第112話 まだまだ増えるよ動物さんチーム
すっかり綺麗になった、ハブーの地下スペース。
ここなら、ソファゴーレムはおろか、もっと大きなゴーレムや魔物だって収納できるだろう。
『ま”』
「ふむ、何も無いと寂しいから、家具が欲しい? お前、案外こだわりがあるんだなあ」
俺はソファのために、ゴミ山から使えそうなものを拾ってくることにした。
ボンゴレはすっかり小さくなり、アナベルに抱っこされている。
「おおーっ、なんだお前、もこもこのふわふわだなあ」
アナベルがすっかりデレデレだぞ。
ボンゴレは女子のハートを掴む技を身に着けているようだ。
ちなみにゴリラは、ソファの近くで差し入れの果物を食べている。
すっかり、うちのソファと仲良くなったな。
さて、エレベーターで甲板……つまりハブーの町がある部分まで出てくると、たくさんの人たちがゴミをより分けている。
「ああ、これは使えそうだ! ぐるぐるツマミを回すと、糸を引っ張る機能がついてる!」
「これいいねえ。強力そうなアイロンじゃないかい!」
「ほう、このハンドル付きの鉄串、肉を刺して焼きながら回せそうじゃないか」
何気に宝の山だったようだ。
何もかも、俺が見たことがない技術で作られていて、全部実用品だ。
「ぶい、ぶいー!」
なんかピンク色の小さい生き物まで、町の人に混じってゴミをあさっている。
「チョキよチョキ、お前は何をしているんだ」
「ぶいぶいー」
チョキは誇らしげに、ゴミから掘り出したガラクタを見せつけた。
「あっ、なんだそれ。かっこいい歯車だな!!」
「ぶいー」
「それを紐で結わえて腕に……? 歯車型の盾だと! おしゃれなオークめ!」
「ぶぶいー」
チョキめ、案外センスがいいぞ。
「そう言えばメリッサはどうしたんだ? お前ひとりだけか。レヴィア様もいないし……」
「ぶ? ぶいぶい」
チョキがひづめで、ハブーの先端側を指し示す。
そっちにみんないるようだ。
「ああ、操舵室だろ? あそこ、ウェスカーたちがゆったりできる部屋に改造したんだ。船に乗ってから、ウェスカー一度もあそこに行ってないだろ?」
「そういやそうだ」
「フャン」
「お前もだぞボンゴレー。最近のメリッサは放任主義なのかね」
「フャン」
ボンゴレがアナベルの腕を抜けて、俺の頭に飛び乗ってきた。
「よっしゃ、じゃあ行ってみるか」
「これでゴミ掃除も終わりかあ」
何故かちょっとがっかりしているアナベル。
仕事はさっさと終わらせて、サボれる方が楽しくないか?
わからん。
到着した操舵室では、レヴィアが嬉しげに舵輪を操っている。
「ははは! やはりこれはいいな! こんな巨大なものが私の意志に合わせて動く! 楽しくて仕方ないぞ!」
「女王陛下はご機嫌だなあ」
「レヴィア様、なんでも自分でやらないと気が済まない方ですからねえ」
ゼインとクリストファは、すっかりくつろぎモードで、昼間から一杯やっている。二人が腰掛ける窓際が席になっているんだな。
メリッサは膝の上にパンジャを乗せて、そのパンジャをテーブル代わりにご飯を食べている。
「あれ? マリエルは?」
「ああ、マリエルならば海だ。彼女は人魚だからな。こうして泳げる時には外を泳ぎ回っているぞ。聞いてくれウェスカー! マリエルは凄いぞ!」
「ほうほう」
ぐっとレヴィアが寄ってきた。
「うっ!」
アナベルが気圧されて弾き出された。
「ダメだ、このライバル強すぎる……!!」
何を言っているのだろう。
レヴィアはマリエルの様子には気づかず、まくしたてるわけである。
「マリエルが人魚になると、凄いんだ! 速いんだぞ。私が操るハブーの速度を軽々超えて、この船の周りを一周してみせた! やっぱり人魚はいいな……。私もなってみたい……」
「あっ、レヴィア様が乙女みたいなところを……!!」
「なにっ、私は乙女なのだぞ」
「ははは」
「何がはははだ」
俺はレヴィアにペチられた。
「そんじゃあ、レヴィア様も俺に乗ってロマンチックな空の旅と洒落込みますかな? 久々に」
「いいな! 行くか!」
「普通にそんな場合ではないというのに、私たちの余裕っぷり……お魚美味しい」
かくして、レヴィアを背中に乗せて飛び上がる。
操舵室の窓から飛び出すのである。
ソファゴーレムのための家具類は……うむ、後にしよう。
「ウェスカー、高く高く飛んで!」
「了解!」
ぐんぐんと高く舞い上がっていく。
「高いところからなら、噂の島が見えるんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど、確かにこの高さなら……!」
