第十六章・原始的なり、火山の世界

第102話 世界移動したら噴煙なのである

「さあ、使うぞ」


 ゼロイド師から受け取った、大きなワールドピースを取り出す。

 これは世界の海を現しているとかで、全面青い。

 今まで手に入れた、三つのワールドピースがはめ込めるような穴が空いているのだが、それ以外にもまだ穴が四つ空いている。

 四つ……。


「ワールドピースは全部で八つだよな。魔将は残り四人と、復活シュテルンで五人だから数が合わない」


「別に魔将が持っているというわけではないのではないか? シュテルンは持っていなかっただろう」


「そう言えば」


 ピースは、マクベロン王国が所持していたのだったな。

 多分、あれはこの世界を示しているピースだったのかもしれない。


「これを使ったらどこに行くんだろ?」


 メリッサが背伸びして、俺がかざしたピースを見上げている。

 うーん、と手を伸ばして、指先で青いピースつつついてくる。


「おっ、今つつかれた場所が光ったぞ」


「えっ、ほんと!?」


「フャン?」


 ボンゴレがメリッサの背中を駆け上がってきて、前足を伸ばしてピースをてしてしする。

 おおっ、てしてしされた場所がピカピカ光る。


「なんだなんだ! 面白そうなことをやってるじゃねえか」


 ゼインまでやって来て、ピースをべちべち叩く。


「あらあら、まあまあ」


 マリエルがニコニコしながら、ピースをさわさわする。

 なんだかおかしな事になってきたぞ。

 散々触りまくられたピースは、光っていないところを探す方が難しい有様である。


「これは、今までのピースになかった反応ですね。見たところ……光ったから何が起こるというわけではないようです。私の世界魔法を使用せねば、移動はできないでしょう」


専門家クリストファが言うなら間違いないであろう」


『キュキュー……!!』


 おお、パンジャがクリストファに対抗心を燃やしている。

 この青い球体は、もともとは封印されていた、この世界のピースを呼び出すための鍵だったのだ。

 だが、それはクリストファが代用できてしまって、すぐさま魔精霊ことパンジャは失業してしまった。

 結果として、彼はメリッサのお供そのニとして日々を暮らしているわけである。


「どうしたの、パンジャ?」


『キュー』


「パンジャもピースの中に世界に行ける魔法を使えるの?」


『キューキュキュー』


「え? ウェスカーさんかマリエルさんに持ってもらえば、その人を通して魔法を使えるっていうこと?」


『キュ』


 新情報だ。

 それは試してみたいな。


「よしパンジャ。俺の肩に乗るんだ」


『キュ』


「あっ、逃げた」


「あらあら」


 パンジャが、ぽふん、とマリエルの胸の上に着地する。

 レヴィアほどではないか、この人魚の胸もなかなかのサイズだ。


「アッ」


 メリッサが愕然とした表情だ。


「パンジャには後で話があります」


『キュ? キュー』


 青い球体がガクガクブルブル震えている。


「メリッサさん、ではパンジャさんをお借りしますね? ウェスカーさん、今回はわたくしが魔法を使ってみますわ」


「いいなあ」


 文字通り指を咥えて眺める俺なのである。

 姫様……じゃない、レヴィアは、いつもとは違う魔法で世界を移動することに、ワクワクする気持ちを隠しきれないようだ。

 この人、心根は冒険したい年頃の男の子っぽいと思う。


「さあ、早く使ってくれ! 私はどうなるのか楽しみで仕方ないぞ。しかも移動した世界には魔将がいるのだ! 楽しいことしか無い」


「楽しいとは一体……」


 呟くメリッサだが、もう突っ込む気もないようだ。


「ええと……? はい。パンジャさんから流れ込んでくる詠唱を行えばいいのですね? “聞き届けよ。世界と世界の壁を、我、魔精霊にて越え、隔たる世界へと降り立たん。アスポート・ワールド”」


「何度聞いても、グッと来る声だよなあ」


 ゼインがうんうんと頷いている。

 ピースはマリエルの詠唱によって光を増し、それが俺たちを飲み込んでいく。

 ゼインはうんうん言いながら光の中に消えていった。

 さて、俺も行くのだ。

 やってきた光に、自ら、ひょいっと飛び込む。

 そして、俺たちはまた別の世界へと跳んだ。





 いつものように落下するかな、と思ったのだが、気付くと地面の上に立っているではないか。

 なんだこれは。

 画期的だ。

 俺は驚愕した。あ、いや、橋の街ハブーに行った時は、普通に人混みの只中へ出てきたような。

 落下したり、普通に出てきたり、何か法則はあるのだろうか。


「おお、ここが次の世界か……! ふむ、海岸だな」


 早速、レヴィアが周囲を検分して回っている。

 くるりと振り返り、俺の背後を指差す。


「山だな。……山から煙が出ている。物語で読んだ、火山というものか?」


「火山ですわね」


 千年以上生きているらしきマリエルが、姫騎士……じゃない、女王騎士の言葉を肯定した。


「それも、今生きている火山ですわ。周りが暑いでしょう。これは、土地全体が火山の熱で暖められているせいかもしれませんわね」


「ああ、確かに……! こんな大仰なドレスでは暑くて叶わん。よし、こうだ!」


 レヴィアがウィッグを掴んで投げ捨て、装飾品をバリバリーッと引き剥がして捨て、ドレスをどう脱ぐのかと思ってみていたら、ふんっと思いっきり胸を張り、正面からビリビリ~っと引き裂いてしまったではないか。


