第67話 番人はやどかりでござる
「むっ、このタイミングか!!」
「うおーっ!? 姫様が俺を乗りこなすぞ」
俺の背中に乗って空中から落下するレヴィアである。
俺は着水すると同時に、姫様の巧みな俺さばきによって、パシャパシャと水面を跳ねながら浜辺に戻った。
凄いぞ。魔法を何も使っていないのに、水の上を高速移動だ。
最後の辺りで、俺がズザーッと砂浜に頭から潜り込んだ。
「もぐわーっ」
「むっ、停止のタイミングが難しいな。だが、これはいい。ウェスカーがいないとしても、ウェスカーのような板や何かがあれば、魔法なしでも一定時間は水上歩行はできるな」
「おお、おい、今お前ら、何やった!? 水の上をばしゃばしゃ飛んできたよな? ありゃあなんだ……?」
「切り札だ」
レヴィアは不敵に笑いながらそう言ったのである。
小舟を借りて漕ぎ出すことになった。
俺とレヴィア、そしてゼインがエアーストリングの魔法を掛けて水中に潜り、下を探ることになる。
暗い海底の問題は、割りとすぐに解決した。
「輝きの魔法を水中に下ろしましょう。本来は闇夜を照らすものなのですが、水の中でも可能でしょうね。幸い、深い海も思っていたより透明度が高いようです。魔物以外の生き物がいないせいでしょうか。だとしたら、この底まで見通せない暗さは不自然ということになりますが……」
クリストファが色々分析している。
さっきまでずっと、ぐうぐう寝たり食べたりして、島に来て一番働いていない人だったのだが、あれはエネルギーを溜めていたらしい。
ちなみに今回、ボンゴレは島でお留守番だ。
とにかく水が嫌いらしい。
「今回はパンジャが頼みの綱ということだな」
『キュー!』
おっ、青い球体が誇らしげに反り返った。
「よおし、パンジャも水の中行ってみようか!」
『キュ!』
どぼん、と水に飛び込むパンジャ。
そして、青い光をきらきらと放ち始めた。
これをレヴィアが確保して、携帯用の明かりとする。
「“聞き届け給え。世を照らす輝き。黄金の光。宿し、暗闇を払わん。
「おおっ! 俺の腕がギラギラ輝いた!」
「クリストファ、俺は? 俺は?」
「ウェスカーは自前で光るじゃないですか。こう、目以外のところを光らせればいいんじゃないですか?」
「目以外……?」
何か重大なヒントをもらった気がする。
そうか、目を光らせてしまえば、見るよりも光らせる方に気を取られる。とても見てはいられないが……。鼻や口を光らせると、下を見て探すのだから邪魔だろう。つまり、光らせるなら上だ。
即ち……!
「これか!! エナジーボルト・
「うわーっ、ウェスカーさんの眉毛がピッカピカに光ってるー!! ぷっ、ぷぷーっ!!」
メリッサ大爆笑。
レヴィアはこれを見て、ほう、と感嘆の声を漏らす。
「いや、これはなかなか効果的だぞ。ウェスカー、考えたな……! 眉が光れば、そこまで眩しくはない。……では、これで三方向に散って探ることとする! 行くぞ!! こちらは頼むぞパンジャ」
『キュキュー!』
「ほいほい」
ゼインはエアーストリングを顔の周りに巻きつけると、水中に潜って行った。
レヴィアは飛び上がると、凄い急角度で海に飛び込む。
俺は適当に潜った。
ここでまた色々試してみたくなる。
アイロンを使うと、周りの水まで高温化して爆発させてしまう。それなら、温めないで勢いを増せる魔法はないだろうか。
例えば足裏に……。
「“
俺の足の裏から、どんどん水が生まれ始めた。
これが俺を水中にどんどん押し込んでいくわけである。
久々の俺単独行動。
足裏から水を作って潜るのは、案外、具合がいいではないか。
腕組みなどしながら、ボコボコと深く深く沈んでいく。
何やら、体がギュウギュウと押される心地がする。
これはなんだ。水が押しているのか。
「ここは……“
属性魔法を意識して使ってみたのだが、使用する時にちょっと違和感。
あ、これ、世界魔法が混じるやつだ。
なんでだろう。
世界法則を書き換える魔法だと、世界魔法になるのかしら。
「なーんかピカピカ光ってやがるなあ。なんだこれ」
おっ、サハギンが寄ってきた。
「飛んで火にいるエナジーボルッ」
「ウグワーッ!?」
目からはなった光でサハギンの目をくらませ、そこに、
「そして密着からのエナジーボルト・ティンダー!」
