5ー24







 アリスの公演もとうとう終盤に入った。





 終わりに近づくと、名残惜しさや良かったと言う満足感に浸ってしまうが、俺は別の事を考えていた。




「……はぁ」

(公演が終わり次第、自分の仕事をきちんと終わらせますかねぇ……)




 ここに来た理由は、"結衣と一緒にアリスの公演を見に行く"となっているが、裏では"ブルーキャットの暗殺の現場に結衣一人で行かせてたまるかぁ!"と言うのが、俺の本音だ。


 本来なら、ブルーキャットの暗殺阻止を部下達に任せちゃお〜っと思っていたのに……まぁ、この有様。




「……?」


「いや、なんでも……もうすぐで終わるんだなって」

(あんな事される為に来たんじゃ無いんだけどなぁ〜)


「……うん……寂しい」




 俺が横目で結衣の事を見ると、それに気づいたのか「何か?」みたいな顔をしていた。


 最初に会った時も「私の残り湯飲まないでね?」とか、どこぞの変態やねーって。結衣って、無自覚で殺しにきてない?さっきの「……特別でいてね」とか……そんなカッコいいセリフを言ってみてぇよ!



 無自覚なのか、意図的にやった事なのかは、彼女のみぞ知る……と思った俺は早々に考える事を放棄して、最後の最後まで満喫する事にした。


 


「……流石、歌姫だ」

(しかし……まぁ、綺麗だな。その美貌も勿論に歌声も最高とは、ねぇ)




 アリスは、その美貌で何人もの男や女を虜にしたのやら、そして最高の歌声も有れば……苦笑せざるおえないな。


 かと言って、自分が狙われていると知っているのにも関わらず、堂々と立って歌っている姿は………なんと言うか、命知らずというか、まぁ、それだけ信頼されてるって事だな。




「……ん?」

(メール……シャチからか。て事は……)


 


 ポケットが振動し確認するとスマホにはメールが来ていた。シャチからのメールだと分かると、隣にいる結衣に横目で確認した後にメールの内容を見てみると……。




『報告書No.1


 ・アリス暗殺を目論んでいた暗殺組織ブル

  ーキットを撃退。


 ・ブルーキャットの一員である"ベンガル"の

  身柄の拘束。


 ・しかし、公演館駐車場にて"暗ノ道"と戦闘

  し、複数台の車が破損。事故として処理

  している最中です。



 その他の報告が有れば、その都度に報告致します。』





 それを見て、少し安堵した。



 優秀な部下達があれど、アリス本人が暗殺される様な事が起これば、我が社の名に傷がつく事になってしまう事になったかも知れなかったのだ。


 まぁ、結果は上々。


 もしもの為に、偽のアリスを用意しておいたが……必要は無かった様だ。




「……」

(ま、こんな綺麗な歌声までは……偽のアリスでは表現出来んだろけどな)




 アリス暗殺を阻止できた事に、安堵した俺はスマホの画面を消し、前を向いた。







 

 とあるホテルや部屋では、怒り狂う女性の姿があった……。



 

「なんでよっ!」




 怒り狂う女性は、目の前にあったワインを床に投げ捨てた。




「もうすぐで公演が終わるじゃないのっ!何してんのよ、あの女は!」

(いつ殺すのかと期待してたのにっ!全然死なないじゃないの!)




 彼女の名は、レシー・ローン。


 アリス暗殺を企て、依頼した者だ。しかし、予定時間になってもアリスが死なない事に苛立っていた。


 それはそうだ。この女は依頼した暗殺組織が失敗している事など、この時は思っても見なかったからだ。どうして殺されないんだと思考に至ると、一つの事を思い出した。




「……ちっ!」

(アスタロトグループ……あの女が言ってた会社が、暗殺の邪魔をしたのね!!!)

 



 その答えに行き着くと、更にイライラし始めてきた。


 アリス暗殺が失敗となれば、ここに私がいる理由も無い。早速、このホテルから出て、空港へ向かう準備をしていると、部屋の扉からコンコンとノックされる音が聞こえてきた。




「……はーい」

(誰かしら?今日は、誰も来ないはずなんだけど……)




 少し怪しみながら、部屋の扉を開けると……ニコニコと笑顔をしている茶色のスーツ姿の男がいた。




「こんばんは」


「…こ、こんばんは……」

(誰?この男……見た感じ、従業員って感じじゃ無さそうだけど)


「えーと……レシーさんで、よろしいですね?」


「そうですけど……貴方は?」




 私は、誰なのかと目の前にいる男に聞くと、男は胸ポケットから一つの物を取り出した。




「水道管理会社、須藤春代……さん?」


「えぇ、このホテルから水漏れと言いますか水道ポンプが破裂したと、ご報告が受けましたので、点検に来たのですが……少し、お時間よろしいですか?」


「………えぇ、大丈夫です」

(数分程度なら、構わないわ……さっさと終わらせてもらいましょう)


