柱みたいなのが突っ立っており、それがどこまでもどこまでも伸びている。
柱の周りにはピカピカ光る雲がくっついていて、そこから赤と緑の魔物が降りてくるではないか。
「毛の少ないゴリラだ!」
俺が彼らをそう表現すると、魔物たちは大変怒った。
「誰がゴリラかーっ!? わしら、腕と脛と胸と腹と股にしか毛は無いわ!!」
「多い多い」
やって来たのは、腰巻き一丁に、小さな太鼓をたくさん連ねたものを背負った赤い魔物と、腰巻き一丁に、びゅうびゅう風を吹き出す袋を持った緑色の魔物だ。
人間の姿に近いが、体の大きさが俺の倍くらいある。
彼らはスーッと降りてきて、俺を威嚇しようとし、俺が全裸なのを見てびっくりした。
「あっ、兄者、こいつ裸だよ!」
「なにっ、頭がおかしいんじゃないのか!!」
「失敬な!」
俺はぷかーっと浮かび、全身を紫色に光らせて彼らを威嚇した。
赤と緑の魔物、それを見ておののく。赤いほうが兄者らしい。
「ウワーッ!! 全身ピッカピカに光ったー!!」
「兄者怖いよこいつ! 本当に神様なんじゃないか!!」
「このおかしさ、神様かもしれない……! こうなれば弟よ、俺たちだけでは荷が重いかもしれん! 雷獣と
赤い魔物が、太鼓をガンガン叩き始める。
すると、そこからバリバリと稲光が走り、それが大きなイタチみたいな動物に変わった。たくさん出てくる。
緑の魔物は、あちこちに向けて袋の口から風を放つ。風は腕が鎌になったイタチみたいな動物になり、やっぱりたくさん出てくる。
「おお、魔物も大量に出てきたな。こうでなくては」
レヴィアが嬉しそうである。
メリッサの周りには三匹のお供が既に展開しているし、ゼインもいつも通りの全身武器だらけ。
クリストファとマリエルは自然体で、いつでも魔法を使うことができる。
という事で、この世界の人たちと交流するよりも魔物をやっつける方が楽な俺たちである。
早速戦闘を開始することにした。
ピューッと俺が空を飛ぶ。
迎え撃つ、赤と緑の魔物。
「兄者、来たよ! ええい、風を喰らえ!」
「うおー!」
俺は風に押されて吹っ飛んだ。
猛烈な風だ。
あれはまともに受けたら、下手をすると世界の果てまで吹き飛ばされてしまうな。
対策を考え……そうだ、まともに風を受けなきゃいいんじゃね?
それに向こうは二人だ。俺も二人になればいいのだ。
「よし、幻覚よ出てこーい」
俺は久々に、幻を作り出す魔法を使った。
すると、
「ほいほーい」
返事をしながら幻覚が出現する。
「幻覚のウェスカーよ。俺は赤い方をやるので緑の方をお願い」
「待つのだ本物のウェスカーよ。幻覚と言えど風で吹き飛ばされるかもしれないから怖い。ここは厳正にじゃんけんで決めるべきではないか」
「それもそうか」
俺と幻覚はじゃんけんをし、それに勝った幻覚が赤い雷使いの魔物と戦うことになった。
さあ、俺は緑の風の魔物と戦う……あれっ? 何かおかしいような。
しかし、俺が作る幻はよく喋るなあ。
「よーし魔物どもよ。俺たちが相手だあ」
「げえっ、光る裸が二人!!」
「怖いよ兄者!!」
「どちらが本物か分かるまい! 行くぞ!」
「えっ、片方は偽物なのか!?」
なにっ、なんで分かったんだ。
まあいい。
本物の俺に気付かれる前に、俺がこの厄介な風の魔物を倒してしまえばいいんだ。
今の俺は本物だから、この風を受けたって吹き飛ば……。
「本物が風を受けたらダメじゃないか」
「何をぶつぶつ言っている! 風を喰らえ!!」
びゅーっと風が吹いてきた。
「うわー、待て待て! ええい、とりあえず
俺の全身からも風が吹き出した。
紫色の光が乗った風なので、大変に禍々しく見える。
「ひい、紫の風が!! 毒の風か!? こ、この化け物めえ!!」
魔物が青ざめて俺を罵る。
「いや、多分こう、ピカピカ光るだけの風なんだが……。ほれ」
俺が魔力を込めると、放たれた風が紫色に点滅する。
魔物の風と俺の風がぶつかりあい、俺たちの中間には竜巻みたいな者が生まれるが、それがあちこちピカピカ光っていてとても幻想的だ。
「ば、馬鹿な……! 風の化身であるこの風魔を相手にして、互角に風を使いながらなおも光らせる余裕があるだと……! なんて禍々しい光だ……!!」
