第18話 そして魔法は尻から出る

『我が骨は無数の骸骨戦士の集まり! そして貴様のエナジーボルトを防ぐための盾を装備だ!』


 ガシャ・スケルトンの全身から、複雑に組み合わさっていた骸骨戦士たちが分離する。

 奴らは今まで俺が相手をして来た骸骨戦士と比べて、鎧や盾が厳つい作りをしているように見える。


「そこまで言うならエナジーボルトだ」


 俺が空中からエナジーボルトの雨を降らせる。

 すると、骸骨戦士たちは頭上に盾を掲げてそれを防御する。

 対策を取ってきたという事か。これは強敵だぞ。


 ところで、俺は別に飛行しているわけではなく、爆風で宙に舞っているに過ぎない。

 ということで、時間が経てば落下していくのだ。

 ひゅーっと骸骨戦士たちの方向に落下していくと、奴らが慌てて盾の隙間から剣を構えた。


「馬鹿な! 魔導師がそのままスーッと落ちてくるだと!?」


「あいつ何も対策してなかったのか!!」


 骸骨たちに心配されている俺だ。

 それに、向こうは向こうで俺の魔法への対策のため、両手を使う弓を装備できない。


『我が攻撃する! ぬしらは守りを固めよ!!』


 ガシャ・スケルトンが吼えながら、俺に向かって巨大な腕を叩き付けて来る。

 俺はこれに対して、


超至近クロースレンジ炎の玉ファイアボール!」


 すっかり使い慣れたこの魔法を放つ。

 服はすっかり爆風で焼けて無くなってしまったが、俺の体には不思議と傷がつかない。

 どうやら体内の魔力みたいなのが、この魔法の効果から俺を守っているらしい。


『グワーッ!!』


 ガシャ・スケルトンが腕を爆発で砕かれ、仰け反る。


「ぐわーっ」


 俺が自分の爆風で吹っ飛ばされて地面に落ちる。

 くっ、相討ちか。

 俺は尻で着地したが、咄嗟に泥玉を大量に作って助かった。

 しかし全身泥だらけである。

 童心に返ってしまうな。


『ウゴゴゴゴ! 行け、魔導師を倒すのだ!』


 巨大骸骨の腕は、すぐに再生していく。

 骸骨戦士がいる限り、そいつらを材料にして幾らでも元に戻るのか。

 命じられた骸骨どもが、俺に向かって襲い掛かってきた。

 みな盾に身を隠しながら、槍を突き出してくる。

 俺対策が施された戦術である。頭いいなあ。


「待って、作戦タイム」


 俺は泥玉を次々作りながら、水の上級魔法、水流アクアラインで泥の上をつるーっと滑って逃げる。

 エナジーボルトで盾を回避し、急所目掛けて攻撃する事はできる。

 だが、敵がいささか多いのだ。

 この数を一気に倒せる魔法とは。


「あっ、炎の玉ファイアボールでいいんじゃん」


 俺は気付いた。

 さっきまで空中の、攻撃と姿勢制御に使っていたせいで、炎の玉が純粋な戦闘用魔法であることを忘れていた。

 これは空を飛ぶ魔法では無いのだぞ!


「そおれ、炎の玉だ!」


 俺は手のひらの上に、燃え盛る炎と核になる土と、それを煽る風を生み出す。

 そして、エナジーボルトに乗せて飛ばすのだ。

 骸骨戦士たちに真正面から叩き込まれた炎の玉は、轟音と共に爆発を起こす。


「ウグワーッ!!」


 骸骨戦士たちが吹き飛んでいくぞ。

 自慢の盾も、圧倒的な破壊力と、爆発が生む衝撃波の前には無力である。


『ぬうう!!』


 巨大骸骨が唸る。


「うぬー」


 俺も、炎の玉が生む熱で体に張り付いた泥がパリパリに乾き、ちょっと痛くなってきたので唸る。


『ならばこれでどうだ! 骨の雨!』


 ガシャ・スケルトンが叫ぶと同時に、両腕を大きく広げた。

 一瞬にして奴の腕が翼に変わり、羽毛のように骨が生えてくる。これが俺目掛けて降り注ぐのだ。


「あ、いかん、防御の魔法とか考えたこともなかった! とりあえずエナジーボルト!!」


 俺は上空から狙われる面積を減らすために立ち上がった。

 そして、腕組みをしながら空を見上げ、目から凝縮したエナジーボルトを放つ!

 これを目撃した観客席から悲鳴があがった。

 というか君たちまだ逃げてなかったのね。


『グハハハハ!! これで貴様はその場に釘付け! 隙ありということだ!』


 骨の雨の中、ガシャ・スケルトンの笑い声が響く。

 目の前にいる巨大なそいつの頭が、突然パカッと切り離された。

 耳の辺りから、骨で出来た蝙蝠の翼が生える。

 なんと、こいつは胴体と頭で分離して行動できるのだ。

 俺は目からエナジーボルトを発している都合上、目線で奴の動きを追うことができない。

 そこを見越して、ガシャ・スケルトンは空中から、俺の後ろに回りこんだようだ。


『背後から、身動きできぬ貴様を貪り食らってやるわ!!』


「フフフ、果たしてどうかな……!?」


 俺の腹がぐるぐると音を立てる。

 ようやく、さんざん飲み食いしたツケがやってきたようだ。

 最後にたらふく飲んだビールの炭酸が、出所を求めて暴れている。


『何を強がりを! 後ろに魔法を放つなど、我が居場所を確認もできぬくせに、やれるはずがない!!』


「ならば背後全部を攻撃するのだ……! さしずめこれは……」


 俺の後ろに、風が吹き付ける。

 ガシャ・スケルトンが猛烈な勢いで迫っているのだ。

 俺は落ち着き、奴の鼻先目掛けて尻からガスを出した。出るものは出る。自然の摂理である。

 そして、俺の魔力がこのガスに注ぎ込まれる!


