13

 花びらが降る頃の校舎は、人の温度で溢れていた。

 その校舎には、かつて屋上があった。その場所への扉は、無数の鎖と、無数の落書きと、立ち入り禁止の言葉で壊された。だからそこには、もう誰も居なかった。

 そんな薄青の空の下でも、桜は、どこからか降り、腐って死ぬ。

 壁の下に、蓋を開けたままのスプレー缶が転がっている。その壁には、何かが書かれていた。

 雨か、洗剤か、その言葉は、油性マジックが溶け出して、流されて、薄くなり、読めなくなっていた。コンクリートの僅かな窪みと、跡、影がただ、どす黒く残っていた。







 どこかで、誰かが吼えた。

 ――ハズレ。


「死神はここにはいない。私達には、私には、力がない。意思がない。ただ、一緒に痛みが欲しい。痛みを感じなくなりたい。傷つきたい。傷つけたい。傷ついたと思いたくない。だけどここに居ると、それだけでいいじゃねえか、なんて思ってしまうんだ。夕焼けの、ちっぽけな空。誰もいないグラウンド。世界は案外、平和で、幸せにできてるんじゃねえのかって。そんなわけ、無いだろ。現実なんだ。甘ったるい悪夢の方が、現実なんだ。そんな悪夢に抗って、溺れて、壊したい。確かなものなんてあるなら、ぶっ壊したい。だけど、それでも、私達は何もできなくていい。未来なんか信じない。信じたくない。どこにも行かなくていい。血だけでいい。嘘かもしれないけど、あんたが好きだ。無色のままで、空っぽのままで、私達は死神でありますように」

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僕らは死神 泥飛行機 @mud-plane

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