3ー5





 高尾総本山 山頂






 夏の暑い日、森林が生い茂っている高尾総本山の山頂には先祖代々受け継げられた大きな屋敷が建っていた。



 その屋敷の主である高尾 まさるは持病の進行で病床をおぎなくされていた。




 屋敷の和室に寝込んでいる高尾 勝はゆっくりと目を開け、廊下にいるお付きの者に話しかけた。



「佐藤はおるか?」



 呼ばれたお付きの男性はスーッと障子を開け、中に入った。



「ここにおります」


「もう夏だ……儂も、もう長くない。我が家の跡取りの決めんといかん」


「はい…」


「紙と……筆を持ってきてくれ」


「分かりました、今すぐご用意致します」



 高尾家の跡取りを決める為、お付きの佐藤に紙と筆を用意させた。


 ゆっくりと上半身を上げ、佐藤に筆を渡されて跡取りの名を書こうとした時、急に胸が苦しくなり筆を落としてしまった。



「ぐっ!……まだっ……死ぬ訳には……!」


「会長……?会長!?しっかりしてください!」



 いきなり苦しみ出した高尾はそのまま倒れてしまった。










 数日後、高尾 勝は心臓発作によって亡くなった。








ーーー






 学生の長期休暇『夏休み』



 そんな太陽の日差しは強く、プール周りの木には元気良くミーン!ミーン!と鳴いてるセミがいる。そんな中、俺と友人の荒木とプール掃除をしていた。





「あちぃ〜よ〜。倒れるよぉ〜」


「ほら、そんな事言ってるともっと暑くなるぞ?」


「暑いのは事実だから、これ以上暑くなっても暑いわ」


「暑いしか言ってねぇじゃん」




 プールの日陰でぶっ倒れている荒木にタオルと水の入ったペットボトルを渡した。


 お互いにプール掃除の疲れと夏の暑さで喉がカラカラだったので天然水で喉を潤した。


 隣からは、天然水にがっついてゴクゴクと飲む音が聞こえた。




「ぷはぁ〜!生き返るわ〜!」


「生き返るって……お前死んでたんか」


「半分は死んでたな。でも!水分補給によって俺は生き返った!」


「生き返ったんなら午後プール掃除の続きも出来るよな?」


「……善処します」



 喉が潤った荒木は元気になったが、まだ、午後の掃除があるので一気に元気が激減した。



「そんなに落ち込むなよ、お前の彼女さんも昼から来るんだろ?」


「まぁな、昼から手伝ってくれると言ってくれたけど、その前に友達と来るとか言ってたぞ?」


「へぇ〜」



 そう雑談をしつつ、垂れてくる汗をタオルで拭き、天然水を飲んでいるとプールの外側から声が聞こえた。



「おーい!裕次郎〜!」


「おー、よく来てくれたな…って!?」


「ん?どうしたんだ…って、結衣じゃん」



 プールの金網に近づいて外を見ると、荒木の彼女である軽装姿の竹本 心。その隣にいる白のワンピース姿の白崎 結衣。


 竹本は元気そうに両手を振っており、結衣はじっと見てきた。



「お前が言ってた彼女の友達って結衣の事だったんだな」


「そんな……俺は聞いてないぞ!」


「そういえばお前って……」


「これは白崎親衛隊、会長として白崎さんを魔の手から守らねば!」


「魔の手って誰の事だよ……」



 隣にいる俺に向かってビシッ!と指を差してきた。


「お前だぁ!!」


「だよね、なんとなくは思ってたよ」



 また面倒くさい事になっている荒木に呆れていると、後ろに竹本と結衣の声が聞こえた。



「イェーイ!掃除は進んでいる?」


「イェーイ!午前中の分は終わって今休憩中」



 元気いっぱいの竹本と元気を補充した荒木はイェーイ!とハイタッチしていた。



「……達也……こんにちは……」


「よっ、暑い中よく来たな?」


「……心ちゃんに……来る?って……言われて……」



 見つめた目線には荒木と呼んだ本人の竹本がわーい!わーい!と手を繋ぎながら踊っている姿が見えた。



「へぇ〜、竹本とは友達なのか?」


「……うん……中学生の頃から……ずっと……」


「そう!私が話しかけたのがきっかけなんだ!」


「……うん……あの頃の心ちゃんは……しつこかった」


