第123話 神々の島の無垢な人たち、大魔導と遭遇してしまう

「うわっ、私が玉座に座っているぞ。気持ち悪いなあ」


「あれがゼロイド師の作り上げた傀儡魔法でしょうな。レヴィア様にそっくりだ」


 今は、謁見の間は人払いがされている。


「やあ女王陛下、そしてウェスカー導師。お早いお帰りだね」


 出迎えてくれたのはゼロイド師だ。

 連合王国宰相のリチャードと、執政官であるラードの姿はない。

 忙しいんだろうな。

 本来レヴィアがやるところ、全部やってるわけだしな。


「ゼロイド師。預けていたピースを出してくれ。私たちはこれから、神々を解放に向かう」


「神々を!? これはまた、大きく出ましたなあ」


「大きいぞ。何せ次に相手にする魔将は元々神様だった相手だもの」


「ほおー! なんで、こう、あなたたちは楽しそうな状況に巻き込まれていくのだろうなあ! 私もあと十年若ければ、一緒に参加していただろうに……」


 しみじみ呟きながら、ゼロイド師は懐からワールドピースを取り出した。


「えっ、ずっと肌身離さず持ってたの」


「ああ。この世界の命運を握っているような気持ちになれるんだ。年甲斐も無く、毎日がトキメキの連続になるぞ」


「フシギな趣味だ」


「それはウェスカー。君が自らの力だけで、世界の命運を握る場所に立っているから分からないのだよ。私のような凡人は、こうして君たちが得てきた成果を肌身離さず預かることしかできない。それで、君たちが紡ぐ物語に少しでも関っていられること。これが楽しくてたまらないのだよ」


「なるほどー」


 そういうものなのだろう。

 俺はやろうと思うと大体魔法でできるので、魔法でできない人の気持ちを考えていなかったぞ。

 ゼロイド師のように折り合いをつけることもあるのだなあ。


「だそうですよレヴィア様」


「そうかそうか。ゼロイド師、いいか。ままならぬ時は、力で押し通るのだ。最初は叶わないが、何度も押し通ろうとするうちに、このウェスカーのように共に押し通る者が現れる。二人ということは、つまり1+1だ。2になるのではないぞ。いきなりそれを飛び越えて百になるのだ! なんと十倍だぞ!」


