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猛烈にヤバい状況になっていると言えるだろう。
私はただ、ただ!綺麗に手入れをされてある中庭を見ながら、「達也よぉ〜、早く帰って来いぃ〜」と思っていただけなのにぃ!
どーして、お祖母様と会ってしまうのだろうか。と言うか、居るなら居るで達也も教えてくれても良かったんじゃないの?
「ほら、アンタも突っ立ってないで……ここに座りな」
「あ……はい」
いきなり現れた事にビックリした私は、渡された座布団を廊下に敷き、達也の祖母も隣へと座った。
達也のご両親にも挨拶をしていないのに、一段飛ばして、お祖母様と会ってしまった。
これは由々しき事だ。心の準備も出来ていないし、服装も借りた服だし、初めて会う人は第一印象で決まる……とも言う。
だから、私は焦っているのだ!
その事を考えている私に対して、達也の祖母は、中庭を遠い目線で見ていた。少しの間、無言の空間が続いてしまった。
「アンタ、名前はなんて言うんだい」
「わ、私……ですか?」
「アンタ以外に、この場に誰が居るって言うんだい。さっさと言いな」
「私は……白崎、結衣と言います。……達也とは……同じ同級生です」
私の名前を聞いた達也の祖母は何を聞いて驚いたのか、少し目を開いて、何度も聞いて来た。
それに対して私は困惑し、同じ事を言うだけだった。自分の名前、達也と同じ同級生……それだけを聞いて、祖母はどうして驚いたのかが、分からなかった。
「そう……かい。アンタは、白崎って言うのかい」
「……」
(なんで、何度も上の名前を聞いてくるんだろう……?)
「いや、なんでもないよ。ちょっと……昔に聞いた事があると、思ったけど、忘れたわ」
話を逸らすように隠したが、私は知りたかった。
どうして、達也の祖母が白崎という上の名前を会う前から知っているのか、それを、何故隠そうとするのか……私は、それが知りたい。
隠そうとする達也の祖母に、聞こうとすると、中庭へと向けていた目線が、私の目を射抜くように見てきた。
「アンタは、達也とはどんな仲なんだい」
「達也……とですか、一応……友達です」
「友達、一応……かい。前々から、達也からアンタの事を聞いていたが、中々良い子じゃないか」
「え……?達也、が……」
達也が私の事を、祖母に話していた事に少しの驚きと恥ずかしさが芽生えた。
「あぁ、食事の時に良くアンタの事を言ってたよ。学校一綺麗な〜とか、可愛い〜とか」
「達也が……ほぉう」
(なるほど……達也は、家で……そんな事を……恥ずいわ)
率直に恥ずかしい。
もしかして、ご両親にも……!?ヤバい、非常にヤバい。どうにかして、印象操作をしなければ………私の立ち位置がぁ!
達也が私の事を既に話していた事に、自身の立ち位置が"出来る女の子"から"可愛がりたい女の子"なってしまう。
「アンタの事を聞くまで、達也からは女のおも無かったんだ。だから、そんな達也を堕とした女を、死ぬ前に一目見てやろうと思ったんだよ」
「堕としたって……そんな、事」
(堕としたと言いますか……堕とされたと言うか)
「まぁ、私は放任主義だからねぇ。好きなようにすれば良いと思ってるが、アンタが悪い方の女なら、私自らの手で潰してやろうと思ったんだけど………その必要は、ないらしいね」
ヤバい、私、良い子で良かった。じゃなかったら、潰される所だったわ。
何かと恐ろしい達也のお祖母様に、私は戦々恐々になっていたが、そこまで孫の為にするのだろうか、て言うか、それは放任主義と言えるのだろうか。
達也のお祖母様と初めて会った第一印象は、『達也のお祖母様だな』と思った。同じ学生とは思えない程の落ち着き、その場その場で起きる事に冷静に対処出来る……簡単に言えば、クールだと思う。
荒木君やちーちゃんと私で遊びに行ったり、夏祭りやイベントとかにも行ったけど……私は達也の昔は知らない。達也も私の事を知らない。この感じが、嫌だ。
「アンタは……達也の事、どう思ってんだい」
「え……?」
「達也の事だよ。アンタらはら、もう17、8だ。思春期って言うんだっけ……異性として、達也の事をどう思ってんだいって聞いてんだ」
「達也の……事、ですか」
「あぁ、友達として生きるのか。それとも恋仲として、人生のパートナーとして生きるのか。ここで、ハッキリしな」
「恋……仲……」
達也と恋仲……と聞いた途端、私は目から涙が出てきた。
「な、なんで泣くんだい。ほら、これで拭きな」
「あ……はい、すみません」
達也の祖母から布のハンカチを受け取り、今だ流れている涙を拭いた。しかし、何度も拭いても、ずっと、ずっと涙が止まらなかった。
何故なら……。
その質問に、答える資格が私には無いからだ。
「かぁ〜っ!うめぇ〜!」
「飲み過ぎだ。野崎。会長の前だぞ」
「そぉ〜言いなさんなって、ほら、久しぶりに出会いだし、一緒に飲もぉ〜ぜぇ」
「お前と言う奴はぁ……っ」
仲が良い?海堂と帰ってきた副会長を見ながら、俺は再度入れ直した紅茶を口につけた。
「で?お前が、帰ってきたって事は……」
「おう。前会長の墓参りに来たんだ。去年は色々と用事があって来れなかったが……今回は行かねぇとなぁ〜って」
「だから、会長には敬語を使え。それと、酒を飲むな」
「良いじゃんかぁ〜、別にぃ〜」
「良くない」
真面目な海堂、お気楽な野崎。性格も正反対で仲が良いのか悪いのかは、良く分からないが、まぁ、良いだろうと思う。
この二人は、俺の親父が現役で会長を務めていた頃、海堂は【右龍】。野崎は【左龍】と呼ばれ、俺の親父と他の組や組織に【龍ノ衆】達を連れて、潰した事があると聞いた。
しかし、俺の親父が亡くなったと同時に、野崎は会長代理として俺が会長になるまで、アスタロトグループ社を守り続けたのだ。だから、頭が上がらない人の内の一人なのだ。
「それで会長殿は、いつ親父の墓参りに行くんです?」
「そう……だな。明日は学校に行くし、今週の日曜日辺りに行く」
「俺は先に行かせて貰いますね。旅行先で奪った高級そうな酒をお届けに、ね?」
副会長の野崎から聞こえた『奪った』と言う言葉に、俺は少しため息をついた。現在、野崎は副会長と言う立場にいるが、殆どは業務をやっていない。
野崎は『会長代理として数年働いた』と言って、側近達とバカンスに行ったが………今は何故か、マフィアと抗戦になったりと、訳の分からない事をしていると聞いている。
「じゃ、俺は親父が好きだった饅頭でも持って行きますかね」
久しぶりの恩人と会えた俺は、微笑みながら、夜景を見つめた。
ーーー
誤字、脱字などが有ればコメントしてください。
作者☆
毎週の金曜日の0時に更新をしているのですが、来週の月曜日から金曜日まで、学校の都合で執筆出来ないので、次の更新は、再来週となります。
ごめんね
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