6ー3







「まいどぉ〜!あざーしたー!」




 ガララッ、と言う引き戸の音と共に焼肉屋から出た香坂は満足げそうだった。


 空を見れば暗く、周りには仕事帰りのサラリーマンや居酒屋などが賑わっていた。店から出た俺達は、香坂の迎えがくる所へ二人で歩き始めた。




「いやぁ〜、美味しかったな〜」


「たくっ、なんで俺が払わないといけなかったんだよ」


「約束を忘れていた罰だ。ば・つ!」


「へいへーい……」




 約束の事を忘れていた事がバレたので、今回は俺が全額奢る事になった。中々お高めの焼肉屋なので、少し財布が寂しくなった。



「月が……」


「月がどうしたんだーーって、満月か?」


「確か、今日はブルームーンだったとか、ネットで書いてあったな」



 

 ブルームーンなのに、黄色く光っているのは誰しもが思っただろうが、綺麗なのには変わりない。香坂も俺も無言でブルームーンに見惚れてしまっていた。


 チラリと香坂の顔を見ると、少し微笑んでおり、素直に喜んでいる表情をしていた。




「"静かにすれば、ただの美人"……確か、前にも言った覚えがあるぞ」


「ん?何がだ?」


「いや……なんでもねぇよ。ただ、綺麗だなぁ〜と思ってな」


「お?私の事か?とうとう私のこーー」


「あぁ、そうだよ」


「そうか、そうーーえ?!」




 ギョ!とした目で数歩後ず去る香坂にとっては唐突であり、からかう為に言ったのに対して、俺はその逆転のパンチを食らわしてやったので、口をパクパクとし、頬を薄く染めていた。




「な、なぁ……そ、それはーーOKという言葉かい!?」


「何がだよ。YESもNOもOKもねーよ」


「え……ーー」


「えーじゃない。ほら、お迎えが来たぞ。お嬢様」




 明らかに高そうな車が俺達の目の前に止まり、運転手が降り、わざわざ後部座席の扉を開けた。


 それを見た香坂は、もうちょっと話をしたかったのか、不機嫌そうにしながらも、ため息をつき、後部座敷に座った。




「じゃ、楽しかったよ。達也」


「あぁ、こっちも楽しかったよ」


「飯の時に忠告したが……あの件には、関わるなよ?」


「……」


「……はぁ、否定はしてくれないんだな」


「すまねぇな。俺は素直なもんで、嘘はつけねぇや」


「…………怪我だけは、するな」


「了解」




 達也があの件に関わる事に、香坂は仕方ないなと言う表情をしたと思えば、半開きの状態だった車窓を完全に閉め、車が前進した。



 それを見えなくなるまで見送ると、他の車が俺の隣に止まった。




「迎えに来ました。会長」


「海堂か……このまま会社に向かってくれ。アリスの件で残った仕事を片付けたいからな」


「はい」











 ー黒崎邸ー





 達也が居ない事に気づき、家政婦さんに聞いたら、夜間のアルバイトに行ったと言われた。


 確かに、達也は前からアルバイトをしていると聞いた事があるけど、なんのアルバイトをしているかは、聞いた事が無い。




「はぁ……」

(寂しい……なぁ、早く……帰って、来ないかなぁ)




 廊下に立ち、綺麗に整っている中庭を見ながら、そう呟いた。


 本当に達也が住んでいる家は広いと思う。屋根は瓦で、襖や畳、昔では当たり前だった建物が今ではあまり見なくなったから、珍しいと思う。


 けど、こんな大きな屋敷に住んでいる達也はお金持ちなのだろうか?家政婦もいるし、両親はどんな人なのだろうか?




 そんな事を考えていると、近づいている人に気づかなかった。





「誰だい、アンタ」




「え……?」




 ボンヤリと中庭を見ていた目線を声がした方を見ると、そこには、淡い紫をした着物を着ている人ーーー達也の祖母がいた。










 


 ーアスタロトグループ本社・会長室ー






 香坂と別れた後、俺はアリスの件やいつも通りの職務を片付ける為、書類と睨めっこをしていた。



「この書類は……にしてくれ」


「はい」


「計画されていたリゾート地の件だが、地域の住民の意見が割れているーーと言ったな?」


「はい……土地や建設準備は万端ですが、周辺の住民から反対意見が……」


「反対意見を無視して建設すると、後々言われそうだなぁ……」


「あと、この件ですが……」


「まぁ〜だ、あんのかよ」

(まぁ……アリスの護衛で仕事をサボってたし、しょーがねぇか)




 次々と溜まっていた書類や仕事の話が勢いよく襲ってきた。


 助けを求めようと、護衛兼秘書の海堂に目線を送ったが……無表情の無言で返答してきた。




「かぁ〜!なんでも来いやぁー!片っ端から片付けてやるわぁ!」








 1時間後








「ふぇ〜……俺はぁ〜もぉ〜、疲れたぞぉ〜……」




 バターン!と来賓用のソファーに寝そべるように倒れた。




「お疲れ様です。会長。紅茶とお菓子を用意しました」


「お、気がきくねぇ……っと」




 俺は寝そべる状態から座るようにし、海堂が持ってきてくれたお菓子と紅茶を飲んだ。


 いくら暖房が効いているといえど、会長室は会議室と同じぐらい無駄に広いので、少し冷えていた。


 口に広がる美味しいお菓子……心まで癒してくれる暖かい紅茶……こりゃー疲れが癒えますわ!




「か、会長ぉ!」




 なんだよ。俺のティーandスイーツタイムを……。





「ノックもしないで、入ってくるとは……何用だ」




 海堂が俺の代わりに聞いてくれたので、面倒さい事は海堂に丸投げしよぉ〜っと、決めた。


 ノックもしないで入ってきた男は、アスタロトグループ本社の警備を務めている黒龍会の組員なのだが………その組員が焦ってノックを忘れる程の事が起きた事は、すぐに分かった。





「はぁ…はぁ…!ふ、が帰って来ました!」







 副会長と言う言葉を聞いた海堂は不機嫌そうにし、俺はもう帰って来たのかと思った。


 海堂は不機嫌そうな表情にしながらも、会長室の扉の所まで行き、両扉を閉めた後、鍵も閉めた。




「海堂、何やってんだ?」


「あのバカには会長室に入る資格はありません。よって、閉めさせて貰います。と思いますが」


「あはは……確かに、あのオッサンにはだな」




 少し時間が経った後、扉のノブをガチャガチャとひねる音が聞こえたが、諦めたのか聞こえなくなった。









 と、思ったら






 ドカァン!!!!!








「よぉ〜!元気にしてたか?ボーズぅ」







 蹴飛ばされた扉の先には、龍の模様が金の刺繍をされていた帽子を深くかぶっているアスタロトグループ社副会長がいた。









ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。



作者☆


どーも、海男です!


まず最初に………本来は、金曜日の深夜0時に更新する予定がぁ!アークナイツというゲームにハマりすぎて、予約するの忘れてました。すんません。




補足


お菓子を英語でなんて言うのかなぁ〜と思い、調べると、スイーツというらしいです。

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