第113話 いざ幻の火山島!
「火山島? 本来ならフレア・タンが支配しとる島くらいしかないはずじゃ」
操舵室に入り切らない、ヤドカリの魔物ハーミット。
ずっと海にいる人なので、試しに目的地の事を聞いてみたら首を……じゃない、眼柄を傾げた。
その突き出した目は便利だなあ。
「少なくともわしは知らん。珊瑚礁の島にいる船乗りが見たと言うなら、わしが動き回る辺りを超えたところまで行ったのじゃろうな。こう見えて、わしら魔物は縄張りがあるでな。そう遠くまでは行かないのじゃ」
「なるほど。そこら辺は動物みたいなんだな」
俺はレヴィアに頭とか肩とかをペタペタされながら頷く。
レヴィアはそろそろ目が見えるようになってきたようで、
「おお、ウェスカーが見える。そなた髪が伸びたな。むっ、出会った頃より明らかに筋肉が増しているではないか」
とか色々言っている。
大変くすぐったいし、髪がぐしゃぐしゃになる。
「見えにくくなったのをいいことに、ここぞとばかりにウェスカーさんをぺたぺたしてる」
とは、メリッサの言葉。
俺をぺたぺたして、一体何の得が……!?
結局、すぐにレヴィアは回復したようなのだが、回復してないふりをした彼女にあちこちをぺたぺた触られてしまったのであった。
「うむ、そなたなかなかいい体をしているな。魔導師にしておくのが惜しい……」
「俺は匙より重いものは持てないので、武器を持たない主義なのです。杖とかも重いからイヤです」
「そうか……剣と魔法を使えるとかっこよかったのに……」
レヴィアががっかりしている。
「女王様、甥っ子は才能はあるだろうが、やる気がないんじゃだめだ。ってか、武器も鎧も持たずに敵のド真ん中に突っ込む度胸は本当にすげえと思うぜ」
場合によっては全裸だしな、とゼイン。
流石は叔父さん、俺の事をよくわかっている。
「さあさあ、それでは珊瑚礁の島に向かいましょう。もう目と鼻の先ですよ。レヴィア様がこの目で確認されたのですから」
パンパンとマリエルが手を叩き、俺たちの注目を集める。
彼女はにっこり笑うと、強引に話題を転換した。
「
「置いておくの!? 一大事じゃない!?」
メリッサの突っ込みを、マリエルは笑顔でスルー。
「あと一日進んだところで珊瑚礁の島に到着するでしょう。この大海原は、まだまだあるべき島が抜け落ちた状態です。ですが、封印された島が作り出す
というあたりで、何かがドサッと落ちる音がした。
どうやら、窓際で昼寝していたクリストファが落下したらしい。
「あいたたた……おや、皆さんお揃いで」
起き上がり、そんな事を言う。
「おや、ハーミットではありませんか。こんにちは。さて、話は聞かせてもらいました。それではそろそろ、航路というものを作らねばならないようですね」
寝起きのクリストファが、懐から取り出すのは一枚の紙。
そこには、ぐねぐねとした線が描かれている。
「なんだそれ」
「これは海図です。今まで船が存在しなかった子の世界では、馴染みがないのも当たり前でしょう。ちなみにこれが、私たちがいたユーティリット王国のある島です」
「なんと!?」
「なにいーっ!」
「えーっ!」
「そんなんに、俺たち住んでたのか……? いや、ピンとこねえ」
レヴィア、俺、メリッサ、ゼインが大変驚愕する。
これ、旅をして回っている俺たちだから驚くわけで、四王国から一度も出たことがない人たちが見たら、絶対ピンと来ないだろう。
「大体これ、どう見るんだ?」
「ここで縦横に線が引かれているでしょう。この二つのマスを超えたところが珊瑚礁の島、さらにこちらに向かって一つのマスを進むと、あのほこらです」
「ほー。マス目の一つずつがでかいんだなあ……」
「ということで、レヴィア様が視力を強化して見えるのは、この二マスまでということになりますね。しかもニマス見るとしばらく目が見えなくなる。一マスまでにしておいたほうがいいでしょうね」
「私の能力まで調べてあったのか……!」
寝ているとばかり思っていたのに、クリストファ恐るべし。
