5ー21




 公演館駐車場ーー。





 アリスの命を狙う犯罪組織ブルーキャットのリーダーである山蘭と黒龍組の戦闘員である炎悟と氷宮が交戦している同時刻、外で待機しているソマリとニャン吉は、暇でボケェ〜としていた。



「……ねぇ〜、ニャン吉ぃ〜」


「ニャンですか〜?」


「暇だねぇ〜……」


「そうですニャンねぇ〜……」



 暇だぁ〜、暇ニャンねぇ〜と言っている二人?一人と一匹?が暗闇の駐車場の場にいた。


 運転車側に猫の着ぐるみを着ている者が、もたれかけており、もう一人のソマリは車のルーフ(屋根)で、落っこちないように寝転んでいた。



「遅くなぁ〜い?もう、始まってるでしょ〜」


「そうですニャン……ねぇ」

(ベンガルは個人の戦闘力は無くても、他の二人はそこら辺の奴らに負ける筈が無い……)


「もぉ〜!!!我慢出来な〜い!!!私、乗り込んでくるぅー!!!」


「にゃ?!ちょっと、待つニャン!!!」



 車のルーフ(屋根)から飛び降りて、公演館の出入り口へと向かおうとしているソマリを止めようとした。


 ソマリは、暴れ好きだ。アリス暗殺を計画しているのに戦闘狂のソマリが参戦する事で、計画していた事が台無しになってしまう。



 その時……!



 ソマリは追いかけてきたニャン吉に向かって、一刀の短刀を一線を描くように飛ばしてきた。


 ニャン吉は、驚きながらも避けようとしてしたが、その前にニャン吉の隣から他の短剣が、ソマリが飛ばしてきた短刀とぶつかり合い、弾け飛んでいった。



「……!」

(どこから……!?)


「アハハ〜!ニャン吉〜。油断?たいてき?だよぉ〜」


「ありがとうニャ〜ン……の前に……」


「囲まれてるね〜!ぜんっぜん!気づかなかったよぉ〜!」



 楽しそうにソマリが言うと、暗闇から無数の仮面が浮かび上がってきた。鳥類系の仮面が右や左、後ろや前にもいた。


 ソマリは腐っても忍者の末裔。昼夜関係無く、周りの気配に気づくのにも関わらず、ここまでの人数に囲まれている……と言う事は、それなりの実力者か、それ以上か。


 ニャン吉は、己の知能をフル回転させながら、この場をどう打開しようと考えると、無数の仮面から一つの"鴉"の画面をつけた者が足音を鳴らさず、近づいてきた。



「こんばんは、殺し屋のお二人さん」


「こぉ〜んばんわ〜!もしかして!さっき投げてきたのって、貴方?」


「いやいや、あれを投げたのは私では無く、他の者ですよ」


「………」

(こんな状況で、挨拶とか……ソマリもソマリで、なんで元気そうなんですニャン?)



 "鴉"に対して9割警戒と、ソマリに対して呆れ1割で辺な感じになっているニャン吉は、周りにいる者達を気にしていた。


 目の前にいる"鴉"をつけている者や周りにいる者は、アスタロトグループ社が手配したので間違いないだろう。同じアリスの暗殺を狙う者なら、自分達の前に暗殺対象を殺すのだが、それでは無いとすれば……。


 そう思案をしている自分に対して、"鴉"は見透かしているかのように考えていた事の答えが帰ってきた。



「ご安心下さい。貴方方が……ですから」


「……っ」

(最後、と言う事は……他にも)


「最後ぉ〜?どう言う事ぉ?最初とか、あるっけ?」


「他のの方達は、公演が始まる前にこちらから出迎え、済ましたのでご安心頂けたなら、幸いです」


「……ありがとうですニャン」

(撤退するか?それとも、このまま……)



 撤退か、戦闘かの選択を迫られたニャン吉の事なんか知らないと言わんばかりに、ソマリは"鴉"に向かって刃を向けていた。


 周りにいた者達は、殺気を隠していたとしても、自分とソマリを狙う事は分かった。しかし、人数の差は大きい。それでも、ソマリは戦闘狂だ。お構い無しなのだろう。


 満面の笑みに、戦闘に飢えた両眼をまだ、見えぬ敵に向け、いつでも襲いかかろうとしていた。



「もぉ〜っ、我慢出来ないっ!強い奴からでもっ!多数でもっ!私を、楽しませろっ!!!」


「仕方ない……リーダーが来るまで、持ち堪えるっ!ニャン!」





 

 一直線に、"鴉"の方へ向かう二人に対して、"鴉"は、微動だにせず、臆さず、己に言い聞かせるように……。



 



