第100話 王都の決戦! 魔博士VSウェスカーパーティ

「何じゃ……!? お前は、本当に何だというのじゃ……!!」


 魔博士オペルク。

 八人の魔将の一人で、多分あのシュテルンを復活させた本人だ。

 伸ばした白い髭を震わせながら、怒っているようである。

 乗っている魔道具は、丸くて分厚い金属の板を角が無いように磨き、そこに操縦するための取っ手をつけたようなもの。


「この人間どもの王国は、確かにわしが乗っ取ったはずじゃった! 貴様ら勇者一行に対する支援は打ち切られ、国民の価値観は変わり、やがて貴様らは排斥されるはずじゃった……! それが、なぜこうなっている!?」


 オペルクは目を見開いて、俺を睨んだ。


「お前か!!」


「俺は今尻から出した魔法で魔物をぶっ飛ばしただけである」


「尻から!? 尻から魔法がでるわけがなかろう!!」


 オペルク、こめかみに青筋を浮かべて怒鳴る。

 俺の横では、仲間たちが盛り上がりだした。


「甥っ子、明らかに尻から魔法出してたよな」


「ウェスカーさんだからお尻から魔法出してもおかしくないよねえ」


「ウェスカーならやると思っていましたよ。いい意味でです」


「わたくしもお尻から出るなんて初めて見ました」


「ほう、ではこれを三回見ているのは私だけだということだな。ふふっ」


 オペルクはすっかり話題に置いて行かれた雰囲気になり、さらにピキピキと頬を引きつらせて、怒りのあまり今にも炎を吐きそうである。


「き、貴様らぁっ!! わしを無視するとはいい度胸じゃ!!」


 オペルクは手にしていた、目玉がついた杖を掲げた。

 杖は生きているみたいに脈動して、そこから青黒い玉を幾つも吐き出す。

 これは爆発して大変なことになる玉だな。


「よし、迎撃するぞ。“世界ワールド破断魔法・デストラクション連続使用ラピッドファイア”」


 俺は以前、オペルクが放った爆弾を迎撃する時にこの魔法を使っている。

 今はなんだか、前よりも上手く使える気がするので、試しに連続使用してみた。

 すると、空に小さな亀裂がいくつも走る。

 亀裂は爆弾を飲み込み、その中で爆発が起こったようだ。


「ぬ、ぬ、ぬうううっ!! 力を上げておる……! わしの策をひっくり返したのみならず、力ですらこれだけのものを持っているというのか!! オルゴンゾーラ様、こやつら……いや、この大魔導・・・、明らかに我らが知るそれとは全くの別物ですぞ……!!」


 何かブツブツ言っているな。

 そうしている間にも、オペルクの後を追って、魔物たちが次々に出現する。

 蜥蜴みたいな上半身と、馬のような下半身の魔物。巨人の背中に大きな鉄の羽が生えた魔物。巨大な目玉に無数の触手がついた魔物。

 全部オペルクが作った魔物っぽいな。

 喋る様子もなく、変てこな吠え声だけを上げながら襲い掛かってくる。

 魔王軍、今まで割りと喋ってたもんなあ。


「魔物はわたくしが相手をしましょう。“我は命ずる。天は今、我が掌にあり。一界を征して、我が意思を通ず。天空よ、流れ乱れて疑似なる雷を放て。命ず我が名は海王マリエル。汝、招雷殲滅魔法、天破雷鳴陣サンダー・フォール”」


