5ー23





 山蘭とシャムは、管理ルームにいるベンガルと合流する為に向かって走っていた。




「リーダー、やっぱり外にいるニャン吉と繋がらない!」


「………今はともかくベンガルと合流する事に専念しましょう。あの二人に何かあっても、大丈夫でしょう」



 特にかく管理ルームへと走っている二人は、階段も飛び降り、最短で最速で向かおうとしていた。


 

 その二人を、防犯カメラはしっかりと映していた。



 リーダーの山蘭は、管理ルームに行く道中に一つの疑問が浮かび上がった。



「………」

(どうして、あんなにいた警備員が急にいないんだ……?)



 通路にも、通り過ぎる道にも、人気が無く、思っていた疑問は段々と膨らみ、焦り、恐怖が心に出てき始めた。


 不審な事が有れば、管理ルームにいるベンガルが報告をしてくれる筈、なのに来ないと言う事は………、考えたくは無いが、無くも無い。


 嫌な考えが浮かび上がった山蘭は更にスピードが上げ、管理ルームへと着くと、扉は開けられており、ゆっくりと開けると、そこには……。




「り、リーダー!ベンガルが何処にも居ない!」


「……ちっ、遅かった」

(嫌な予感はしてたが……狙いは私やシャムじゃなくて、ベンガルだったか)




 山蘭は冷静に状況を整理しているが、シャムは慌てた表情を浮かべ、辺りを探していたが………見つかる訳が無かった。


 荒れた形跡は無く、無人の部屋となっている為、もしかしてたらベンガルが一人で外に行っているのでは?と言う考えも捨てきれない。




「シャム……シャム!しっかりしなさい!」


「けど……ベンガルは……」


「まだ、ベンガルは捕まった訳ではありません。身の危険を感じて一人で逃げた可能性があります」



 なんとか半乱状況のシャムを落ち着かせるようにベンガルは無事かもしれないと言った。



 しかし、その考えは少なくとも無い。



 彼女がそのような行動を起こす時は、連絡するか、何かしらに残しておくだろう。と思ったが、その様な事を出来ない程の状況だったかもしれない。


 ベンガルが居ないとなると、外にいる仲間の元へ行く事にした。管理ルームを出ようとした時、管理ルームにある複数のパソコンの画面が段々とつき始め、最後の画面がつくと、画面にはアスタロトグループ社の諜報部であるマークが映し出されていた。




『待ちなさい。そこの二人』


「「……!!!」」



 まさか、と思った二人は警戒し、シャムは持っていたナイフで一つの画面に向かって投げ、突き刺した。


 しかし、他の画面にマークが移り、別の声へと変わった。




『やっほぉ〜!聞こえてるぅ〜!もしもーし、あれ?英語?アラビヤ語?チャイニーズ?ありゃ?聞こえーー』


「聞こえてます。貴方……は誰ですか?」


『ふっ、私は名乗る程の者ではなりませんよ』


「「………」」

((なんだ、こいつ))


『……そんな冗談は置いておいて。本題へと行こうか。まぁ、今君達が探しているベンガル?って言う子は、こっちで預からせてもらったよ』


「……!」


「……では、返して頂いても良いですか?私の大事な仲間なので」


『それは無理難題だねぇ〜』


「それはどうして?」



 どうしてかと聞くと、シャチは当たり前のように告げた。



『お上様の御命令だからだよ。絶対厳守〜』


「お上様……アスタロトグループの会長、ですよね?」


『そーとも言う〜。だ、か、ら、無理って事で諦めて下せぇ』


「………」


「あんたっ!ただじゃおかないよ!絶対に見つけ出してやる!」


『出来るものやらやってみろやぁ〜い。その間に仲間が生きてたら〜の話だけどねぇ〜だ』




 今の私達には何も出来ない。


 シャムも悔しそうに画面を睨みつけ、私も悔しくて手を出しそうになるが、そんな事をしても意味は無い。


 この手のやり方はよく知っている。相手を苛つかせ、焦らす事で思考回路を鈍らせる作戦だろう。始末する為ならわざわざ捕虜として捕まえなくても、この場で殺せば良い話。それをしないと言う事は……。




『ま、殺すなんて事しないんだけどねぇ〜』


「やはり……」


『お?君は分かってたのぉ?まー、わざわざ捕まえたのに殺すなんて手間が掛かるからね〜』


「リーダー……?どう言う事?」


「……ベンガルは交渉材料として確保されたのでしょう。交渉材料を殺すような事は無いはず、でしたらベンガルを助けるチャンスはあります」



 山蘭がシャムに説明すると、それを聞いていたシャチも満足そうな声を出した。



『て、事だからぁ〜。取引に関しては後で説明するよ〜。ま、の問題だけどね〜』


「………」

(後で……か。早く外にいる二人と合流しないと……!)




 ここには用はないと思った山蘭とシャムは、管理ルームを出て、外にいるニャン吉と

ソマリへと向かって走って行った。








ーーー








 公演館・駐車場






 本来なら、静かで無人の車が複数台並ぶだけの場所な筈だが、そんな場所は戦場の場へと化していた。



「あはは〜!!!楽しいねぇ〜!!!」


「……」


「ねぇねぇ、黙ってないで、少しはおしゃべりしよーよー!!」


「……!」




 ソマリは両手に持っている短刀を諜報部の一員に投げると、闇の中へと消え、それを他の諜報部の一員が追いかける。


 ソマリ、ニャン吉に対して人数不明の諜報部に多勢に無勢と思うが、ソマリは腐っても忍者の末裔。そう簡単にはやられない。しかし、それでも諜報部の者達は"鴉"の命令を遂行する為に命を捨てる覚悟でいた。


 ソマリが諜報部の者と刃同士をぶつけ合うと、他の者がソマリの背後を取り、両腕を押さえた。



「あ!」

(捕まっちゃった!)