「我らは、『暗ノ道』。隠に潜み、誰にも悟られず、裏で支える者達……命を捧げても、会長に仇す敵は………抹殺する!!」





 その声と同時に、後ろにいる諜報部『暗ノ道』とソマリ、ニャン吉の戦闘が始まった。












 公演館内部では、犯罪組織ブルーキャットのリーダーである山蘭とアスタロトグループ関東支部長、炎悟、氷宮との戦闘が繰り返されていた。



「……クッ!」


「おぉっと!あっぶねぇな。ナイフ投げてきたと思ったら、殴ってきやがった」



 炎悟と山蘭では、基礎体力の差が段違いだ。それを山蘭は分かってはいるが、規格外過ぎる。殺傷能力は少なくとも、体力を相当削っている筈なのに、まだ、動く炎悟に対して、怒りを覚えてきた。


 そして、警棒を持っている氷宮は、的確に間接や急所を狙うように振り下ろしては、なぎ払うように攻撃してきた。



「炎悟、相手は殺し屋だ。油断するな」


「へいへいっと!さぁ〜、もうワンラウンドしよーじゃねーか!」


「……」

(戦闘が始まって約15分……まだ、外にいるソマリやニャン吉とは繋がらないのか……!)



 休ませないように、炎悟が山蘭を襲い、スキが出来たと思った時には、もう一人の男が警棒で狙ってくるーー。連携も悪く無く、まるで本当の"兄弟"のようだった。


 外にいるソマリやニャン吉の前に、ベンガルやシャムにも対して不安になってきた。こちらから連絡出来ないとなると、あちら側も出来ないはず、なら、不安に思う筈だ。



「おらおらっ!よそ見してっと、死んじまうぞぉ!」


「クッ!この、化け物が……!」

(アリス暗殺は、中断……撤退するべきだ!)


「ハッ!化け物か、それはなかなか好きな名だぜっ!!!」



 後ろに逃げたとしても、すぐに追いかけてきては殴りかかり、それを避けると、その先にもう一人の男がいる。


 しかし、私を含め、目の前にいる男二人を呼吸を整えるなどをしており、体力は削られ、削りをしている事が分かる。




 その時、後ろの扉からドカンッ!と大きな音がした。





「リーダー!助けに来たよ!」




 私と男二人は振り返り、扉の方を向くと、自分がよく知っているシャムがおり、一瞬安心したが、すぐに切り替え、シャムの方へ向かって一直線に走り向かった。


 それに気づいた炎悟は、捕まえるように山蘭に手を伸ばし、捕まえようとするが、その手は、シャムが投げたナイフが刺さり、捕まえきれなかった。



「リーダー、大丈夫!?怪我だらけだけど!」


「私は大丈夫です……ベンガルと他の二人は?」


「ベンガルは管理室にいて、他の二人は繋がらない……仕事の方はどうするの?」




 山蘭は一度考え、結論を出した。




「アリス暗殺は、失敗。今は撤退しましょう」




 悔しそうな表情をしている山蘭に、シャムは、仕方がないと思い、山蘭と共にベンガルがいる管理室に向かって走っていった。







「クッソっ!!!逃げられたっ!」



 手に刺さったナイフを抜き、乱暴に投げ捨てた。


 会長に言われていたのにも関わらず、殺し屋の一人を仕留めれなかった事に怒りを感じている炎悟は、そこら辺にある椅子を壊れる勢いで蹴った。


 そんな炎悟に対して、氷宮は自分のポケットからメガネ拭きを取り出し、自身のメガネを拭き始めた。



「いや、任務は成功だよ。炎悟」


「はぁ?何言ってんだ、お前。仕留めれなかったのに、任務成功とか……わけ分かんねぇだろ!」


「そう怒るな。会長からはもう一つの命令があったんだ」


「もう一つの命令だぁ?なんだそれ」


「『逃げられた場合、そのまま深追いせず、その場で待機せよ』……だ」


「………じゃあ、指をくわえて待ってろって、言ってんのか?」



 会長の命令と聞いた炎悟は、己の怒りとの我慢比べが始まった。本当は、もっと暴れたい。そして、仕留めたかった。


 しかし、そのどちらも達成できず、自分の主人からは、「待て」とも言われ、拗ねているのだ。



「会長がおっしゃっている意味は、分からない。しかし、そう簡単に諦める程の器では無い事は知っているだろう?」


「……あぁ、そうだよ」


「なら、何かしらの意味があり、俺達に待機命令を出したんだ。それに従うのが、俺達の仕事であり、義務だ」


「ちぇ……」




 椅子にもたれ、項垂れている炎悟の隣に、氷宮も座り、会長の命令に従う事にした。










ーーー

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