12 成海夏目

 ずっと街を見ていた。

 太陽が昇る。朝が来る。

 太陽が真上に来る。昼が来る。

 太陽が傾いていく。カラスが飛び去っていく。

 太陽が落ちる。夜が来る。

 ここから見える街はいつだって黙っててさ、何も変わっちゃいないのにね。

 ずっと街を見ていた。

 塗装の剥がれそうな柵に、頬杖をついて。


 柵に掴まった。下には校庭と、空と街があった。すぐ近くに、地上があった。目の前には、屋上があった。雨があった。茜が居た。だけどその全部が、色を失って見えた。

 暴力にしか、意味がなかった。

 僕がそう決めた。

 そういう世界を、僕が望んだ。

 両手を、前に伸ばす。肩が凄く痛む。山井さん、あなたはあの時、何を掴もうとしていたんだろうね。

 目を瞑って、手を下ろした。

 落ちる自分の身体を意識した時、目を開けた。それが世界そのものみたいに、何もなかった。

『お前らが変わっても』

 空白の音。空白の空。

『私だけは変わらないでいてやるから』

 山井さんがどうしてそんなことを言ったのか、分からなかった。きっと、ずっと分からない。そしてきっと、その言葉には、何の意味もない。僕には、なかった。皆居なくなるんだから。だから僕の行動も、彼らには何の意味もない。

 茜。萌々。のどか。

 あなた達の選択に、最大限の敬意を込めて、祈りたいと思う。

 頑張って、って。

 でも僕は、まだ行きたくない。山井さんの場所にも、茜達の場所にも。

 やりたいことをやるだけだよ。

 この場所で、幽霊にだって、死神にだってなって。自分が自分だって、まだ透明なままだって、信じられるなら。

 その時、白銀の刃が、空を飛んできた。それは僕の方へ落ちてくるようだった。力が欲しいか、と、聞いているようだった。ああ、欲しい。どうしようもなく、欲しい。こんなに自分が弱かったなんて、信じたくなかった。信じたくなかった、それでも。

 僕は刃を掴んだ。血だらけの手が、血だけになっていく。全部が真っ赤になっても、全然痛くなかった。

 ……夢なんか見ない。最初から、これからだって、見たりはしない。

 それから、何もかもが無色になって、視界から消えた。

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