「すごい脱ぎ方だ。レヴィアでなければできない脱ぎ方ですな」


 布地の中から現れたのは、なんといつもの衣装である。胸元だけが改造されていて、ドレスと同じくらい剥き出しになっているので、否応なくそのボリュームが目立つ。


「うーん、これはけしからんですな」


「むっ、ここはこうして覆えるようになっているのだ」


 レヴィアは腹筋に力を込めると、コルセットが千切れた。

 コルセットがあった場所から下に、革でできた前垂れみたいなものが垂れている。

 彼女はこれを引き上げると、胸元にあてがい、脇と首のところでパチリと留めた。


「こうして、いつでも戦えるように作らせた衣装なのだ。後ろにもあるので、ちょっとウェスカー手伝ってくれ」


「ほいほい。うわあ、すげえ背筋ですな」


「あっ、あまりじろじろ見るな」


 ドレスというのは、首から胸元、背中を剥き出しにするような作りをしているので、大変無防備なのだ。

 ところが、レヴィアはこの間の結婚式で戦うことになったのを教訓に、ドレスからいつでも戦闘態勢に入れる衣装を開発させていたわけだ。

 前垂れと、後ろ側に垂れた部分を引き起こして、首と脇で繋ぐと革鎧になる。

 ゴテゴテしたドレスだからこそ収納できる工夫だなあ。


「今、レヴィア様、普通にコルセット壊したよね……」


「腹筋だけで壊しやがったな。相変わらず意味不明なパワーだぜ……」


 すっかり動きやすくなったレヴィアは、意気揚々と山の方に向かって歩きだす。


「さあ行くぞみんな。どうせ魔将は火山にいるだろう。さっさと行ってさっさと叩くんだ」


「あっと、待って下さい女王陛下」


 引き止めたクリストファを、レヴィアがじろりと睨んだ。


「その呼び方はちょっとむず痒くて好かないな……。慣れなければいけないのだろうが」


「では、レヴィア様。私たちは常に、その土地に住む方々と交流してから世界を救ってきました。ですから、今回も情報収集を兼ね、地元の人間を探すのが良いのでは無いかと思います」


「うん、その呼び方がいいな。よし、ではクリストファの提案でいこう」


 そういう事になったのである。

 だが、なんで俺が最初に名前で読んだ時、お互いにぎこちなくなったのであろうか。

 謎だ。

 俺は首をひねりながら、仲間たちと一緒にこの世界を歩くわけである。

 だが、俺にしては珍しく、思考に意識を取られてどうも足取りがふわふわとする。

 地に足がついてないような心地だ。


「あっ、ウェスカーさん飛んでる! 飛んじゃってるよ!」


 メリッサの声で気がついた。

 あっ、俺はふわふわと地に足をつけずに飛行しているではないか!

 無意識の内に空飛ぶ魔法を使ってしまったらしい。

 この魔法、俺も原理はよく分からないが、世界魔法でなんだか飛ぶという魔法なので、制御が難しい。


「ちょっと待って、降りるから」


 俺が着地しようと意識した時だ。

 まだ胸元にパンジャを乗せたままのマリエルが、ぽん、と手を打った。


「せっかくですから、ウェスカーさん。空から周囲を見回していただけませんか? その高さであれば、偵察にもなると思うのです」


「なるほど」


 マリエル賢い。

 俺は納得し、ちょっと高度を上げることにした。

 この世界は、中央にあの大きな火山を抱えていて、見たことがない種類の木々で構成された森や、沼などがあちこちにあるようだ。

 おっ、でかい生き物が森の中を歩いている。魔物かな?

 二足歩行で、長い尻尾を持ち、毛は生えてない。蜥蜴ににてるけれど、ソファゴーレムくらい大きいな。

 

 俺は興味を惹かれ、その魔物に近づいていった。

 すると、悲鳴が聞こえてくるではないか。

 男女二人が、魔物に追われているようだ。


「誰か、魔物に襲われているみたいだ!」


「なにっ! それは助けねばならんな! よしウェスカー、私たちも後から追う! 真っ先に向かって助けてくるのだ!」


「へいほー!」


 俺は加速することにした。 

 すると、高速飛行体勢になった俺の背中に、誰か乗ってくるではないか。


「パンジャさんを使うと、ちょっとだけなら空も飛べるのですね。わたくしも同行しますので、運んでくださいますか?」


 マリエルだった。

 俺とマリエルのダブル魔法使いなら、魔物もイチコロであろう。


「では、マリエルはその大きいお尻をしっかりと俺の上に固定するように」


「ええ。ウェスカーさんの背中は座りやすくて重宝します」


 不思議な評価をもらいつつ、俺は魔物に向かって飛んで行くのだった。

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