第四章・闇の世界エフエクス
第19話 闇の世界の懲りない面々
落下し続けるかと思ったが、あっという間に視界がひらけた。
そこは、夜の森のそこそこ高い位置だった。
レヴィア姫は状況を瞬時に把握すると、俺を土台にしながらその辺の木の枝葉が茂っているところに突っ込んだ。
クッション代わりにしたわけだ。
俺も俺で、
「泥玉!!」
クッション代わりの泥玉を作って、枝葉と泥で衝撃を和らげたのである。
ということで、外見以外は無事に着地した俺とレヴィア。
「ウェスカーはすっかり泥玉の魔法が気に入ったようだな」
「ああ。効果的にいたずらできますからな」
姫が上から降りた後、俺も起き上がった。
相変わらず全裸だが、幸いその辺りには大きな葉っぱがある。
色が紫色で不気味だが、これを千切って纏っておこう。
葉っぱをブチッとやったら、木が
「ギョエーッ」
と悲鳴をあげた。
なんだろう。
「ウェスカー! こやつは木ではない、魔王の手下……いわゆる、魔物というやつだ!」
姫が俺をちょっと後ろへ突き飛ばす。
というのも、直後に俺たちの場所目掛けて、巨大な枝が降ってきたからだ。
これを、レヴィアは両手を合わせて掴み取り、
「ふんっ!!」
猛烈な勢いでへし折り、ねじ切る。
不意打ちだと言うのに、彼女の野生の勘が的確な対処方法を編み出したんだろう。
いやあ、野生児は強いなあ。
すると、また木は悲鳴をあげながら振り返った。
なんと、幹に巨大な人面が付いているではないか。
変わっている。
「姫様、足下注意ですよ。
俺は土の上級魔法を唱える。
俺の手が触れた場所から、地面がまっすぐの方向に隆起していく。
これが魔物の木まで届くと、根っこの部分を掘り返すように大きく盛り上がった。
「ウゴゴゴゴー!」
魔物の木が、枝を腕のようにばたつかせながらふらふらしている。
「ウェスカー、風の魔法は使えるか? 私を強い風で押せ!」
「使ったことは無いですが、まあ姫様の言わんとする事は分からないでもない。そんじゃあ、ええと、風の……ブリーズ! を超でかくしたやつ!!」
一瞬そよ風が吹いた後、俺のオーダーに答えて、風の魔法が発動した。
言うなれば、そよ風の魔法ブリーズの重ねがけだ。
そよ風がそよ風を後押しし、それをさらにそよ風が押す。それをまたそよ風が押してそよ風が……ということでそよ風のウン倍のパワーを持つ突風だ!!
「いい風だ! とーう!!」
レヴィア姫は躊躇することなく、風に乗った。
そして、跳躍と同時に、突風と共に魔物の木目掛けて突っ込んでいく。
「魔王死すべし!!」
彼女の叫びと共に、実にかっこいい飛び蹴りが魔物の木に炸裂した。
何しろ、パンチでゴーレムの膝を砕きおる姫である。その飛び蹴りを受けて、魔物と言えど木が耐えられる訳がない。
「ウゴーッ!!」
叫んだかと思うと、木は上下真っ二つに裂けてしまった。
人面を半分に割られたそいつは、すぐに動かなくなる。
どうやらこの人面が弱点でもあるようだ。
「ふむ。やってみれば、これはまだ強い魔物では無いわね」
「それって姫の感想ですよね?」
俺はレヴィアの言葉を流しながら、倒された魔物の木に歩み寄った。
……おや?
