5ー20
ブルーキャットのリーダーである山蘭とアスタロトグループ関東支部長である氷宮と炎悟が交戦同時刻ーーー。
待ちに待ったアリスの公演。
隣にいる結衣は、ソワソワとしながらも楽しみなのか、口角が少し上がっており、楽しみにしていた。
周りにいる他の客も、友人や家族、恋人と来ているのが過半数なので、楽しみなどのお喋りが聞こえて来る。
「………」
(防音になっているから、外の音は聞こえないが……もう、始まっているのか)
「……ん?……何か見てるの?」
「いや、後何分で始まるのかと思ってな。俺もワクワクしちゃって」
スマホの時刻を見ると、後数分で始まろうとしているのだ。俺はある意味ソワソワもしているし、ドキドキもしている。
氷宮と炎悟が負けるとは思ってはいないが、万が一もある。それに、もしもの事を考えると、逃げられる可能性もある。
公演館の周りには、黒龍組の者も配置しているが、一筋縄ではいかないだろう。こっちは、集団戦で闘る事は多いが、相手は暗殺者。隠密を基本としている者達だから、見つけて、追いかけるのは難しいだろう。
そう考えていると、ステージに一人の女性スタッフの人がおり、マイクを持っていた。
『えー、長らくお待ち頂きありがとうございます。今回、遥々、遠い国から来て頂いている"歌姫"アリスさんの公演を始めます!』
「……始まる……ワクワク」
「あぁ……」
(願わくば、結衣と一緒に最後まで観ていたいが……無理だろぉな)
アリスのご登場もあり、周りにいた観客は少し騒ついたが、少し経った途端、ステージのど真ん中に、スポットライトが当てられた。
そこには、今回の主役でもある歌姫、アリスがおり、目の前には、マイクが設置されていた。瞑想をしているのか、両眼は閉じていたが、音楽が流れるのと同時に歌い始めた。
個人的には、歌には興味は無かったが、どのような物かと期待もあり、アリスの歌声は、周りにいる俺を含め、観客を魅力の渦の中へと巻き込んでいた。
「……やっぱり……良い」
「こりゃ……驚きだ」
(流石は、歌姫と呼ばれているだけはあるな。二十歳前後で、これ程とは……恨まれるのも仕方がないか……)
初めは楽しく、ニッコリと微笑ましくなるような曲で始まり、気分が乗るような感じになり始めた。アリス自身も、溢れるばかりの笑顔で自信満々に歌っていた。
1週間前に会ったような、我儘女とは全く想像が付かない姿であり、それを知ってしまっている俺でさえも魅了されていた。
そんな時、歌が急変した。
今まで楽しく、嬉しい思いをするような歌声から、悲しく、切ない思いを乗せた歌声が聞こえ始めた。アリスの歌声に合わしていた音楽も、暗く、重いような音楽が、どうしたのかと思った。
怪訝な顔で見ていた俺に対して、結衣は少し悩んだ後、肘掛けに置いていた俺の左手に、自分の右手を添えて、恋人繋ぎのよう握り締めてきた。
どうしたのかと思い、聞こうとしたが、先に結衣に喋られてしまった。
「……これは、一人の女性の話……その女性には、家族がいた……けど、不慮の事故で両親を亡くし……悲しみ……絶望した」
「………」
(だから、こんな重い感じになったのか……そう言えば、恋人ウンタラカンタラの事を言ってたな?)
「……そんな事で……心を閉ざした女性は……何も思わず……何も関わらず……一生を迎えるのだと……感じていた」
声は、悲しく、辛そうに聞こえてきた。いきなり、どうしたのかと思ったが、ここで結衣の言葉を遮る行為は、後悔するだろうと思い、無言で聞いた。
「……でも……ある日、出会った」
「出会った……?」
「……そう……絶望した女性に……光となる存在が……強く閉ざした心に……救ってくれた………特別な存在に」
隣にいる結衣を見ると、結衣の目線は俺の方に向いており、その頬は紅く染まり、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「……私にとって、達也は……特別な存在」
そう言った結衣に、俺は急に言われた事に驚きと、"特別"な存在という言葉の意味の理解に出来ていないが、嬉しい事だと無意識に理解した俺は、自分の顔が熱く感じた。
それを見た結衣は、フフッと笑い、恋人繋ぎをしている手を自分の方にいきなり引っ張ってきて、俺は驚いたが、結衣はお構いなしに、俺の耳元でそっと呟いた。
「……これからも……私の特別でいてね」
結衣が言っている"特別"という意味は、俺が思っているので間違いないと確信した俺は、もっと顔を赤く、熱くした。
ーーー
誤字、脱字などが有ればコメントしてください。
作者☆
短くて、すんません。
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