第56話 唸れ、破邪とかの剣!
「行くぞ!」
レヴィア姫が魔剣を振り上げると、剣がウオオオンッと唸った。
同時に、刀身から炎が吹き出す。
それは、シュテルン目掛けて襲いかかった。
「ぬうっ! まさか魔法の力を持った魔剣だったとは……! あの騎士団長は使いこなせていなかったのだな」
赤い骸骨の騎士は、炎を切り裂きながら素早くステップ、俺と姫騎士の間から抜け出そうとする。
だが、炎を振り払いきれないようだ。
マントや布地の部分が火の粉に焼かれて煙を上げる。
「逃さんぞ! エナッ」
エナジーボルトまで言わずに不意討ち気味に目からぶっ放す。
「ぬううっ!!」
慌ててシュテルンが剣を跳ね上げた。
切っ先が紫の光線を反射するが、魔将の体勢は崩れている。
「つ、ついに魔法の名前を言わずに放てるようになったのか! 恐ろしい男め!」
「隙ありだ! 死ね!!」
そこへすかさず躍りかかるレヴィア。
俺のエナジーボルトがまだ、連続して放たれている最中なのだが、自分がその渦中に飛び込むことを全く躊躇しない。
魔法に鎧を破壊されながら、シュテルン目掛けて魔剣を叩きつけた。
「くおおっ!!」
シュテルンの防御は間に合わない。
俺とレヴィアが巻き込み上等で連続攻撃を放ったのだ。回避できる訳がない。
炎を上げる剣が、深々と赤い鎧を切り裂いた。
おお、硬そうな鎧なのに凄いなあの剣!
シュテルンの傷口からは、血しぶきの代わりに何やら、真っ黒な霧のようなものが溢れ出した。
「動きが悪いぞシュテルン! ゼインはどうやら仕事をやり遂げてくれたようだな!」
「何っ……!? まさか君は、戦士を捨て駒にして私の力を削いでいたと言うのか……!!」
「たまたまでしょ姫様」
「黙っていなさいウェスカー!!」
怒られた。
姫様も見栄を張るのだなあ。
俺はうんうんと頷きながら目からのエナジーボルトを継続する。
「くっ、魔法が波打って防ぎづらい!! だが、このままでは……!」
「シュテルン様!!」
そこへ何やら飛び込んできたのである。
どこかで見たことがある、女魔術師。
「“魔王よ! 闇の杭を突き立てたまえ”!」
レヴィアの足下から、真っ黒な杭が次々に生まれてくる。
「ぬうっ! この陰険な魔法は!」
姫騎士は咄嗟に、杭を剣で叩き切った。
斬れた。
「斬れた!」
レヴィアもびっくりしているではないか。
生えてきた杭は何本もあり、これを剣で叩き切るレヴィア姫なのである。
だが、この隙にシュテルンは俺の攻撃を受けながら、城壁に足を引っ掛けると、高らかに跳躍した。
「あっ、また逃げるのかシュテルン!!」
「不利となれば逃げる! 傭兵として当然の戦術だ!」
「ウェスカー、逃がすな!」
「ヘいよ! ソファ!」
『ま”!』
飛び出したソファが、シュテルンの退路を塞ぐ。
「なっ!?」
「シュテルン様!!」
シュテルンを守ろうとした女魔導師だが、その後ろから、肉体強化魔法を用いて跳躍してきたレヴィアが迫る。
「邪魔だ!」
「うあーっ!?」
女魔導師の頭を背後から鷲掴みにすると、力任せに後方へ投げ捨てるレヴィア。
俺はこの技を、ゴリラ・グラップルと名付けた。
レヴィア姫はそのままの勢いで、シュテルンに迫る。
「ぬうっ、だが……君の剣の腕では私には勝てまい!」
「剣を持っていればな! だが! これで! どうだ!!」
レヴィアは魔剣エビルブレイカーを振りかぶると、空中から勢い良く、シュテルン目掛けて投擲したのである。
いつもの剣を投げる技だ!
