第十九章・神様に一番近い島
第122話 目指すは神々の島
ということで。
俺とレヴィアはササッと元の世界に帰って来て、マリエルとメリッサとパンジャとチョキを連れ、砂浜に戻った。
で、ハブーの住民たちに今回のバカンスの終了を告げたのである。
ちょうど日没時だったので、タイミングも良かった。
みんなわいわいとハブーに戻り、蒸気船は元来た航路を帰り始めた。
「ついに神様と戦うのか……。ってか、魔王は神様まで味方につけててとんでもねえな」
すっかりリフレッシュしたらしいゼイン。
俺は乗り気じゃないぜ、見たいなポーズを取りながらも、その顔は満更でもない。
「叔父さんは楽しげに見えるが」
「そりゃあ甥っ子。俺も若い頃は慢心してて最強の戦士だって自負してたからな。その時に抱いた夢が、神様と殴り合って勝つ、だ。まさか今になって挑戦できるとはなあ」
「ゼインさんがなんか変なこと言ってる!! ゼインさんがそっち側にいったら、突っ込みは私一人だよ! 帰って来て!」
「いや、俺は断じて、女王陛下や甥っ子と同じ立ち位置になったつもりはねえから」
「本当?」
「本当だ。というかあれは特別だ。一緒にされると俺の命がいくらあっても足りん……」
「そうだね!」
ゼインとメリッサが、何やら分かり合っているぞ。
「んで、クリストファの意見を聞きたいところだ」
俺は二人は放っておいて、明らかに今回の事情に詳しそうな神懸りに話を振った。
彼は上に青いフードつきの上着を羽織った状態で、なんか船べりに腰掛けて風を受けてたりするのだ。
かっこいい気がしたので、俺も真似をしてみた。
スッと船べりに腰掛けると、そこが偶然しっとり濡れていてつるりと滑る。
「うわー」
海に落ちる俺。
すっかりびしょびしょになりつつ、空を飛んで帰還である。
「ウェスカー、実はこの船べりはとても滑ります。危険です」
「落ちる前に言って欲しかったなあ」
俺は船べりから他の住民が落ちないように、魔法を使って柵を作る。
明らかに使ったことがない類の魔法だが、まあスルスル使えるね。
あっという間に、船べりをぐるりと、金属製の柵が覆った。柵は俺の魔力で維持されているが、これをハブーに内臓された魔力と直結させる。
これでよし、と。
「で、クリストファ」
「ええ、そうでしたね。ウィンゲル。私もつい失念していました。それは、先代の風の神の名前です。私が生まれるよりも前に消滅してしまったと聞かされていたのですが……まさか魔王に寝返っていたとは」
「ここ最近ヘラヘラしてるだけだったクリストファが真面目な顔してる」
「そう言えば、クリストファは真面目な顔もできるのだったな」
俺とレヴィアが感心した。
なんか、メリッサとゼインが向こうで何かジェスチャーをしている。
「ウェスカー、あれは何と言っているのだ?」
「いらんこと言うなって言ってますね」
「でも、クリストファさんは何も気にせず一人語りしてますわねえ」
マリエルがおっとりと指摘した通り、誰も聞いてないのにクリストファはつらつらと今までの半生の話などをしていた。
ええーと、何だって?
「ということで、私はウィンゲルの事をさっぱり知らないのですよ、はっはっは」
メリッサとゼインがずるっと崩れ落ちた。
ノリがいいひとたちだ……!
