第108話 魔将はお留守? 鬼の居ぬ間に家捜し
ぽこぽこと、次々に生えてくるトーチマンをぺちぺち叩きながら進む。
さすが火山、いくらでも出てくるぜ!
俺は速射エナジーボルト、ゴリラは抜き打ちドラミングで次々に敵を無力化する。
それを、嬉々としてレヴィアがとどめを刺して回るのである。
ゴリラがちょっと複雑そうな顔をした。
「な? レヴィア様はああいう魔王軍絶対殺すガール……レディなので、平和主義者の君とは合わないぞ。森へ帰ってバナナを食うといい」
俺は優しい声でゴリラを
ゴリラは難しい顔をした。
「ゴホ」
「なにっ、諦めないつもりか。ならば俺も徹底抗戦だぞ」
互いにファイティングポーズを取って向き合うのである。
「二人とも、お代わりはまだか?」
そんな俺たちに、わくわくした様子で催促してくるレヴィア。
どんどん敵が沸いて来る環境が、楽しくて仕方ないらしい。
ゼインなど、敵を叩くのに疲れて、飽き飽きした表情なんだが。
「レヴィア様。あまりここでスパートをかけては、後で疲れて魔将と戦えませんよ。元気は後に取っておいて、まずは先に進みましょうね」
「なるほど、確かにそうだな。魔将と戦うときのために、力を残しておかねば……!」
マリエルが、小さな子どもに話しかけるような口調でレヴィアを
これは分かりやすかったようで、レヴィアが素直にうなずいた。
「ウェスカーさんもゴリラさんも、そうやって賑やかにしているから魔物が寄って来るのですよ。静かに行けば、魔物が出てこないかもしれません。その方が楽でしょう」
「ほんとだ」
「ウホ」
俺とゴリラも説得された。
ということで、俺たちはここから、粛々と山登りを行うことになったのである。
そうしたら、本当に魔物が出てこないでやんの。
「突然平和になりましたね」
「ウェスカーさんも、レヴィア様も、ゴリラもうるさかったもんねー」
クリストファとメリッサが、ひそひそ声で会話している。
メリッサのお供三匹も、音を立てないように動いている。
ボンゴレは猫なので、その辺は得意だろう。
パンジャは不思議な力で浮いているから、音が立たない。
チョキは横着して、自分の足で歩かずに、ゴリラの背中に張り付いている。
いつの間にゴリラと仲良くなったんだ。
「トーチマンって連中は、自動的に出てきて侵入者を迎撃するんじゃねえか? なんつうか、さっきから出てきてる奴ら、自分の意思ってものを感じないんだが」
「レヴィア様の結婚式では、人間に化けたりして、普通に動き回ってたのにな」
「結婚式ではない」
レヴィアに脇腹を小突かれた。
「例の事件」
「よし」
レヴィアからのチェックが厳しいな。
「だが確かにウェスカーの言うとおり、トーチマンたちの動きはおかしい。私たちがこうして静かに動くだけで出てこなくなるとかもな。まるで、誰かに操られねばまともに動けないかのようだ」
そんな女王騎士の想像は、頂上までやって来てみて明らかになった。
そこそこ高い山だったので、途中から疲れたメリッサをおんぶして上ってきたのだが、頂上は見事なまでに何もない。
いや、大きなすり鉢状の穴がある。
「これが噴火口です。活動している火山であれば、この穴から炎や溶けた岩が噴き出して来ます。気をつけてください」
クリストファの説明を受け、なるほどなるほど、と火口を覗き込む俺とレヴィアである。
「危ない危ない!」
ゼインに二人まとめて引っ張り上げられた。
「何でお前ら、言われたそばから危ないことするんだよ! 子どもか!!」
叱られたぞ。
「正座して叱られてる女王様って構図、シュールだよね」
「でもレヴィア様、あの顔は全く反省してない顔ですよ」
「だよね。ウェスカーさんが反省しないのはいつも通りだけど」
メリッサもクリストファも人聞きが悪い。
常に失敗を恐れずチャレンジし続けると言ってくれ。
とにかく、火口付近でゼインが俺たちを叱っていたら、流石にうるさかったようで、トーチマンたちが湧いてきた。
これをまた、みんなでポカポカ叩くのである。
火口付近は、足場がもろい気がする。
あまり踏ん張ると、落っこちてしまいそうだな。
「ウホ」
言ったそばから、ゴリラが火口に落っこちた。
「ゴリラが!」
「ぶいー!」
ゴリラの背中からジャンプして、俺のローブに飛び移ってくるチョキ。
お前、ゴリラを踏み台にしたな?
