第114話 呼び出せ、火山島
「案の定ですね」
マリエルが、魔法感知の魔法を使い、ほこらの周囲を見回す。
「このほこらから先の海域に、全体的な魔力の乱れが生じています。間違いありませんね。この辺りで、山の有る島をご覧になったんでしょう?」
彼女は、隣に立っている男に尋ねる。
彼は、珊瑚の島から乗り込んだ船乗り。煙を噴く山がある、という情報を持ち帰った男だ。
「ああ、間違いない! この小さな島があって、その向こうに煙を噴く山が見えたんだ。今まで、何にもなかったって言うのによ……」
珊瑚の島の人々にとって、山と言うのは島の中にある、最も盛り上がった部分のことだ。
で、火山というのも当然知らない。
だから、彼は山を見てとてもびっくりしたらしい。
「ウェスカーさん、ほこらは次元の縫い目にあると、先代の神懸りの方から説明されたでしょう」
「うむ、された」
「このほこらからオエスツー王国、そして異世界にある火山島へと、縫い目が繋がっている可能性があります」
「なるほど」
繋がっているのか。
それは大変だ。
何が大変かと聞かれると答えられないが、とにかく大変な状況であろう。
「で、俺は何か期待されてるね?」
「ええ、ここで向こうまで飛んで行って、世界を割ってください」
「ワールドデストラクションかー。そう言えばそんなものも使えたなあ」
「任せたぞ、ウェスカー! 私があの魔将を殴り飛ばすためにも!」
レヴィアがガッツポーズをしてくる。
そうだな。
いつまでも、彼女に結婚式の話を引きずられるのもよろしくない。
ここは、スパッと次元の縫い目から火山島まで突っ込んで、何もかも断ち切ろうじゃないか。
俺はふわりと空に舞い上がる。
もう、当たり前のように飛べるぞ。
「ウェスカーさーん! なんか世界を割ったりアレしたりするんでしょ! はい、パンジャ貸したげる!」
メリッサの声とともに、青い球体が地上から放り投げられてきた。
魔精霊パンジャは、『キュー』とか言いながら俺のお腹にくっつく。
どういう原理でくっつくんだろう。
とりあえず、世界を渡ったり、別の空間に隠れたものを探したりするとき、この魔精霊が便利なのは知っている。
「よし、じゃあ行くぞパンジャ」
『キュー!』
「“
『キュキュー!』
俺の拳が世界に突き刺さり、砕く。
そこに、パンジャから伸びた光の糸が入り込み、広がり始める。
俺が世界を割ったところから、火山島の世界を探り当てようというのだ。
『キュ!』
「おっ! 今、やり遂げたような声を出したな。見つけたか」
『キュー』
パンジャが得意げな声を出した。
ボンゴレやソファとの付き合いも長いので、人間ではないものの気持ちがかなり分かるようになっている俺である。
「よーし、じゃあ火山島の世界を……ええと、どうすればいいんだ?」
『キューッ!』
俺が首をかしげる間に、パンジャから光の糸がいくつも伸びていく。
それらが、砕けた世界の穴を固定化して、通路を作っていくではないか。
「やるねえ」
『キュー! キュ、キュキュキュ』
俺が感心すると、パンジャは嬉しげにぷるぷる揺れた。
その後、何か俺に指示してくる。
「え? 俺がこの穴を摘んで下に引っ張る? ほいほい」
俺は言われた通り、パンジャが固定化した穴を摘んで引っ張った。
おお、寄って来る寄って来る。
大きさは、ソファゴーレムがくぐれるくらい。
そして、穴の向こうには、見覚えのある火山が煙を噴き出していた。
「よっしゃ、こいつを船の上まで引っ張っていって、みんなで飛び込むんだな?」
『キュ!』
俺は両手で、この穴を掴む。
ふと目線を上げると、遠くに火山島の幻みたいなものがゆらゆらと揺れていた。
何らかの力で、この世界と火山島の島が繋がると、あの光景が見えるみたいだな。
船の上で、みんなが騒いでいるのが聞こえる。
「よーし、今から戻るぞー!」
穴を引っ張りながら、俺は急降下した。
「次元の裂け目って動かせるんですねえ……」
俺が持ってきた穴を見て、しみじみ感心するクリストファ。
「パンジャが固定化したから、ウェスカーが引っ張ってくることができたんですね。いえ、普通はできないんですが」
「俺はもう何が何だかさっぱり分からんぞ」
ゼインは理解を放棄している。
もう、目の前で起こったことをあるがままに受け止めることに決めたようだ。
火山島に持っていく食料や、新しく調達した武器を全身に装備している。
ハブーの地下から出てきたゴミは、色々と使えそうなものが多く、ゼインも自分用の武器を調達していたのである。
なんか、ボタンを押すと無数についた小さい刃物が高速で回転する平たい棍棒とか。
投げると分身して、戻ってくるときに一つにまとまるブーメランとか。
「おっ、メリッサたちも戻ってきたな」
メリッサは巨大ボンゴレにまたがり、ソファゴーレムとゴリラを引き連れている。
ボンゴレの前をチョキがトコトコ走ってるので、猛獣たちに追われる子豚みたいで微笑ましい。
ちなみに、チョキもゴミから回収した武器を背負っている。
なんか回転しながら、金属の玉をたくさん吐き出す鉄の筒だ。
「よし、全員集合というわけだな!」
レヴィアが、揃った仲間たちを見回した。
満足げにうなずき、すうっと息を吸い込んだ。
「では、突撃!」
「おーっ!!」
応える俺たち。
我がパーティは、
飛び込んだ先にトーチマンの群れがいた。
彼らは、いきなり開いた穴を調査に来ていたっぽいので、さっそく撃滅した。
「ぶい、ぶいー!!」
チョキが背負っていた鉄の筒を構え、横のハンドルをぐりぐり回す。
吐き出された金属の玉が、トーチマンをどかどか打ち据える。貫くわけじゃないが、痛そうな音を立ててひたすらぶち当たるのだ。
一気にチョキが強くなったぞ。
並み居るトーチマンが、チョキの武器……仮に回転筒と呼ぼう。それに足止めされて、前に進めないようだ。
ここに、レヴィアがスナック感覚で適当な剣を放り込む。
大爆発が起きて、「ウグワーッ」とか叫びながらトーチマンは散り散りにぶっ飛ばされた。
「ぶいー」
チョキが満足げである。
だが、今もハンドルを回してるが、カラカラ言うだけで何も出てこないな?