「ウグワワーッ!?」
サハギンは体内からこんがりと焼けてしまった。
スーッと水面に上っていく。
ああいう魔物たちが、ウロウロしているようだな。
「なんだ?」
「なんだなんだ?」
「もしかして侵入者か?」
おおっ、どんどん湧いてくる。
これ、自然とウロウロしてるんじゃなくて、明らかに警戒してこの辺りに魔物の数を増やしているのだ。
怪しい。
「侵入者かもしれんな」
俺、知らん顔をしてスイーッとサハギンたちの中に突っ込む。
「あっ、お前ちょっと待て! 何当たり前みたいな顔して通過してんだ」
「お前人間じゃねえか! しかも眉毛がピカピカしてる」
「ばれたか」
しまった、サハギンに囲まれてしまったぞ。
そして、俺のピカピカ光る眉毛は、きちんと役割を果たしてくれたのだ。
サハギンが群れるその奥に、何か巨大なものが沈んでいるのが見える。
その巨大なものから、どんどんと黒い煙みたいなものが吐き出され、海を暗く染めていっていたのだ。
これは海底城じゃないが、この海が見通せなくなっている原因だろう。
「これは、みんなを呼ぶ案件だな」
「何をぶつぶつ言ってやがる!」
「なるほど、ネプトゥルフ様が俺たちを集めたと思ったら、人間の癖に海底城を探してる奴らがいやがったのか!」
サハギンたちは、じりじりと包囲網を狭めてくる。
だが、まだちょっと距離があるな。
俺がアイロンを使ったら、俺だけぶっ飛ばされるくらいの距離だ。
よし。
俺だけぶっ飛ばそう。
「アイロン!!」
水中で大爆発が起こった。
「うわーっ!?」
「なんだなんだ!?」
驚いて騒ぐサハギンを背に、俺は猛烈な勢いで水上に叩き出され……はせず、海底に叩き込まれた。
おお!! そう言えば、爆発したからって上に行くとは限らないよね!
『な、なにぃ! サハギンどもを潜り抜けてくる人間がいるだと……!?』
俺は、海底にある巨大な構造物目掛け、どんどん落ちていく。
するとそれが動き出し、喋ったのだ。
こいつ、石や城じゃない。
とんでもなくでかい、貝なのだ。
そいつは俺を確認すると、貝殻の隙間から、たくさんの煙とともに、巨大なハサミやら足を出した。
長く伸びた目玉が、俺を睨みつける。
あれえ?
貝ってこんな見た目をしてたっけ。
俺は、そいつの目の前に着地した。
『ソーンテックが世界と切り離されてより、わしの前に人間が現れるなど初めてのことだぞ……。お前、一体何者じゃあ……』
「うむ。俺はウェスカー。ええと」
魔導師と名乗るべきかどうか考えて、思い出した。
レヴィアが嬉しそうに、魔物使いやら神懸りやらという伝説の職業の話をしていたではないか。
となれば、俺はあの中ならば……。
「俺は大魔導だ」
『なんだと!?』
俺の言葉への反応は劇的だった。
貝の魔物は飛び出した目を瞬かせると、僅かに後退った。
『それは、過去に魔王様を封印したという異能者の名ではないか……! 神々は、神懸りのみを受け継がせ、守ってきたというが……。では、ここでネプトゥルフ様が海王を封印している事に気づいたというわけか!!』
「えっ、ここに海王が!?」
今度は俺がびっくりした。
驚きのあまりぴょーんと飛び跳ねたら、そのまま上にプカーっと浮いていきそうだったので、慌てて下に戻る。
『……知らんかったのか。しまった、余計なことを話した……!』
「俺は大体のことを知らんのです」
『悲しくなるような事を言う奴だな』
魔物は巨大なハサミを構えると、俺に向かって突き出した。
『まあいい。お前が大魔導であろうことは、わしがよく分かっている。たった一人で水底にやって来て、あのサハギンを無傷で切り抜けてくる。ただの魔法使いが、出来ることではない。お前は普通ではない、ということだ。わしの名はハーミット。ネプトゥルフ様の副将が一人よ。大魔導、この海底がお前の墓場になると知れい!!』
「こいつはご丁寧にだな。なんか、きちんと相対してくれる敵は凄く久しぶりだぞ……! ちょっと感動」
『お前、どれだけ普段ぞんざいに扱われとるんだ』
かくして、俺とソーンダイクの副将ハーミットとの一騎打ちが始まるわけである。
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