レヴィアが目を凝らす。
猛禽類なみの視力を持つのでは無いかと俺が睨む、彼女の目である。
「よしっ……! むむむ……ぐぐぐぐぐーっ!!」
レヴィアの全身が、稲妻でバチバチと音を立て始める。
その光が、俺の肩越しに身を乗り出した、彼女の目に集まってきているようだ。
「珊瑚礁の島……見えた! その先……その……先のほこら、見えた! さらに、さらに先……」
「えっ、本当に見えてるんですか」
俺はびっくりした。
いくら見えるって言っても、本当に見ることができるとは。
だが、彼女の目も限界が来たようである。
「うっ、だ、ダメか!」
目元からバチーンと凄い音がして、レヴィアがぐったりした。
なんだか焦げ臭いにおいがするぞ。
「遠すぎて見えないようだ。だが、ほこらの位置は分かったから、まずはそこまで行ってだな……。あっ、いかん、目が見えない」
「なんですと」
いきなりレヴィアがとんでもない事を言った。
それは一大事ではないか。
「どうやら無理をしすぎたようだ。あとでクリストファに治してもらおう」
「そう言えば、うちにはなんでも治す魔法の使い手がいましたね。あと、レヴィア様、今後はそういう無茶は禁止で」
「なにっ」
「いやあ、いかんでしょう」
「いかんのか……」
「いかんのでしょうな」
まるでクリストファとのやり取りみたいな会話をしつつ、高度を落としていく俺たち。
眼下には、大海原を突き進むハブー。
降下していくと、ハブーのすぐ横で、手を振っている者に気付いた。
マリエルである。
「レヴィア様ー、ウェスカーさんー。こちらですー」
今のマリエルは、一糸まとわぬ姿で、下半身は魚になっている。
これが彼女の本来の格好なので、のびのびとしているようだ。
だが、どういうことか全身が海の上に出ている。
真っ白い大きな物に乗っかっているみたいだが……その大きなものは、ハブーと同じ速度で動いているようだ。
「おーい、マリエルー。レヴィア様の目が見えなくなってな」
「はい、下からも強烈な
「すぐ治るの?」
「雷の波動は、肉体の治癒にも影響しますから。代々の勇者と呼ばれる存在は、これを使って常人離れした回復力をもっていたのですよ」
「では、魔導師にしては異常に頑丈なウェスカーも似たような力があるのかも知れんな」
レヴィアの言葉に、マリエルは首を傾げた。
「さあ……? ウェスカーさんのことだけは、私さっぱり分かりません。魔法を使っているわけでも無いのに、異常に頑丈ですし」
「そうじゃのう。そこな大魔導は突然変異みたいなもんじゃ。だーれもそやつが大魔導な理由なぞ分からんじゃろうよ。先代の大魔導も、魔法使いではあったが大魔導になれた理由は誰も分からんかったじゃろ」
聞き覚えがある声がする。
マリエルが腰掛けている白いものが、ザザザーっと水を割りながら浮上してきて、その下から長く伸びた眼柄が出てきた。
「あっ、ハーミットじゃないか」
「おう、わしじゃ。わしもあの船にまた乗せてもらおうと思ってのう! 何やらお主ら、フレア・タンの居城で酒盛りしたそうじゃのう! わっはっは! 前代未聞じゃよ! 豪快なやつらじゃ!」
愉快そうに、巨大ヤドカリが笑う。
そして、彼は俺たちも乗せ、ハブーの後部に空いた入り口に登っていく。
後部入り口を担当している人が、「うわーっ、魔物ーっ」とびっくりしていた。
ハーミットをエレベーターで運ぶ頃には、レヴィアの目は回復し始めているようだった。
俺の肩に掴まりながらも、「光が分かるようになってきた」とかシャレにならない事を言っている。
「この女勇者は本当に豪傑じゃのう。なんで見えとらんのに動じておらんのじゃ」
「私の目が見えなくなれば、ウェスカーが目の代わりになってくれるからな」
自信を持って言い切られてしまった。
まあそれくらいはする。
「では、私の目が回復したら、珊瑚の島からほこら、そしてその奥にある火山島へ向かうルートを確定させるぞ。珊瑚の島からも、その火山島を見たという人間をひとり連れていくべきだろう」
「ええ、それがいいと思います。見たという方は、一体どのような形の島を見たのか。どのような状況で見たのか。まだ封印から解放されていないはずの火山島が見えたのか、それとも全く違う島なのか……。それをその方の証言と合わせて調べるべきですわね」
「その前にマリエルは何か服を着たほうがいいんじゃないかな」
ハーミットの上の仲間をガン見しながら、俺は呟くのだった。
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