第2話 起動 ②

 シオン (ああ、クソ…どうなってやがる…)


 見たことも無い魔法。計器が異質な魔力を感知していた時点でもっと警戒すべきだった。

 更には守るべき市民まで巻き込んでしまった。

 膝に手をついて何とか立ち上がる。しかしそれ以上ができない。意識を保つのも難しく、霞んだ目で未だ妖しく光る魔法陣を背負ったアークを睨む。


(動け…守れ…!俺はまた繰り返す気か!)


 自分で自分を鼓舞しても、霞んだ視界が晴れるわけでも、ふらつく足元がどうにかなる訳でもない。

 するのその視界の端に、眩しいくらいの光が目に飛び込む。

 同じく吹き飛ばされたその少年は、先程までとはガラリと雰囲気を変えていた。

 真っ黒な前髪の一部は金色になり、破れた袖からは義肢が覗いている。その関節部から溢れた魔力は光となって漏れ、周りの全てを圧倒する。


 レン「リリだけは…」


 そう言うが早いか、動くのが早いか、人の力の限界を超えた速さでアークに飛びかかる。


 レン「リリだけは!守ってみせる!!」


 叫びながら右手に力を込め、アークの顔面目掛けて全力で拳を叩き込もうとする。


 アーク「ふむ…」


 杖を軽く振り、背中に展開した魔法陣を正面に移動させ、もう一度鎖を解き放つ。

 それを悟ったレンは拳を開いて鎖を掴みそのまま空中で掴んだ手を軸として一回転し、体は浮いたままもう一度構えを取る。


 シオン「なんだよアイツ…!」


 一瞬の出来事だったが、シオンは見逃さなかった。しかし容易に受け入れられるものではなく、ただただ立ちすくむ。唖然とした表情で戦いの行先を見守るしかない自分に悔しさを覚えながらも、あの二人の戦いにはついていけないと割り切れる程の戦いだった。


 アーク「まだマシだが…」


 鎖でレンを追い詰めるも、レンはそれをことごとく躱していく。攻撃が通じていないという不利な状況でもアークは余裕を持った表情を崩さない。

 そして、ため息を一つついた。


 アーク「弱い。」


 魔法陣の数を増やし、多方向からレンに向けて鎖が放たれる。全て避けるが、その先にもまた鎖が待っていた。

 それから一瞬でレンは四肢を拘束され、完全に詰みとなってしまった。


 レン「うぅ…ぐツ、は…な、せ!」


 アーク「離せと言われて話す阿呆がどこにいる。」


 レンを鼻で笑い、軽々とした靴音を鳴らしてレンに近づく。


 アーク「あぁ、腑抜けたヤツらばかりだ…反吐が出るね、まったく。」

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