マスの一つ一つがどれくらいの大きさかは分からないが、俺たちがずっと暮らしていた島が、タテヨコ五マスくらいの大きさだから、かなりの距離であることは確かだ。
「これ凄いねー! エフエクスは村からほとんど出なかったから、全然こういうの知らなかったよー」
メリッサがクリストファから海図を受け取り、しげしげと眺めている。
彼女の頭上にいるパンジャが、『キュー』とか言いながら光の糸みたいなのを発し、海図の一部にくっつけた。
『キュー』
「えっ、私たち、今ここにいるの!? っていうかパンジャは海図が読めるんだ! すごーい!」
「すげえ」
俺も驚いた。
そう言えばこの球体、ワールドピースに関わる魔精霊という生き物なんだった。
実は凄いっぽいのだが、すっかりうちのパーティの青い球体として馴染んでしまっていたから、意識していなかった。
そんなわけで、クリストファとパンジャを先導役にして、蒸気船ハブーは突き進むのだ。
ちなみに、ハブーがいつも停泊している、エフエクスとユーティリット王国の間にある海峡から、珊瑚礁の島まで行くルートはすでに確立してるんだと。
活躍するかと思われたクリストファ、そのまま窓際でまた昼寝を始めた。
「クリストファ、最近ずっと食っちゃ寝しているから、太ってきたんじゃないか?」
「そう言えば、クリストファさん、太ったよね」
「私が鍛えなおしてやろう。起きろクリストファ! 走るぞ!」
「おや、レヴィア様、どうされたんですか? 今日は実に日差しが気持ちよくて……って、あっ、私の襟を掴んで何をするつもりですか。あっ、引っ張って走る? いや、神がかりとして体は鍛えていますが……ああ、はい、最近はさぼりがちで……あーっ、引っ張らないでください! 引っ張って全力疾走を始めないでください! あーっ!」
クリストファが悲鳴を上げながら、レヴィアに連れられて行ってしまったな。
しばらくは、彼女はクリストファを鍛え直すのにかかりきりだろう。
「さて、んじゃあ久々に俺が舵輪を握るので」
「ウェスカーさんが握るんだね」
メリッサは頷くと、近くのものに掴まった。
マリエルも、深くソファに腰掛けて手すりをしっかり掴む。
ゼインはその隣で、ベルトらしきものをソファから取り出して腰に巻き付けている。
「どうしたんだ?」
俺の後ろで、町の人が壁から突き出したラッパみたいなものに向かって叫んだ。
「ウェスカーさんが操舵するぞ!! 町人全員、耐ショック姿勢!!」
どどどどどっ、と町が動揺する。
今まで道を歩いていた人たちが、慌てて近くの家や店に飛び込み、柱や壁から突き出した突起に掴まった。
「なんだこれ」
「ウェスカーさんが舵輪を握るとね。ハブーの速度が三倍くらいになるから」
「そんなことはない」
俺は舵輪を握りしめながら、魔力を流した。
「普通に行くぞ、普通に」
俺は宣言した。
かくして、ハブーは通常の三倍の速度で進み始めたのである。
本来なら翌日に到着するはずの珊瑚の島に、数時間後に到達。
即座に火山島を見たという島民を拾って、再出発。
その日の日暮れには、ほこらの場所までやってきた。
「ストーップ! ウェスカーストーップ! これ以上は町のみんな体が持たないから!!」
後ろからアナベルに羽交い締めにされてしまった。
と言っても、頭一つ分の体格差があるので、実際はアナベルが俺の背中にしがみつく形だが。
「そうかー。そう言えば、俺もお腹が減ってきたころだ」
今日は、アナベルに地下の掃除に誘われ、その後レヴィアと空中遊覧をして、この操舵である。
盛りだくさんだった。
俺はとてもいっぱい仕事をした。
「これ、今まで二日かけて一マスちょっと進んでたところを、半日でニマス近く進んだわけだろ? 速いのはいいが、強行軍過ぎるぜ。甥っ子に操舵をさせてはいかん」
ゼインの言葉に、なぜだかマリエルとメリッサ、アナベルが深く頷くのだった。
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