「………」


「……え!」

(どうして、このまま……!?!?)




 諜報部の者からの押さえられている腕から逃れようとした瞬間、他の二人が仲間もろとも刀を刺してきた。




「危ないですニャ〜ン……」

(仲間ごと刺してきた……。こりゃ〜、手強い相手ですニャンねぇ…)


「おっ?サンキュー!ニャン吉!でも……危ないよ?」


「ニャ?!」




 拘束されていたソマリを助けたニャン吉の頭上には、月を背に、ソマリとニャン吉ごと仕留めようとしている"鴉"がいた。


 下には新たな諜報部の者達。上には強敵である"鴉"。ニャン吉には、回避できないが、ソマリはニャン吉を右に投げ飛ばし、自分自身はそのまま攻撃を受けた。




「ガハッ!……けけけ、効くねぇ〜……だけど、これならどうだ!!!」


「「「………!」」」




 ソマリの手には空き缶と同じぐらいの大きさの物を持っており、口元には安全ピンを加えており、不敵な笑みを浮かべていた。


 手榴弾だと思った"鴉"と他の者達は、その場から瞬時に離れ、爆発範囲から逃れようとしたが、ソマリが持っていたのは手榴弾では無く、煙が出るスモーク弾だった。




「ドロンッてね!」

(少しだけ休まないと……体が……)


れ」


「……クッ!」



 スモーク弾だと分かった"鴉"は、部下に命令し、命令を受けた部下達は無数の投げナイフをスモークの中に投げ、その内の二本がソマリの体に刺さった。



 しかし、その場にソマリはおらず、消えていた。




「……なかなかの曲者ですねぇ」


「それは、あんたら達が言える事ニャンか?」




 無事に着地出来たニャン吉は、睨み付けるように言いながら、"鴉"に神経毒のガス缶を投げたが、投げられたナイフで落とされた。



 



 それに対して、"鴉"は………。





「当たり前です。我々『暗ノ道』は、会長の命令に従い、実行する者ですから」


「くっ、それはー!」


「黙りなさい。である貴方には、言う権利などありません」


「………狂っているニャン」




 確かに、諜報部がしている事は常人から見たら狂っている行動にしか見えない。


 ソマリを拘束した仲間ごと刺そうとし、己の命を投げ捨てようとも命令に従っている行動は、理解出来ないのだ。




 しかし、それが『諜報部』"暗ノ道"だ。




「裏切り者には、制裁を……。


 仇す者には、天罰を……。


 会長の進む行く覇道を妨げる者は、決して許さない」


「その思想がっ……大っ嫌いだニャン!!!」




 ニャン吉は、その場に四方八方にソマリが投げたスモーク弾よりも濃い煙幕を出し、勢いが良く、五分も足らずに周りは煙だらけと化していた。


 ただのスモークかと思いきや、神経毒や催涙などの多種が混ざっており、諜報部の者達と"鴉"はスモーク外に逃げ、ニャン吉は大怪我を負っているソマリを担いで、逃げようとしていた。




「今の内に逃げるニャンよ!」


「やぁ……だ。私は……もっと、戦いたい」


「そんなボロボロの状態で言える事じゃないニャン!」




 まだ、戦いたいと言っているソマリの体はボロボロだ。諜報部の者達から受けた傷や怪我、腹から血が出ていた。


 急いで逃げようとしても、煙外には諜報部の者達がおり、どうしようかと考えていると、車の音が聞こえ、振り向くと煙の外から一台の車が来た。




「リーダー!シャムニャン!」


「早く乗ってください。この場から去ります」


「分かったニャン!」



 車に乗ったニャン吉とソマリを確認すると、運転席にいたシャムが思いっきりアクセルを踏み、スピードを出して、スモーク外へと出た。




「………」

(アスタロトグループ会長、この仕返しは高くつきますよ)





 山蘭とシャム、ニャン吉とソマリを乗せた車は公演館から出て、夜の闇へと消えて行った。








 それを見届けた"鴉"は、小さく息を吐き、アスタロトグループの本社の地下にある管理AIに報告した。




「予定通り、逃しました」


『了解。"鴉"を含む諜報部『暗ノ道』は、その場を事故として処理し、を向わせているので、2時間程度で終わらせるように』


「了解致しました」


『アリス公演が終わり次第、貴方達の任務は終わりです』



 管理AIの報告を終わると、後ろを振り向き、諜報部の者達を見た。


 それぞれには仮面を付けており、表情や顔、容姿などは分からないが、同じ志を持っている事は分かっている。




「裏切り者よ……。我々は、元より表社会に溶け込めなかった者の集まり。ある一人の男に助けられ、恩を返そうとしたが……その願いは叶わなかった」




 『諜報部』"暗ノ道"は、達也の父に助けられ、我々の道を導いてくれた存在。しかし、恩を返す前に亡くなってしまった。


 そんな残された我らが出来る事は、恩人である息子、黒崎 達也とアスタロトグループ、黒龍会を守る事だ。







「その為なら、険しい修羅の道や茨の道へも歩もうじゃないか」





 


 隠に潜み、隠から暗躍する"暗ノ道"は、また、影から支える為に、誰にも悟られず、知られずに、生き続ける。








ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。



作者

後、3話?4話?ぐらいで第五章を終わります。


次回は、達也や結衣も出てきます。






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