「心が白崎さんと仲が良かったのは知らなかったぞ……」


「そりゃ〜、裕次郎くんと会う前に結衣ちゃんと出会ったんだし」


「結衣は結衣で、竹本の事『しつこかった』って言わなかった?」




 俺は荒木の彼女として竹本を知っていたが、結衣の友達とは知らなかった。


 午前中分のプール掃除を終わらした俺達の休憩も終わり竹本と結衣を含めて午後のプール掃除を始めた。




「「掃除開始ぃ〜!!!」」




 元から元気いっぱいの竹本と元気補充した荒木はビュ〜〜!!っとモップを持って空になったプールへ行ってしまった。


 取り残された俺達は小さなため息をついて俺は結衣にモップを渡した。



「ま、俺達は俺達のペースで掃除しよっか」


「……迅速かつ丁寧に……」


「ん?なんかやる気いっぱい?」


「……うん……達也と……初めての共同作業」


「ん?荒木や竹本もいるからな?すっごい卑猥に聞こえたんだけど!?」




 こうしてグダグダの午後のプール掃除が始まってしまった。








ーーー







 夕方の6時、ファミレス





「「プール掃除、お疲れ様でしたぁ〜!」」



「お疲れさん」


「……お疲れ様でした」



 午前の掃除も終わり午後の掃除も終わった俺と荒木と竹本、結衣はファミレスで『お疲れ様』の会をしていた。


 各々の好きなジュースを頼んで、テーブルの真ん中には中盛りフライドポテトを食べている。



「うぅーん、美味しいぃ」


「働いた後のフライドポテトは美味しいですなぁ〜」


「お前らぁ……4分の3は俺と結衣で掃除したんだけど」


「「(俺)私だって頑張ってたんだよぉ〜」」


「同じ事を言ってんじゃねーよ」


「……まぁ、頑張ってた」



 午前中は良く働いていたが、午後の掃除になるとこいつらは半分掃除半分遊びをしていたのだ。


 そのおかげ?で俺と結衣はプールの4分の3を掃除する羽目になった。



「今回のプール掃除は我々の親睦会みたいになったことだし、まぁ良いじゃありませんか」


「そうそう、こうして頑張って!頑張った結果!美味しい物が食べれるんだから」



 パクパクとフライドポテトを食べながら俺に弁明する荒木と竹本にジト目を向けていたが諦めてため息をついた。



「プール掃除をさせられたのはお前が原因だった……のを忘れてないだろうな?」


「ぐっ!」


「そうなの?裕次郎くんが何かしたの?」


「裕次郎もテストで赤点を取って…っと言うか取りすぎて赤点所持者の俺も巻き添いを食らった……と言う訳だ」



 まぁ、俺も自業自得なんだけどな、時間が悪かった。丁度、宿題を職員室所で捕まってこの有様や。


 荒木は俺から目を逸らしながらフライドポテトをパクパク、竹本は荒木に問い詰めながらフライドポテトをパクパク。



「ま、今回のジュースとフライドポテトはお前の奢りな」


「なぁ?!それは流石に酷いのでは?!」


「じゃあお前がプール掃除しろって言われても俺は手伝わないぞ?」


「今回は、俺が全て払おうじゃないか!」





 言質は取ったぞ。



 それを聞いた俺と竹本はササッ!と店員を呼んで新しい注文をした。



「ちょ、ちょい君達!」


「奢るんだろぉ?」


「裕次郎くん、太っ腹ぁ〜!」


「いや!俺はこのジュースとフライドポテトを奢ると……」


「結衣は何頼む?」


「……この、ハンバーグステーキで」


「白崎さんまでぇぇぇえええええ!?」



 

 問答無用で新しい注文をする俺達に、財布が軽くなった荒木の絶望した声が虚しく響いたとさ。















 夜に広がる星の数々、一つ一つが光り輝き、天を照らしてたが、その光が届かない地に一人の目が見えぬ女性が光を求めて見上げていた。









ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。


【作者】最後は厨二ぽくなってしまったなぁ(わざと)

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