幹の中に人の姿がある。
それは、つやつや光る変わった服を纏った、女の子だった。
「姫様、この子……」
「ああ。現地の住民だろう。つまり、この世界には人間が住んでいるということだ」
胸が小さいですね、と言おうとしていたことは取りやめておく。
「彼女が目覚めたら、聞いてみるとしよう。それから、あの魔物の腹の中には、他に人の骨とみられるものが幾つかあったようだな」
「食べられたんでしょうなあ」
「ああ。つまり……日常的に魔物が存在し、人々を脅かす世界。魔王により近い世界と言えるではないか! なあ、ウェスカー!!」
「姫様が興奮している! なんだ、それなら俺も一緒になって踊っちゃうぞ」
かくして、興奮した姫様と俺は、気絶した少女の周りをぐるぐる回りながら踊った。
なんとなく乗りで、である。
しばらく踊り続けていると、女の子はうるさかったのか、顔をしかめながら目を覚ました。
「あれ、こ、ここは……? 私、人喰い樹に食べられたはずなのに……」
「おお、目覚めたか! さあ、この世界のことを話すが良い」
目覚めたばかりの相手に、ノータイムでがぶり寄る姫様。
ここで俺は、彼女の口から信じられない言葉を聞くことになる。
「あっ……きれいな人……! あなたは、一体……?」
きれいな人!!
そうか。
伝説の幻獣ゴリラを思わせる活躍ぶりにすっかり失念していたが、レヴィア姫は物凄い美女と言って差し支えない容姿だった。
すっぴんでこれなのだから、ドレス姿のときはおそろしく美しかった記憶が……記憶が……ああ、王城の果物は美味しかったなあ……。
「ウェスカー、何をよだれを垂らしているか! 娘よ。私はレヴィア。ユーティリット王国の王女であり、騎士としての位階も持っている。この葉っぱを着込んだ男は魔導師ウェスカー。私の心強い片腕だ。私たちは魔王軍と戦っていたのだが、ある魔導師の罠にかかってこの世界に落とされてしまってな。詳しい話を聞きたいのだ」
「そ、そんなにきれいなのに、魔王と戦っているんですか!? は、はい、この世界は、闇の世界エフエクス。魔将“闇道のフォッグチル”が支配する場所です……」
これを聞いたレヴィア、瞳をキラキラさせて俺に振り返った。
「聞いたかウェスカー!! 魔王だ! 魔王の話が通じるぞ! しかも魔将とやらが支配していると来た!! 私はこんな世界を待っていたのだ! ここは……ここはなんていいところなのだ!!」
天を仰ぎ、神々に感謝する姫騎士。
これを見て、女の子は引いた。
「えっ、ちょ、何を言ってるか分かんないです」
「いいかい女の子。レヴィア様は魔王絶対殺すウーマンだったんだけど、悲しいことにレヴィア様と俺の世界には魔王がいなかったんだ。だけどここにはそれっぽいのがいるし、話も通じる。だから姫様は喜んでいるのだ」
「えっ、ちょ、ちょっとまだ分かんないです」
怯えている。
これはあれだな。俺が村人によく見た表情だ。言うなれば、言葉が通じるのに会話が通じてない相手を前にすると人はこんな顔をする。
「うむ。それは仕方ないな……。では……」
俺はまだ天を仰ぎ続けるレヴィアに語りかけた。
「姫様、踊りますか!」
「よし!」
かくして、またも少女を囲んで俺とレヴィアで歓喜の踊りを踊った。
俺は乗りで踊っているだけなのだが、体を動かしていると楽しいものである。
少女がすっかり、俺たちへ化物でも見るような目を向けるようになったころ、ようやくレヴィア姫の気が済んだ。
「ふう。では娘。そなたの住む国へ案内してくれ。私が魔将フォッグチルを屠ろうではないか」
唐突にそんなことを言うので、少女は目を白黒させた。
「えっ!? あ、あの、その?」
こういう普通の感性の人がいると、落ち着くな。
ゆったりできる気がする。
「まずはそなたの名を聞こう。名を何と言う?」
「あ、あの、私はメリッサです。隠れ村のメリッサ。あの……私たちは外にキノコ狩りに来ていて襲われて……! みんなは、仲間は無事なんですか!?」
「メリッサか、良い名だ。では行こう。なに、仲間? うむ、死んでいた。よくぞそなただけが助かったものだ。何か秘訣があるのか? それはもしかすると、魔王軍と戦う手立てになるかも知れん。教えてもらいたいものだ」
「姫様は話が早いですよねえ。あ、隠れ村って美味しいものある?」
俺たちは、愕然とする少女メリッサの両脇を抱えて、隠れ村とやらに向かうのだった。
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