「レヴィア様いいこと言った」


 俺は拍手喝采する。

 だが、事の成り行きを見守っている背後の仲間たちは、皆一様に生暖かい微笑をたたえているだけだ。


「女王陛下、百は十倍ではなく二の五十ば……」


「しーっ!」


 メリッサが、黙っといてあげて! という仕草をした。

 さあ、盛り上がってきたところで、ピースを使ってみよう。





 六回目ともなれば、慣れたものである。

 クリストファがむにゃむにゃと詠唱を行い、俺たちは光に包まれた。

 あっという間に、世界と世界の間を移動する。

 到着したのは白い世界だった。

 視界一面の白。

 地面はさらさらとした真っ白な砂。

 周囲に生えている木々は幹も真っ白。

 建っている家も白ければ、歩き回る人々の服装も白。


「やあ、懐かしいですね。神々の世界バイオーン。私の故郷です」


 周囲を行く人々は、俺たちがいきなり出現したのでびっくりしている。

 遠巻きにして、近寄ってこない。


「クリストファ、どうなのこれ」


「彼らは長い間、魔王によってこの世界に閉じ込められているのです。外から来た人間を知らないのでしょう。私は彼らの中でも、変わり者だったのですよ」


「うん、クリストファさんが変わってるのは私もよく分かるなあ」


 メリッサガ同意したら、クリストファの笑顔がちょっと引きつった。

 さて、どうやってこの辺の人々にアプローチしたものか。

 俺はちょっと考えて、いいアイディアを思いついた。


「みんな、ちょっと見ててくれ」


 俺は言うなり、身に付けたローブをバサーッと脱ぎ捨てた。

 周囲の人々が、オオーッとどよめく。

 次に俺は、上着とズボンを脱ぐ。

 周囲の人々が、オオーッ? とどよめく。

 そして俺は、下着を脱ぎ捨てて全裸になった。

 周囲の人々が、ヒエーッ! とどよめく。


「よし、エナジーボルトだ!!」


 俺は全身にエナジーボルトをまとう。

 すると、俺は周囲の白さを押しつぶすほど強烈に、紫色に光りだした。

 そのまま、フワーッと宙に浮いてみる。


「ウワーッ!」


「飛んだ!」


「光ってる!」


「全裸が飛んで光ってる!!」


 俺は空中で腕組みして、仁王立ちになった。

 そのまま、くるくると縦回転してみせる。

 またも、人々がどよめく。

 俺はピタリ、と回転を止めた。

 そして口を開く。


「我は神なり! なんつってな」


 その瞬間である。

 俺を見上げて、ポカーンと口を開けていた彼ら。

 一斉にひざまずいたではないか。


「神が!」


「封印されていない神が現れた!」


「おお、神よ!」


「名も知らぬ神よ、我らを救いたまええええ」


 うおーっと怒号のような祈りが響き始めた。

 期待されてしまうと、応えないわけには行くまい。

 俺はサービス精神を発揮して、またくるくると空中で回転を始めた。


「……ねえクリストファさん。この世界の人たちって……」


「はい、ご想像の通り、疑うということを知りません。無垢と言えばそれまでですが、神々が、良き民であれと作った教義が、彼らにとってあらゆる規範となっているのです」


「なるほどな。それでウェスカーが神か」


 レヴィアが目を細めて、俺を見上げている。


「神は神でも、全裸で紫に光って高速回転にひねりも加えてやがる。ありゃ邪神だな邪神」


「ですが、可愛い邪神ではありませんか」


 仲間たちが好き勝手な感想を言う。


「待つのだ。邪神ってこんな感じなのか?」


 状況確認のために、俺は回転をやめて地上に降りてくる。

 すると、ひれ伏していた人々も立ち上がった。

 彼らの人波が割れ、一人の老人が歩み出てくる。


「外なる世界へ向かった、神懸かりクリストファを伴いこの世界を訪れた神よ……! 私は聖なる大地バイオーンの長、ラビット。あなたが我らに救いをもたらす神なのかどうかを聞きたいのです」


 彼はうやうやしく、俺の前に膝を付く。

 俺はレヴィアから受け取ったパンツを履きながら、答えた。


「おう、助けるぞ。神様も全員解放する」


「おお、おおおおおお────!! ま、ま、真か!! 真に、神々をお救い下さるのか!!」


「そうだぞ。全員助けた上で魔将ウィンゲルをぶっ飛ばすぞ。魔王も倒すぞ」


「うおわおおおおおおおお!!」


 衝撃と喜びのあまり、ラビット老人は立ち上がり、天を仰ぎながら踊りだした。


「ラビット!」


「どうなさったのですラビット!」


「皆のもの!! このお方は、この神は我らをお救い下さるそうだ!! 封じられた我らが神々を解放し、悪しき神ウィンゲルを倒し、魔王をも退けると!」


 ラビットの言葉が放たれた瞬間、周囲の人たちは一瞬黙りこくり、目を見開く。

 そして、次には一斉に腕を天に突き上げ、うおおおおおおおおおおお──────!! と叫びながら踊りだした。


「すげえ! この世界の人たちは陽気なんだなー」


「いえいえ。私とて、ここまでの効果をもたらすことはできませんよ。絶望に沈んでいた彼らに、希望を与えるというよりは叩きつけ、その上彼らが最も切望していることを一言で約束したウェスカーが凄いのです」


 俺が感心すると、クリストファが実に愉快そうに返してきた。

 クリスファが、そんなに嬉しそうにニヤニヤするのを初めて見た。


「どうやら、この世界における彼らの希望は、ウェスカー。そなたのようだな」


 レヴィアが俺の肩を叩く。


「さあ名乗ってやるがいい」


「おっ、そう言えば名乗ってませんでしたね。おーいみんな。俺はウェスカーだ。よろしくな!」


 俺の名を聞いた人々は、うわあ────!! と盛り上がった。


「ウェスカー様!!」


「救いの神ウェスカー様!」


「これで我々は救われるんだ!」


「信じててよかった! ちょっとこんな信心無駄じゃないかな、なんて思ったけど信じ続けててよかった!」


「今一人、本音が漏れたな」


 そんなわけで、新たな世界バイオーンで、住民たちと仲良くなった俺たち。

 しかし、こんな馬鹿騒ぎを敵が見逃すはずがないのであった。

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