「ゴリラー!」
レヴィアが叫ぶ。
ゴリラは火口に沈んでいきながら、腕を突き上げながら、グッと親指を立てた。
そのまま火口に没していく。
死んだかな? と思ったら、火口の底からポコポコとドラミングの音が聞こえるではないか。
「あれっ。この下、行けるみたいだぞ」
「ぶいー」
チョキは俺の腹の辺りに張り付きながら、そうだそうだ、とでも言いたげにうなずく。
「よし、チョキ、偵察に行って来い」
「ぶい?」
「いってらっしゃい」
俺は微笑みながら、子オークのチョキを火口に放り込んだ。
「ぶぶぶ、ぶいー!?」
なんか叫びながら落ちていった。
「ウェスカーさん!? チョキが焼き豚になっちゃうでしょー!! や、焼き豚、に……。ジュルリ」
「メリッサこわいわあ」
俺に注意しながら、途中でよだれを拭うメリッサなのである。
ちなみに、少しした後、火口から「ぶいー」というチョキの声が聞こえてきたので、これは本当に無事に下まで行けるみたいだ。
「みんな、この火口が入り口だ。山の中に魔将の
俺は自ら火口に向って飛び込んだ。
「あっ、ウェスカーずるいぞ! 私も行く!」
「え、えーと……。ボンゴレ、行こう!」
「フャン!」
レヴィアにメリッサ、ボンゴレも続く。
俺とレヴィアが自由落下なのに対して、ボンゴレは火口の斜面を駆け下りてくるあたり、流石である。
どこまで落ちるかなー、なんて思いながら、落下に身を任せていたのだが、すぐに火口から別の空間になった。
そこは、明らかに城の一室みたいになっている。
ゴリラが下で待機していた。
「おお、ゴリラ、やはり生きていたか」
「ウホッ」
ゴリラが落下してくる俺たちに向けて手を差し伸べた。
俺はその腕目掛けて落ちていき……。
触れる寸前にゴリラがサッと手を引っ込めたので、床に思い切り尻から激突してしまった。
「いてえっ!」
ちなみにゴリラは、レヴィアをキャッチしていたりする。
なんて判断力だ。
「ありがとうゴリラ」
「ウホホッ」
「的確な点数稼ぎだな。だが俺も負けてはいないぞ」
俺はスッと立ち上がった。
落下の瞬間、尻が当たった床にウィークネスの魔法をかけたのだ。
床は俺の尻の形に凹み、放射線状に亀裂が入ったが、俺の尻は無事である。
「ウェスカーさんって、無駄に頑丈だよね……。普通、魔法使いって体が弱そうなのに」
「何を言う。魔法を使って真っ先に敵に突っ込むんだから、丈夫さと体力は一番大事だぞ」
ボンゴレに乗って悠々と降り立ったメリッサに、俺は魔法使いは体が資本であることを伝える。
そして、この空間の調査を開始するわけである。
天井を見上げると、真っ黒。空が見えるわけでもない。
これは、火口とここを繋ぐ魔法が掛かっているのかもしれない。
部屋の中には椅子とテーブルくらいしかない。
ここがもし、フレア・タンの居城だとするとずいぶん質素だ。
あちこちに扉があるから、そこに魔将らしいものが置いてあるかもしれない。
俺は早速、目に付いた扉を開けることにした。
「どーれ」
ドアノブを握った。
すると、ドア全体がぐにゃっと歪む。
『フレア・タン様ではないな! 侵入者め!』
「ドアの形の魔物かあ! うわっ、火を吹きやがった」
ドアに目が付き、口が開き、そこから俺目掛けて炎を吐きかけてくる。
これは、ローブで防ぐのである。
魔将フォッグチルが残したこのローブ、耐熱性能があるのでとても便利。
炎を防ぎながら、俺は握ったドアノブ目掛けて魔法をかける。
「うりゃあっ、ウィークネスだ!!」
『ウッ、ウグワーッ!?』
魔物とは言え、ドアだ。
ウィークネスで脆くなる。
ボロッとドアノブが取れた。
「ウェスカーさん! ドアノブ取れたら開かないでしょ!」
「あっ」
メリッサに突っ込まれて気付いた。
これはいかん。
「ではこれだ! 体当たりウィークネス!」
俺は肩から扉目掛けて突進しながら魔法を放つ。
『ウグワーッ!!』
扉の魔物は、断末魔の声を上げると、そのまま粉々に砕け散ってしまった。
俺はその向こうにある部屋へ転がり混む。
そして、視界いっぱいに広がったものに、思わず声を上げてしまっていた。
「な、なんだこりゃあ」
「どうしたのだウェスカー!」
俺の声を聞いて、ドシンドシンとレヴィアが……いや、ゴリラに乗ったレヴィアがやって来る。
姫騎士から女王騎士、そしてついにゴリラ・ライダーに進化したか。
「ああ、これか? ゴリラがなかなか下ろしてくれなくてな。であれば、足として使ってみようという試みなのだ。そなたよりも背が高くなった心地で、なかなか気分がいいぞ」
女性としては結構な長身であるレヴィアだが、俺よりはちょっと背が低い。
気にしていたのか。
得意げに俺を見下ろしてくるな。
いやいや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「レヴィア様、これこれ」
「むっ? なんだこれは! まるで衣装の森ではないか!」
そう、そこには、見渡す限りの服、服、服。
全てが男性物で、しかも普通の服ではない。
やたら飾りがジャラジャラついていたり、強そうな肩アーマーがついていたり、逆に革のベルトだけで作られたヘンテコな服だったり。
「あの魔将、服を集めるのが趣味であったのか」
「おっ、レヴィア様、ほら、この服。例の事件の時にフレア・タンが着てた花婿用の礼服で……」
「そこをどけウェスカー!! うらあああああっ!!」
いきなり本気モードになったレヴィアが、剣を振りかぶって投げつけてきた。
「あぶねっ!!」
俺は全力で真横に跳躍する。
さっきまで俺がいた場所、つまり、フレア・タンの礼服があったところに、雷を纏った剣が炸裂した。
大爆発が起こる。
どうやら、炎の魔将の衣装らしく燃え上がりはしない。
だが、爆発に巻き込まれると話は別なようだ。
粉々のばらばらになり、衣裳部屋は一瞬にして、よく分からないチリにまみれた空間になった。
「あーあ、もったいない……」
「何を言う。これでいいのだ。あの忌まわしい記憶を思い出さなくて済むからな」
レヴィアが爽やかに笑った。
かくして、第一の部屋を
次なる部屋の散策を行うのである。
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