「じゃあ、行ってみないと分からないということだな。なんだ、いつも通りじゃないか」
レヴィアの言うとおりである。
俺たちは常にぶっつけ本番なので、今回も何も調べないで神々の世界とやらに突撃するのもやぶさかではない。
「ということで、分からない事を不安がっていても仕方ないので、いつも通り行こう。みんな有能だからなんとかなる」
「あっ、ウェスカーさんが断言した」
「今まで何とかしてきた男の言葉は重いな」
「こういう時はウェスカーさんは頼りになりますね」
「ウェスカーそのものが、相手からするとよく分からないものですからね」
おっ、仲間たちからの的確な言葉が。
ちなみにレヴィアは何も言わず、嬉しそうにニコニコしていたのだった。
ハブーは俺の魔力を使い、マウザー島からの戻りの航路を猛烈な速度で走った。
その頃には、ハブーの住民たちもすっかり高速航行に慣れ、船上で日常生活を送るようになっていた。
「そっかー。もうウェスカーたち行っちゃうのかあ……。忙しいんだな」
アナベルが、がっかりしている。
「魔王軍がいる限り、私たちには立ち止まっている暇など無いからな!」
「たまに海水浴とかするけど、まあ生き急いでるからな俺たち」
ほんの数日で、ハブーはエフエクスと四王国を繋ぐ場所まで帰って来る。
再び、蒸気船は鋼の巨大な橋になるのだ。
アナベルたちと別れて船を下りると、既にソファゴーレムが荷車をセットして待ち構えていた。
『ま”』
「おっ! ソファ、お前船底から直接移動したのか!」
『ま”!』
「なに、ハーミットが手伝ってくれた? 彼はいいヤドカリだなあ」
ということで、即座にソファに乗り込む。
いつも通り、俺とレヴィアとメリッサがソファ。
クリストファとゼインとマリエルが荷車。
この荷車も、ハブーで改造を施されている。
車の軸と軸受けの間に、バネみたいなものが仕込まれているのだ。
さらに、車輪は南国で発見された、ゴムという弾力がある樹液を加工したもので覆われている。
「うおっ、驚くほど乗り心地が良くなったぜ」
「ええ。今までは荷車でガタガタ揺られていましたが、あれに比べればほとんど揺れを感じませんね……」
「逆に刺激が足りない気がしてきますわね……」
荷車組の感想である。
今は、雨風避けの幌までついて、荷車とは思えぬゴージャスさになった。
むしろ、ソファに乗っている俺たちの方が雨風をもろに受ける。
「むむむ、そろそろ私も荷車に移動するべきかなあ」
パンジャを頭の上に載せ、雨避けにしながらメリッサ。
先ほどから、ぱらぱらと雨が降ってきたのだ。
「ソファは特等席だったのだがな。まさかハブーによる荷車改造で、立場が入れ替わってしまうとは……。時代は常に変化しているのだな」
しみじみとレヴィアが呟いた。
「ま、ここは雨避けの魔法でも使いましょう。えーと、
俺たちの頭上で風が渦巻き、雨を弾く見えない傘になる。
こうして魔法を使っている間はいいが、俺がいないときは雨風を受けっぱなしだ。
ソファゴーレムもさらなる改造が必要だな。
自転車を猛烈な勢いで、ソファは漕いで行く。
野を越え、キーン村を越え、どんどん進んでいく。
やがて、半日ほどでユーティリット連合王国が見えてきた。
「うわーっ、凄い勢いで何か来るぞ!」
「止まれ、止まれー!」
「おいバカ、あんな常識外れな速度でやってくるわけが分からないもの、女王陛下とウェスカー導師に決まっているだろう!!」
「そ、そうだった!」
「お通り下さい!」
「お通り下さい!」
おお、王都の門を顔パスである。
「俺たちも顔が知られましたねえ」
「ああ、便利になったものだ。もう、城の外で酒盛りしながら夜を明かす必要は無いのだな……」
「どんだけ不遇なお姫様だったんですか!? っていうか、あの人たち、私たちの奇行で見分けてると思うんだけど」
門をくぐると、そこからは王都の大通りである。
区画整理がされ、一直線には城に迎えないようになっている。
レヴィアが考案した、王都の構造そのものを、城攻めしづらい形にする計画によるものだ。
ソファは速度を落とし、大通りを進んでいくのだ。
「あっ、女王陛下ー!」
「女王陛下かっこいい!」
あちこちから歓声が飛ぶ。
体を張って、魔王軍と最前線で殴りあう国家元首である。
平和ボケも昔、今や人間と魔王軍との戦争状態にあるユーティリットで、レヴィアは英雄なのだ。
「ウェスカー導師もいるぞ!」
「良かった、今日は服着てる」
「本気になったら全裸になるって本当か!?」
えっ、俺って本気になったら脱ぐのか!?
「なんか、俺に関して不思議な噂が……!!」
「ウェスカーさんの日ごろの行いだよ!」
「全裸でも、履いてなくてもいいではないか。ウェスカーが私の心強い味方であることに違いは無い」
「おおー、レヴィア様太っ腹!」
「ふふふ、最近は腹筋の鍛え方を変えているからな、筋肉のつき方が変わったのが分かるか?」
「違うと思う」
ということで、城門へ。
門番たちが、レヴィアを見て眼を丸くした。
「ええっ!? 確か、今朝は場内に女王陛下がいたはず」
「それは身代わり魔法で作られた偽の女王だぞ。レヴィア様の本体はこっちだ」
どうやら、ゼロイド師が作った傀儡魔法がいい感じで通用しているようだ。
すっかり、みんな偽者のレヴィアが本物だと思っている。
「いや、幾らウェスカー導師がそう言っても、証拠が」
「証拠か。よし、そなたの剣の鞘を渡すのだ」
レヴィアは、兵士から鞘を受け取ると、丈夫な木で作られたこれを脇に挟み、
「ふんっ」
力瘤を作って挟んで潰した。
「あっ、女王陛下!!」
兵士たちが平伏する。
うん、こんなことできるのレヴィアだけだもんな。
「分かればいい」
レヴィアは優しい目をした。
女王陛下は寛大である。
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