シュテルンはこれを、正確に叩き落とそうとするのだが……。
突如、魔剣がその全身に輝きを纏った。
輝きは糸のように伸び、レヴィアの腕につながっている。
なんだこれ。
「それが、姫様の真の力ですよ! 今、彼女は持つべき武器を得て、真の力を発揮できるようになったのです!」
クリストファの声が響いた。
なんと、あの投げる剣の威力が妙に高かったのには理由があったのか。
光を纏った剣は、急激に加速した。
「馬鹿な……これは、これはまるで、魔王様の仰っていた勇者の……!!」
シュテルンの剣は間に合わなかった。
光の一撃が、赤い甲冑に正面から突き刺さる。
貫くのではなく、魔剣が纏った光が、シュテルンの全身に拡散していく。
「おおお……おおおおお!!」
それが鮮烈のシュテルンの最期だった。
一際光が強くなった瞬間、シュテルンの体は一瞬にして、大量の灰になって飛び散ったのである。
「シュテルン様!!」
どこかへ投げ飛ばされていた女魔導師が悲鳴をあげた。
「お、おのれお前たち!! この仇は、必ず!!」
どろんと煙が上がる。
女魔導師がいたはずのところには、誰もいなくなっていた。
こっちには逃げられたか。
「あの魔導師……以前に戦ったことがあるな」
レヴィア姫が目を細めた。
「首に、剣の跡があった。あれは私が投げた剣で首を飛ばされた跡だ」
「首を飛ばされて跡とかあるんですか。戦った相手のことは覚えてるんですねえ。あ、姫様、ほら」
俺はちょっとびっくりして、レヴィアに呼びかけた。
障壁の向こうに群がっていた、骸骨兵士の集団。
彼らが、徐々に輪郭をぼやけさせていき、消えていこうとしているのだ。
「なんだ!? 逃げようというのか!?」
「フャン!」
「ボンゴレは違うって言ってます! なんだか……いきなり意思みたいなものが無くなって、消えて行ってるって」
「これは不思議ですね……」
魔王軍が消えていくという、目の前の奇妙な現象。
これについて、みんなでやいのやいの言っているとである。
城門の隙間から、アンジェレーナ王女が飛び出してきた。
「レヴィア様ーっ!」
「おや、アンジェレーナ様。ありがとう。貴女がくれたこの魔剣で、見事シュテルンを討ち果たすことができた」
姫様の中ではもうもらったことになってるぞ。
「いえ、そんな……。私は当然のことをしたまでで……。ああ、そうです! 魔将シュテルンとやらは、己の影から配下となるあの魔物たちを呼び出していました。シュテルンが滅ぼされたので、きっと魔物たちも消えてしまったのでしょう」
「そういうことだったか! 確かに、他の魔将たちも、打ち倒すと魔物たちの数は大きく減っていた気がする」
二人のお姫様のやりとり、なかなか濃厚な話をしている。
「いやあ……人使いの荒いお姫様だぜ……」
「あっ、お前は敵前逃亡をしたという騎士のゼイン!」
アンジェレーナ姫が突然、きつい目つきになった。
「げっ」
「目撃者がいるのですよ! あなたは捕らえられ、後々お父様から裁きが下されます!」
「ひぃ」
恐怖に顔を歪めるゼイン。後先考えてなかったのだろう。
だが、そこへ意外な助けが入ったのである。
「待ってくれアンジェレーナ様。彼は、私が魔王軍と戦うための貴重な戦力だ。欲しい」
「えっ! レヴィア様、あんな不良騎士が欲しいんですか……!?」
「欲しい。魔法も使わずに、あれだけ戦える戦士はそうはいない。私は戦士の品性や人格は問わない。あの戦力が欲しい」
「わ、分かりましたっ。あげます!」
「あれえ。俺の立場がいとも容易く譲渡されたんだけど」
「叔父さんもこっち側だな。毎日魔王軍と戦ったりしてて楽しいぞ」
俺はゼインの肩を叩いた。
「毎日ぃ!? 死んじゃうぞ俺は」
「だがここにいても処刑されるかもしれないぞ。敵前逃亡だろ」
「ううっ」
「ゼインさんも一緒に来ればいいんですよ!」
「ええ、その通りですね」
既に、レヴィア姫パーティ一行は、ゼイン受け入れムードである。
後日、ユーティリット王国から正式に、ゼインをユーティリットの騎士として所属変更手続きを行うという話になり、彼の身柄はこちらに引き渡された。
話をしているアンジェレーナ姫は、始終レヴィアにデレデレなので、彼女の正常な判断力が無くなっていたことが、このスムーズな話の進行を産んだに違いない。
「ところでメリッサ、質問があるんだけど」
「なんですか? またろくでもない質問です?」
「うん。俺も姫様も覚えてないんだけど、ナーバンって知ってる?」
「さっき助けたマクベロンの魔導師ですよね? 私たち、そのまま放ったらかしにして来ちゃいましたけど」
「ああ、彼か!!」
「ウェスカーさん、本当に覚える気が無いことは覚えないですよね。姫様にはそっちの方面、何も期待してないですけど」
「いやいや、でもメリッサがいてくれて助かった。ありがとう。これからもよろしく」
「いやいやいや、二人共、もう少し頭を使いましょうよ……!」
メリッサの突っ込みを背後に、俺はレヴィア姫に報告である。
「姫様、やっぱりメリッサが知ってましたよ。ナーバンってさっき助けたあの魔導師です」
「なんだって!? そうだったのか……。いや、待てよ。私もこう、記憶の遥か彼方にあの男の顔があるような……」
「よし、そうなれば急いで行きましょう! おーいみんな! さっさとユーティリット王国に帰るぞ! 途中で魔導師を拾っていく!」
「帰りましょう帰りましょう。ほら、ここに荷車をもう用意してあります」
既に前もって、ゴーレムに荷車をくくりつけているクリストファ。
ゼインも車の中に収まっている。
「ああもう、やけくそだ! 行くなら行こうぜ! 戻っても地獄、進んだらもっと地獄かも知れないが未知数! ならとりあえず進むのが俺の主義だ!」
「よし! ではみんな、私たちは帰還する! 次なる目的は、新たなるピースを手に入れることだ!」
レヴィア姫が宣言すると同時に、ソファゴーレムは走り出した。
「レヴィア様……」
アンジェレーナ姫が、何故かずっとその姿を見送っていたのである。
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