5ー13




 俺は今、公園にいる。時刻的には昼頃なので子供連れの家族やランニングしている者、愛犬と散歩している人までもいる。



「待ち時間よりも早く来すぎたか……。まぁ、いっか」



  俺はいつものスーツ姿では無く、青と白を象徴とした服を着ており、お出かけ用の服だ。小学生の頃は、ゲーム機とかで遊んでいたが、公園で遊ぶ事も多かった。


 しかし、歳を取る度に以前は通っていた通学路も通わなくなったりして公園に行く回数は減ったもんだ。


 どうして、俺が公園にいるかと言うと、学校一の美女であるーー白崎 結衣と待ち合わせしているからだ。


 昨日の夜、自宅に帰っている道中に結衣から電話が掛かってきたのだ。夜の11時を過ぎていたのに電話が掛かってくるのは珍しいなぁ〜と思った。


 内容は、アリスの公演に行く際に『着ていく服を買いに行きたい』と言う内容だった。今の俺はちょっとと言うか、だいぶ緊張している。



 だって……初めて二人で買い物に行くから!!!



 何かしら買い物に行く時は、友人の荒木と竹本と行く事があったし、結衣本人も二人で行きたいと言っていたのだ。



 もぉぉねっ!昨日は緊張し過ぎて寝れなかったらね!



 ま、かと言って、待ち合わせ時間の2時間前から来る程、俺は馬鹿では無い。結衣の前に他の人と待ち合わせをしているのだ。



 安心したまえ、女では無い。



 結衣と会う前に女と待ち合わせとか……そんなクズみたいな事はしません!したいとも……思いません!はい!





 そぉ〜んな下らない事を考えていると、右側から杖をつく音が聞こえてきた。




「遅れてきて申し訳ございません。達也君。少々、渋滞が続いてまして……」


「構いませんよ。さん。俺もついさっき来たばかりですから」




 俺が待ち合わせした人がやっと来た。それでは……の話をしようか。







ーーー







 俺の隣に杖をついて、座っているのは、近藤こんどう 幸仁ゆきひと。グレーカラーの落ち着いたスーツを着ており、黒のネクタイをつけていた。



 表情は常にニコニコと笑っており、目は細く、第一印象は笑顔が良い人……であるが、悪く言えば、表情が読めなく何を考えているのか分からない。



「私の顔に何かついてますか?」


「いや、別に、ただ今日は暑いなぁ〜と思っただけですよ」


「そうですね。もう、夏が過ぎたとしてもまだ秋、冬にはほぼ遠いですから」



 

 俺と近藤さんは世間話をしていた。俺より近藤さんは年上で、よく色んな事を知っている為、話のネタには困らなかった。



 しかし、本当に近藤さんは読めない人だ。



 常に微笑んでいる為、怒っているのか、笑っているのか、悲しんでいるのか、焦っているのか、心底分からない。


 分からないーーと言う言葉は何かと不安要素だらけで疑心暗鬼になってしまう。だが、気にしても意味は無いし、考えるのも放棄した。



「世間話もした事ですし……早速、本題に入っても宜しいでしょうか?」


「えぇ、勿論。では、こちらを……」

 


 俺は隣に置いてあった封筒を近藤さんにそのまま渡した。近藤さんは中身を確認し、満足そうに鞄の中に入れた。



「まさか、びっくりです。だとは」


「えぇ、君から話を持ちかけられた時は内心ビックリしてましたよ」


の貴方方も調べていたとは……驚きです」




 そう、近藤さんは公安だ。



 アリスを狙う暗殺組織【ブルーキャット】の件で近藤さんに電話したところ、まさか、近藤さんを率いる公安も調べていたーーと言う事だ。


 俺が近藤さんに渡したのはブルーキャットに関係している情報が記載されているのを協力者として渡したのだ。



「犯罪組織ブルーキャット……アジア圏内を主に活動している組織。少数精鋭を強みに裏の世界に名を知らしめた曲者の集まり……中々、厄介ですねぇ……」


「えぇ、此方としても苦労しています」

(アリスの高飛車の性格にも苦労しているがな)


「貰った書類に載っているキャットメンバーを元に空港内の監視カメラで照らし合わせてみます」


「密入国した……と言う可能性がありますが?」


「確かに……でも、相手は犯罪組織でも暗殺を基盤としている者達。偽のパスポートで入国した可能性もありますからね」



 確かに、わざわざ危険な目をして一か八かで密入国するより、堂々と入ってくるのが可能性があるか……。



「それに、まだ、暗殺を依頼した依頼主は分からないんですよね?」


「うちで調べた情報はそれだけです。流石に依頼主は分かりませんでしたけど」


「依頼主に関しては此方で調べておきます」


「本当ですか?」


「国外にいれば無理ですが、国内にいれば調べる事は可能です」



 流石、合法非合法関係なくトコトン調べる公安様は違いますな。その分、他の警察部署からはあまり好かれていないようだけど。


 悩みの一つはこれで解決した…と言っても良いだろう。依頼主が捕まらなければ、また、アリスの命は狙われるだろう。


 それだと後味が悪い。でも、それは俺個人の感情であり、考えである。国内にいるならなんとか手は打つが、国外になると……届く手は限られている。



「貴方はこれからどう動くかですか?」


「まぁ、俺はアリスの護衛を続けますよ。此方としても依頼された身ですから」


「必要であれば、此方で警備員を手配しますけど、勿論、訓練された屈強な警備員を手配します」


「フッ、そう言って、公安の誰かを潜らしてうちの情報を得る気じゃないですか?」


「あらあら、バレましたか」



 何が、あらあらバレましたか。じゃねーよ。全く、油断も出来ねぇな。もしかして、敵なのはブルーキャットだけじゃなくてこいつもじゃないのか?


 そう疑っても仕方がなかった。なんせ、公安の班長でもあり、まぁ〜瀧川の件やら会社の脱ぜーーうんぬんかんぬん〜〜みたいな事で何度も近藤さんには目をつけられる事があったからなぁ〜。



「此方としても、色々と知られたくないんでね……今回は諦めて下さい」


「仕方がありません。今回は見逃します。しかし、今回の件が終われば、我々との利害の関係は終わる。その時は……」


「えぇ、その時が来れば、また、敵同士になる……勿論、分かってますよ」


「なら、結構。つまらない事をお聞きするんですが……」


「はい?何ですか?」


「これから、デートでもするんですか?何やらオシャレもしてあるし、髪の毛もセットしてあるから」


「なっ、何ちゃう事を言うんですか?!デートじゃありませんよ!ただの買い物です!」


「ですが、女の子と……でしょ?」


「……ノーコメ」



 そう言うと近藤さんは「ふむ、なるほど」と言いながら、顎に手を当て、数秒思考した結果ーーー




「それは俗で言う『デート』なのでは?」


「……そうっすね。認めます」


「若い者は良いですねぇ〜。私の事は強気のある女性ばかりで魅力的な女性が少なかったもので……結構、結構!女の子と仲を深めるのは良き事です」


「何であんたに褒められなきゃいけねーんだよ。てか、話が終わったならさっさと帰れ」




 たく……おめぇは俺の何なんだよ。オカンか。オカンなのかぁ?えぇ?


 結衣とデートーーと思っただけで、少し恥ずかしさと嬉しさが込め上げてきたが、一々部外者でもある近藤さんには言われたくない。



「その顔は私に言われて悔しいのか、それとも恥ずかしいのか、それとも〜」


「分かってるなら一々言わなくても良いだろっ!」


「悪名高い貴方にも子供っぽいところが見えて少し安心しましたよ」


「あっそ〜ですか。子供っぽくて悪〜ござんした」



 不満げそうに俺はそう言い返すと、近藤さんは終始笑顔のまま鞄を持って立ち上がった。

 

 俺は帰ろうとしている近藤さんの後ろ姿を見ていると、近藤さんは数歩歩いた後、スッと少しだけ此方を見た。今の今まで微笑んでいた頬は横に真っ直ぐになり、目は相変わらず細く、しかし、その隙間から見える目は何を感じさせるものだった。



「貴方も貴方で気をつけて下さい。公安はお国を守る為に存在し、そのお国に脅威が迫るような事が有ればーーー貴方であっても私を含め、公安部は貴方を殺します」


「………」


ならばのお話です。今は小競り合いで済んでいるだけ、大人しくしていれば、此方側は何もしませんよ」


「………えぇ、それは重々承知していますよ。俺も荒事は苦手でねぇ……けど、これだけは言っておきます」


「何でしようか?」

 







 俺は近藤さんに向かって言った。







「どうして、貴方がの事を知っているのかは敢えて聞かないでおきますが……お国に所属する公安だったとしても、危害を加える事が有れば、俺は貴方を許さない」



 俺は一度も、結衣と買い物をするのは言っていない。なのに近藤さんが『女の子』と言った理由は不明。どうやって調べたのかは知らないが、結衣を脅しに使うーーとなれば、俺は近藤さんを絶対に許さないだろう。


 



 例え、警察官であっても……だ。







 そう聞いた近藤さんはニコッと微笑み、いつも通りに戻った。



「貴方の忠告、肝に命じておきます。しかし、安心してください。お国を守る為と言いましたが、それは国民も同じ。脅しのネタにするつもりはありません」


「なら、結構。こっちもあんたらをやるのに無駄な手間はかけたくないんでね」


「フフフ……そうですか。それでは、これで」


「えぇ、さようなら。帰り道には気をつけて下さい。敵さんの猫達も動いているらしいですから」


「勿論。気をつけます」



 そう言って歩くのを止めていた近藤さんは歩き始め、公園の出入り口と所で迎えの車が来たのか、乗ってそのまま何処かへと行ってしまった。


 それを見届けた俺は思いっきりため息をついて、光り輝く太陽様を見上げた。



「3日後はアリス公演のリハーサル。そしてその次の日は………」



 スマホでスケジュールを見ると、3日後は『リハーサル』4日後は『公演当日』と書いてあった。その『公演当日』は結衣と見に行く日でもあり、ブルーキャットがアリスを狙ってくるであろう……面倒な日だ。



「かぁ〜、めんどくせ〜ぇなぁ〜」



 




 俺がそう、天に向かって言うと………










「……何が……面倒くさいの?」







 うん?……あっ



 ……よっ






 

 俺の後ろには結衣がいた。









ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。




作者☆


次の冒頭は結衣と達也のデートっ!……なのですが!ちょくちょく別の話が混ざるのであしからず。




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