放屁火炎バーストフレイム!!」


 俺の背面一体が、大爆発を起こした。

 ちょうど、ガシャ・スケルトンを迎え撃ち、包み込むような形で、生まれでた轟炎が勢いを増しながら広がっていく。


『こ、これはっ!? こんな魔法は知らぬ!! し、し、尻から魔法が出るなどぉぉぉぉ!! ぐわああああああっ!! シュテルン様、お許しをぉぉぉぉぉ!』


 魔王軍の不死者軍団副隊長とやらである、ガシャ・スケルトン。最後の言葉であった。

 頭が炎に包まれて、爆発を起こす。

 すると、目の前にいた奴の胴体もまた動きを止め、爆発した。


「馬鹿な! ガシャ・スケルトンをたった一人で倒す魔導師だと!? この世界は、平和に溺れて無力だったのではないの!?」


 魔王軍の女魔導師が狼狽した声をあげた。

 俺がふいっと彼女を見ると、露出度が高いローブがあちこち切り裂かれている。

 レヴィア姫の攻撃を受けたのだろう。


「くっ、だけど、こっちの女もだめっ……! 人間じゃない!」


「人間である前に、貴様ら魔王軍を倒すと心に決めた身! だらあっ!!」


 年頃の女性としては首を傾げたくなる事を口走りながら、レヴィア登場である。

 ゴーレムの大群の頭を踏み越えながら、女魔導師に迫る。


「しつこいっ!! “魔王よ、御力にて鉄槌を”!!」


 女魔導師が掲げた腕が緑色に輝く。

 すると、彼女の頭上に突然、大きなハンマーが出現する。

 これがレヴィアに襲い掛かるのだが、


「ふんっ!!」


 レヴィアはこれをがっしりと受け止めながら、


「せええいっ!!」


 力技で後ろへ受け流した。

 だが、魔法の衝撃は結構なものだったらしく、レヴィア姫の体は空に吹き飛ばされてしまった。


「おのれっ! だが、これでは終わらん!」


 叫ぶなり、ユーティリットの一応お姫様である彼女は、腰に佩いた剣を抜いた。

 この戦いで、初めて剣を抜いた!

 そして投げつけた!


「なっ!?」


 これには女魔導師も呆気に取られたようだ。

 反応が間に合わず、剣は一撃で彼女の腹を貫通する。


「ぐふっ……!! な、なんという勝利への執念……!! あの姫騎士は危険だった。やはり、シュテルン様の見立ては正しかったのだ……!」


 女魔導師は血を吐きながら、レヴィアを睨みつける。

 その目の白黒が反転して、もう、とても人間とは思えない見た目になる。


「そして魔導師! 貴様ら二人は、我が魔王軍にとって危険すぎる!! 人間側に予測外の強大な戦力がいてはいけないのよ! 私の命に代えても、お前たちを消し去る!」


 女魔導師が叫ぶと、彼女の背中から生えていた翼が変形した。

 それは、頭蓋骨になると、カタカタと口を開いて詠唱を始める。


「“遠く閉ざした次元の狭間よ。かの者たちを受け入れよ!”」


 多重詠唱とでも言うんだろうか。

 俺がボーっとしながら見てると、女魔導師を中心にした世界が歪みだしたように思った。


「姫様、何やらまずそうですけど」


「小細工をする! 魔法が完成する前にあの女魔導師を倒すぞ!」


 レヴィアは俺のすぐ前に着地して、俺を一瞥もせずに告げた。

 タフな人である。

 俺は骸骨戦士の剣を拾い、彼女に手渡す。

 そして同時に、得意のエナジーボルトを女魔導師目掛けて放った。

 レヴィアもまた、駆け出しながら剣を投げつける。


「“闇の魔将よ、受け入れっ”ぐぶっ」


 詠唱を終える寸前に、レヴィアが投げた剣が女魔導師の首を跳ね飛ばした。

 俺のエナジーボルトは、割と適当にその辺にいた骸骨とか亡霊とかを「ウグワーッ」とか叫ばせながら消し飛ばした。

 だが、である。

 詠唱は大体完成していたらしい。


『受け入れよう。我が闇の世界へ!』


 何かよく分からない奴が空に浮かぶと、グラウンド全体が巨大な穴になった。


「むむー」


 唸りながら落下する俺だが、その上にレヴィア姫が着地してくる。


「ぬう、これは、私たちをどこかに飛ばしてしまう魔法か。もしかすると、世界魔法の一種かもしれないわ。ところで、踏みつけているウェスカーが妙に柔らかい気がするのだけど」


「はっ、ただいまの俺は裸なのであります」


「なぜ戦っていて裸になるのか……!? では、まさか私の足の下にあるこの柔らかいものは」


「硬くもなりますが」


「やめよ!」


「いたい!」


 そんなやり取りをしながら、俺たちは別の世界へと吹っ飛ばされたわけである。

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