「ありがとうございます、すぐに終わらせますので」




 はぁ……と、ため息をつきながら須藤という人を入れ、さっさと終わらせて貰おうとした。


 その須藤という男が、ベランダへと行くと、客が泊まっているのに作業員を入れるのはどうかと思い、ロビーにいるホテルの職員に文句の電話を入れた。




「ちょっと、良いかしら」


『はい、なんでしょうか』


「まだ私が泊まってるのに、作業員を呼ぶのって非常識じゃない?どうなってんのよ」


『え?えーと、確認致します………。あのー、作業員の方と言うのは、一体どんな人ですか?』


「水道管理会社の須藤って、言う人よ。さっさと終わらせて帰って貰えないかしら?」


『あのー……今日、ですけど……』


「は?どういーー……って、切れたじゃないの!」




 いきなり、電話が繋がらなかった事に苛立てたレシーは、テレビでも見て、気分を落ち着かせようとテレビのリモコンを持ち、テレビに向けても、つかなかった。


 何度も電源ボタンを押し、つけようとしたが、つかなかった。どうして?と思った時、部屋の電気が全て消えている事に気づいた。




「……」

(テレビもつかないし、照明の電気も消えてる……まさかっ!)




 ベランダにいる水道管理会社の須藤の方に振り向くと、目の前が真っ暗になった。突然の事で、大声を上げようとしたが、口も何かに塞がれてしまった。




「……!」


「騒がないで下さい。此方も手荒な事はしたくないので」


「……」


「もう、ご存知かと思いますが……私は水道管理会社の者ではなく、の近藤と申します」


「……」

(公安……て事は、警察!)


「本当は、事件の関係者としてご同行して貰おうかと思ったのですが……向かう逃げる素振りをしていたので、この様な行動に移させて貰いました」



 

 前も見えず、鼻も効かず、口も塞がれている状態で頼れるのは耳だけ、少しの怒りと恐怖心でいたが、命まで狙われる事は無いと、少し安心していた。





 しかし、その思いはたった一人の行動で覆される事になった。




 バリンッ!!!!!!





「え……?」




 レシーを半拘束していた近藤と名乗る警察が、いきなり離れ、逃げるチャンスだと思ったレシーの胸と胸との間から血が滲み出てきていた。




「え、なんで……私の胸か……ら、血……が……」


「クッ……!」

(どこからだ!!!どこから




 1発目に撃たれた狙撃銃の弾が、近藤の片腕を貫通し、レシーの心臓へと当たったのだ。


 片腕を撃たれた近藤は、腕を押さえながらコンクリートで出来た壁にもたれ、外にいる仲間へと連絡を入れた。




『近藤さん!今、近藤さんのいる部屋のガラスが落ちてきましたけど、大丈夫ですか!?』


「大丈夫か、大丈夫じゃないかと言えば……大丈夫じゃないですねぇ……。君は、今すぐに救急車を呼んで下さい。後、この部屋には、絶対に他の者を入れない様に……」


『わ、分かりました!』




 下にいる部下との連絡を入れた近藤は、片目だけ、外に目をやり、どこからだ撃ってきたのだろかと索敵し始めた。




「……」

(ここら辺は高層ビルの群、そう簡単には……見つかりませんか)




 倒れているレシーの体に目線をやると、確実に殺す為に、心臓を狙っているのかが分かった。


 本来なら、穏便に済まそうとしたのに……この様な事になる事は、流石の近藤でも想像はしていなかった。




「これでは、達也君に顔向け出来ませんねぇ……」




 近藤は、達也の呆れる顔を思い浮かぶと、苦笑し、部下が来るのを待っていた。





 


 高層ビル屋上





 狙撃銃という等身が横長い銃があり、その使い手である狙撃手は、双眼鏡でレシーと近藤がいる部屋を覗いた。




「…………死んだか」




 双眼鏡の先には、狙撃銃で撃たれたレシーがホテルの部屋で血を流しながら倒れていた。


 安否を確認した狙撃手は、狙撃銃を持ち、ギターケース並の大きいバックに狙撃銃を入れ、背負い、屋上から出た。





 それを、見ていた者がいる。




 四つの小さなプロペラをついているドローンが、狙撃手がいた屋上の下から出てきた。


 そのドローンには、小型のカメラが付いており、狙撃手が出ていた屋上の扉を映していた。






『ニャル程ねぇ〜……こりゃー、予定外だ』







ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。



作者☆

えーと、一つの修正したい事があります。


『黒龍組』→『黒龍会』


に、変更致しますので、よろしくお願いします。

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