 マリエルが詠唱を完成させると、一瞬で空がかき曇った。

 空を覆った雲はゴロゴロと唸り始めると、次の瞬間、まるで雨のように次々と稲妻を放ち始める。

 その稲妻が、ピンポイントで魔物を狙うのだ。

 あちこちで爆発が置きて、魔物の絶叫が響いた。

 ここで、周囲の民衆や革命軍は我に返ったらしい。

 悲鳴を上げながら、街の外に向かって逃げていく。


「小癪な! 天空管理システム起動じゃ!! ポチッとな!!」


 オペルクが杖のボタンを押した。

 すると、向こうにぶっ飛ばしたはずの、空を覆っていた魔物がまた起き上がってくる。

 そのから猛烈な勢いで煙を吐き出し始める。

 これが、マリエルの呼んだ雲とぶつかり合って、バチバチと火花を散らすのだ。

 おお、雷雲が駆逐されていくぞ。


「おっ、じゃあそろそろ俺らの出番だろう」


 ゼインが武器を担いで出てきた。

 どこで手に入れたのか、なんか鉄球がくっついた棍みたいなのを持っているな。


「叔父さん、それは何だい」


「これか? リチャードの家の地下に封印された武器らしいぜ。まあ見てなって」


 雷の雨を掻い潜って、こちらに押し寄せてくるオペルク製の魔物たち。

 これに向かって、ゼインが武器を振りかぶった。


「そぉー……らッ!!」


 すると、鉄球が外れ、まるで見えない鎖で繋がれているみたいに、ぐんとその射程を伸ばした。

 そして、魔物たちに直撃し、次々とその胸やら頭やらを痛打しながら、薙ぎ払っていく。

 戻ってきた鉄球が、ゼインの棍にガシャンと合体する。


「扱い方が難しいんだとよ。確かにこりゃ、俺以外じゃ無理だろうな。ほれほれ、甥っ子、行け! 姫様が待ってるぞ!」


 どこに隠していたのか、ゼインの周りには無数の武器が散らばっている。

 状況に応じて武器を拾い、使い捨てては戦うのがうちの叔父さんのスタイルである。


「叔父さん一人で大丈夫かね」


「私もいますよ」


 クリストファが、魔物たちを光の障壁で食い止める。

 彼は制御不能な超威力の光線を放てるが、制御不能なので大変危険なため、使わないことになっている。

 この間もまあ大丈夫だろうと使ったら、神殿の屋根を吹き飛ばしてしまったしな。


「そういうこと! ちゃーんとみんないるんだから、ウェスカーさんは私たちの切り札ひめさまを魔将にぶっつければいいの」


 メリッサがそう言うと、にひひ、と笑ってみせた。

 彼女の周りで、ボンゴレが巨大化し、パンジャがピカピカと光を放ち、チョキが「ぶいー」と気勢を上げる。


「おっ、子ブタ、お前これ使えるだろ!」


「ぶい?」


 チョキがゼインから何か手渡されているな。

 これも魔法の武器らしい。

 一見すると、農作業で使うフォークみたいに見える。

 だが、二股に尖った先端が、時々ピカピカ光る。

 チョキの強みは、人間が使える武器や道具は全部使えることだな。

 三匹のしもべは、リーダーであるメリッサを守るように陣形を組むと、魔物たちとぶつかり始めるのである。


「さて、姫様、俺たちも行きますか」


「ああ。だが敵は飛んでいるな」


「そう、飛んでますな。つまりどこからでも狙い撃ちにできる!」


「確かに!! ふぅんっ!!」


 俺の解釈を受けたレヴィア、早速、落ちていた剣を拾ってオペルク目掛けて投げつける。

 この人が剣を投げると、それ自体が魔法の詠唱みたいな効果があるらしく、剣が稲妻を帯びてとんでもない威力を発揮することになるのだ。


「ぬわあっ!?」


 オペルクが慌てて、杖を振り回した。

 そこから、ドロドロしたスライム状の魔物が飛び出してきて、剣を受け止めた。

 と思ったら剣が爆発して、スライム状の魔物は蒸発してしまった。


「相変わらず、一撃必殺ですな」


「だが、投げている間は動けない。これを何とかしなければな」


「お任せくださいですよ。ソファ!!」


 俺は外に待機させていた、忠実なしもべを読んだ。


『ま”!!』


 城壁を駆け上がり、ソファゴーレムが走ってくる。

 俺とレヴィアは、これに飛び乗るのである。


「行くぞソファ! 剣とか拾いながら走るんだ」


『ま”』


 走りながら、ソファは足元に転がっている剣を、つま先で跳ね上げていく。

 これを、レヴィアが立ち上がって片っ端から回収するのである。


「なんだ! なんだそのゴーレムは!? なぜそこまで複雑な命令を受け付ける!?」


「俺が手塩にかけてじっくり育てたゴーレムだ。強いわけじゃないが便利で器用だぞ」


 魔物の一匹が、ソファ目掛けて炎を放つ。

 これを、ソファはすんでの所でドリフトしながらやり過ごす。


「ナイスソファ! ほれ、エナジーボルトだ!」


 俺の目から光線が放たれ、魔物を爆発させる。

 おっ。オペルクの魔物は、不死者と同じ扱いらしい。エナジーボルトがめちゃくちゃ効く。


「さあ魔将オペルク、覚悟せよ!!」


 俺が近寄る魔物を、目から指から足の指から、エナジーボルトをぶっ放しながら薙ぎ払っている横。

 レヴィアがありったけの剣を握り締め、空の魔将を見据える。


「や、やめろ!!」


「やめない!! それっ! それっ! そらあっ!!」


 レヴィアの連続投擲。

 その全てが稲光を帯びながら、オペルク目掛けて飛来する。

 狙いが甘いものでも、近いあたりで爆発を起こすので大変だ。

 オペルクが乗った魔道具が、爆風でグラグラと揺れる。


「ぐわーっ!! シュ、シュテルン! シュテルンはおらんのか!! おらんのだったーっ!! まさか勇者一行が、国家転覆を企ててクーデターを起こすなど考えてもおらんかったのだーっ!! 非常識過ぎるぅっ!!」


「魔王軍を滅ぼせるなら国の一つや二つ!! さあ死ぬがいい!!」


 裂帛の気合と共に投げつけられたのは、まとめて十本くらいの剣である。

 これがオペルクへ殺到し、連鎖して爆発を起こすのだ。

 もう、防御が間に合うとかそういう次元ではない。


「ウグワーッ!?」


 これはひどい。

 空が何倍も明るくなったような大爆発が起こり、魔物も人間も、一瞬呆然として空を見上げた。

 そして、光が消えた所に、既にオペルクの姿は無かった。

 死んだかな?


「随分簡単だったな。だがウェスカー、気づいたか? あのオペルク、自分では何も魔法を撃たず、道具だけを使っていたのだ」


「なるほど。姫様、ではあれは偽物だと?」


「ああ。ウェスカー、その証拠にその辺飛んでみるのだ」


「へい」


 俺はスーッと空に舞い上がった。

 ついでに、両手両足からエナジーボルトを発射して、街中を薙ぎ払っておく。

 あちこちで魔物たちの断末魔が聞こえた。

 半分くらい人間の悲鳴だったような……?

 まあ、エナジーボルトが軽く当たったくらいでは死なない。


 天を覆っていた魔物がいた高さまで来ると、俺はきょろきょろと周囲を伺った。

 すると、レヴィアの予想が正しかったことに気づく。

 緑色の魔物が浮き上がり、山を超えて飛び去っていくではないか。

 そいつは山の上に来た辺りで、急にピカピカと光りだした。

 全身が虹色になったと思ったら、スーッと消えていってしまう。

 あれは、多分元の世界に帰ったんだろう。

 オペルクは、封印された世界の一つを支配しているのだと思うのだ。


 次は、オペルクを追うか、それともオエスツー王国を解放に行くか……。

 考えどころなのであった。

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