「チョキ、玉切れではないか」
「ぶい!?」
チョキも気付いたらしい。
「ぶ、ぶ、ぶいー!」
「玉を拾い集めるしかあるまい」
「ぶいー」
ということで、チョキはここに残って玉拾いに専念することになった。
子豚を残して、俺たちは一直線に火山島に向うのである。
「ウェスカー、マリエル、クリストファ。私は、正直に火山島の入り口から行く必要は無いと思っているのだが」
「ほう、レヴィア様、俺たち三人に声をかけるということは、魔法で正面突破するき満々ですね」
「ああ、分かってるじゃないか!」
我らが女王騎士は、実にいい笑顔を見せた。
脳筋ここに極まれりである。
だが俺もそういうの大好き。
「じゃあ、俺は炎の玉の凄い奴で」
「わたくしは、水を刃にして山肌を切り裂きましょうか」
「私はいつもの光の束を。いやあ、あれだけ大きいなら、的を外さなくて済みますよ、ははは」
俺たちは和気藹々と会話しながら、三人肩を並べる。
山の方からは、俺たちの存在に気付いた、フレア・タンの軍勢が押し寄せて来ている。
さっきの派手なチョキとレヴィアの立ち回りで気付いたようだ。
だが、まさか俺たちが、山のほうに向うわけでもなく、いきなり最大火力で山を削りに掛かるとは思ってもいまい。
「“
俺が放ったのは、炎の玉をぎゅーっと詰めて、小さくして温度を上げ、それを繋がって見えるくらいたくさん、連続して放つ魔法である。
横から見ると、真っ赤な光線に見える。
「“我は命ずる。天地海、全て我が
マリエルの周囲の空間が歪み、空から雲が落ちてきて、背後から水が飛んできて、地面が砕けて浮き上がり、それらが混じって何かぐねぐねと回るものが出来上がる。
それは、彼女の詠唱を受けて、直進を開始した。
「“聞き届けたまえ。天よりの輝きを集めて、神敵を穿つ。
クリストファの頭上に輝きが生まれる。それはどんどんと光を強め、ついには正視できないほどに光り輝くと、次の瞬間、そこからとても太い光線がぶっ放される。
俺たち三人の攻撃は、途中で魔王軍をドッカンドッカン巻き込みながら「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」山の腹にぶち当たり、爆発を起こした。
爆発、その後でまた爆発。さらに爆発。
連鎖して爆発である。
すると、山がぶるぶる震えだし、いきなり物凄い音を立てて、山頂から炎と煙を吐き出した。
それどころか、山のあちこちが崩れ、そこここから炎と煙が噴き出す。
「おお、やったか!」
レヴィア大喜び。
ゼイン、後ろでドン引き。
「いやあ、流石に俺も疲れたな」
「そうですね。年甲斐も無くはしゃいでしまいました」
「いやあ、スッキリしましたよ」
俺たち魔法使い三人組が談笑していると、火山の方で何かが蠢いた。
『おおっ、お前らあああああああっ!!』
馬鹿でかい声が響き渡る。
これは、あいつの声だ。
魔将フレア・タン。
火山からは、炎の色の液体みたいなものが流れ出している。
それに乗って、炎よりもなお赤い色をした、人の形をしたものがやって来るではないか。
以前に見たときよりも、二周り以上大きくなったフレア・タンである。
火山の炎を吸収したのかもしれない。
しかも、とっても怒ってる。
『火山を外から殴って爆発させるとか、アホかお前らああああああっ!!』
「来たな! 魔将フレア・タン! ここで決着をつけ、あの過去ともお別れだ!!」
やる気満々で、レヴィアが駆け出した。
無論、彼女はフレア・タンの言葉など聞いてはいなかったのである!
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