「ほう、この状態がちょうど互角なんだな。ではそっちは無防備だということだ! 喰らえエナジーボルト!!」
俺の目がピカピカと輝き、放ち慣れた紫の閃光を撃つ。
「なにいっ!? 二つの魔法を同時に使いながら、さらに別に魔法をつか……ウグワーッ!!」
緑の魔物が弾き飛ばされた。
俺の勝利である。
向こうでは、赤い魔物も「ウグワーッ」とか叫びながら弾き飛ばされて行っていた。
おお、幻覚の俺もいい仕事をする。
「戻ったぞ、本物の俺」
「お疲れ、幻覚の俺」
「では再び合身だ!」
「うむ」
俺と幻覚は一つに合わさった。
すると、なんかいつもよりも調子がいいではないか。
「さて、それでは一気に行くぞ」
俺は、俺が考えたかっこいいポーズをした。
なんだか、幻覚が遅れてついてきて、まるで残像ができているように見える。
「右手からエナジーボルト!」
「幻覚の右手からもエナジーボルト!」
「そして左手からエナジーボルト!」
「幻覚も左手からエナジーボルト!」
「四つ合わせて捻って、スパイラルエナジーボルトだ!!」
二人になった俺が、気合を入れて放つ得意魔法である。
紫の光が四つ放たれ、それが一つにより合わさり、ぐねぐねとねじれて突き進み始める。
「く、来るなー!! 雷よ! 雷獣よ!」
「風よ! 鎌鼬よ!!」
赤と緑の魔物は、いい感じで一箇所にまとまり、雷や風や部下の魔物を繰り出してくる。
これを、俺のねじねじエナジーボルトが真っ向から食い破り、もりもりと突き進む。
「こ、これは何だっ」
「ばかなー! ウィンゲル様ーっ!!」
ねじりん棒なエナジーボルトは、ゆっくりと魔物たちに炸裂。
悲鳴ごと、彼らを飲み込んでいったのだった。
「割とゆっくりな魔法だったが、当たるもんだなあ」
「うむ、俺と本物が放った魔法は、なんか周りの空間ごとねじねじしながら進んでたからな」
「逃げられなかったのか」
「そゆこと」
俺と幻は再び分かれ、互いに納得しあった。
そうこうしていると、幻が薄くなってくるではないか。
「おっと、制限時間のようだ。ではな、本物の俺」
「助かったぞ、幻覚の俺」
俺たちはサムズアップを交わし合い、そして本物の俺が一人残ったのである。
さーて、地上の戦いはどうなってるかなー。
俺が見に行ってみると、まあ展開は分かっちゃいたが一方的だった。
この島の住人たちは、戦場の周りでわあわあとこちらを応援している。
クリストファの魔法が魔物たちの攻撃を防ぎ、マリエルが敵を薙ぎ払う。
ゼインは次々に武器を繰り出して魔物を仕留めて、メリッサを乗せたボンゴレと、パンジャ、チョキがコンビネーションで魔物の群れを打ち破る。
で、レヴィアだ。
襲いかかる魔物を片手間に、キックやパンチで叩き潰し、利き腕は抜いた剣を構えている。
剣を投げる気なのだ。
「レヴィア様の前に敵を集めましょう」
「よーし、お前ら、あっちに行け、あっちに!」
「みんなー! そういうことだからねー!」
「フャン!」『キュー!』「ぶいー!」
「では、わたくしも風の魔法で敵を集めますわね!」
うちのパーティが、群がる敵を一箇所へと追い詰めていく。
ついに、敵が団子になったところで、レヴィアは剣を解き放った。
それは敵の集まりに炸裂すると、大爆発を引き起こした。
危うく野次馬していた民衆が巻き込まれるところだったので、クリストファが魔法で障壁を張る。
俺も、障壁っぽいものを作って衝撃波を緩和しといた。
「やあ、圧倒的ですな」
「うむ。下級の魔物であったから、素早く片付いたな。それで、ウェスカー」
「なんです?」
「今度は上級の魔物も、独り占めしないで私を連れてくように……!」
がっしりと、ちょっと怒ってるレヴィアに肩を掴まれてしまったのだった。
「それにはレヴィア様も飛ばないとですな」
「そうか!! 私も飛べばいいのだな!」
「またウェスカーさんが、レヴィア様にいらない事を吹き込んでる……!!」
メリッサが人聞きの悪い事を言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます