5ー5
【蒼山ホテル】
アスタロトグループ社が保有する高級ホテル。政治家や他国の金持ち達が泊まる事が多く、今回は海外で有名な歌手、アリスの為に用意したのだ。
『スゴイです!こんな豪華なホテルのは初めてです!』
『向こうでも同じぐらいのホテルには泊まった事はあるけど……どうやって手配したの?』
『え?そ、それは……』
手配したホテルに着いたアリスのマネージャーは泊まるホテルがここだと知ると喜び、アリス本人はどうやって橘が用意したのかが気になっていた。
どうやって手配したのかと聞かれた橘はどうやって言い訳しようかと考えていると、後ろから運転していた海堂が現れた。
『貴方は米国で誇る有名な歌手です。そんな貴方に見合うようなホテルをご用意させて頂きました』
『でも、こんなホテルを用意出来るのって……本当に橘ってお金持ち?』
『ま、まぁ、そこそこはあるかなって……』
『橘先輩、凄いですぅ!』
『あはは……』
一般のジャーナリストの橘は、アリスとマーリの前ではお金持ちポジションでいなければならなくなった。
橘自身、そんな重荷は背負いたくないが、自分がお金持ちで友人のアリスの為に用意したと言う理由だと、何かと都合が良いのでそうする事にした。
『本当に凄いわね……あ、そうだ橘』
『ん?何かあった?』
『何も無いんだけど、荷物を部屋に置いた後って観光とか出来るかしら?』
『それに関しては今回の護衛・警備の責任者に許可を得ないといけません』
『じゃあその責任者はいつ会えるの?』
アリスの質問に対して自分だけの判断で決めかけないと思った海堂はスマホを取り出し、護衛・警備の責任者である俺に電話を掛けてきた。
遠くで見ていた俺は海堂に盗聴器を持たせており、アリスとマーリ、橘の会話を空港の時から聞いていた。電話が掛かってきた俺は要望の観光に少し悩んだ。
(本当なら行かせて上げたいが……さっきの諜報部からの連絡で面倒な奴に狙われているからなぁ〜)
さっき、諜報部からの連絡でアリスを狙う組織がいるらしく、もう入国してあると言う事までは知っているが、アリスを拉致し誘拐するのか、暗殺するのかまでは分かっていない。
だから、観光に行くとなると護れない場面が絶対に現れる。まだ、室内にいるなら諜報部の【日ノ河】が裏から護衛して貰えれば、アリスを狙っている組織は手が出しにくいと思う。
観光しても良いのかと言う返答に関してはホテルのロビーで会って話す事に決めた。
『今、責任者に聞いた所この後説明すると言ってたので、ロビーで会って話す事は出来ますか?』
『分かったわ。じゃあ私達は荷物を部屋に置いてくるけど、橘はどうする?』
『私はこの後、仕事があるので、ここで…』
『橘先輩は、一緒に観光しないんですか?私、一緒に行きたいですぅ〜』
マーリの言った事にアリスも同意した。アリスと橘はプライベートで一緒に買い物に行ったり、旅行にも行ったりして友人だから一緒に観光したいのは本当だろう。
橘は友人の願いを聞いて上げたいが、本当に仕事で職場に戻らないといけない。でも、アリスやマーリと一緒にいろんな所に行って美味しい物を紹介して上げたいが、仕事上無理なのだ。
「小娘、会長からお前に電話だ」
「え?私ですか?」
「そうだ」
悩んでいた橘に会長からお前宛に電話だと言われ、海堂からスマホを受け取った。どうして私に電話なのだろうかと不安に思いつつ、会長からの電話に出た。
『橘さんか?』
「はい、私ですけど……」
『護衛対象の観光の要望なんだが、あんたも付いてやってくれ。海外の有名人が満喫して帰って貰える為にな』
「私はこれから仕事で帰らないといけないし、護衛の邪魔になると思うんですけど……」
『橘さんが勤めてる会社には俺の方から言っておく。だからあんたは友人と一緒にいてやれ』
「分かりました。今更ですが……色々とありがとうございます」
アリスの護衛・警護の依頼を受けて貰ったり、ホテルの手配までしてくれた。最初は私が脅したのにも関わらず、ここまでしてくれたのにもお礼が言いたかった。
律儀と言うか、俺の方も脅して依頼させたのにお礼を言ってきた橘さんに少し笑ってしまった。
「な、なんで、笑ってるんですか」
『すまん、すまん。あんたは本当に度胸があるよな。自覚してなのか無自覚なのかは知らないが、中々面白かったぞ』
「え?私、何か面白い事でもって……自覚とかどう言う意味ですか?」
『いや、気にしなくても良い……あ、それと橘さんの部屋も用意してあるからのんびり過ごしたら良い。笑わしてくれたお礼だ』
「へぇ?部屋も用意って……このホテルですかぁ?!いやいや、私が泊まるのに相応しく無いですよ!」
『まぁ、別に構わんだろ。じゃあな』
「ちょ、会長さん!?会長さーん!!!」
会長は私の制止する声も聞かずに問答無用で電話を切った。お金持ちポジションと言う立場を払拭したいのに、こんな高級ホテルで泊まるとなると……もっとお金持ちの神妙性が増す事は確定だろう。
「会長の言う事は絶対だ。これから、会長の部下として活動していくなら、それなりの覚悟を持っておいた方が良いぞ」
「マジっすか……」
茫然と立っている私の手にあるスマホをスッと取ってポケットにしまった海堂は、アリスとマーリのチャリーケースを持ってホテルの中へと入って行った。
アリスとマーリもすでにホテルの中に入っており、外に一人取り残された私はこのままいっその事、帰ってやろう!と思ったが、逃げた所で意味が無いと言う事実が襲い掛かってきた。
「私って……会長さんの部下になれるのかなぁ?」
アリス達が歩いて行った道を、トボトボと歩いてホテルの中へと入って行った。
ーーー
誤字、脱字などが有ればコメントしてください。
少し短くてすみません。
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