3ー6







「黒崎〜、白崎〜、じゃ〜ねぇ〜!」


「俺の財布が……軽く……」


「ほら!さっさと帰るよ」



 空が暗くなり始めた時、俺達はファミレスから出てきた。


 もう時間も時間なので帰ろうと決めて、財布が軽くなったと言って嘆いている荒木を引っ張って連れて行っている竹本を見届けた。



「荒木の奴……可哀想に」


「…………」


「ん?なんだろうか隣から疑うような目線を感じるような」


「……私も……奢って貰ったし……何も言わないでおく」


「だって元はあいつが原因だったし、正当な権利や」



 うんうん、元はあいつが多重赤点所持者で俺は巻き添いを食らった……荒木に奢らせるのは正当な権利であると俺は思うぞ。


  時間的に空は暗く、結衣を一人で帰らすのは危ないとは思って結衣の家まで送る事になった。



「それじゃ、俺達も帰るか」


「……うん」



 ファミレスから結衣のマンションまでは少しだけ遠く、喋りながら歩いて行った。



「そう言えば、結衣って夏休みの宿題、どこまで進んだ?」


「……約九割……終わった……」


「え?ほぼ終わってるやん」


「……さっさと終わらして……読みたい本を……読む」


「はへぇ〜、すげぇな。俺なんかやっと半分終わったぐらいなのに」


「……後もう少し……」


「だけど、数学と言うラスボスがいる」



 どうしても数学だけは!だけは!無理なんです!国語とか社会とかは出来るんだけど、どうして数学だけ……無理なんだろ?俺も分からん。



「……なら……おしえてあげようか?……」


「本当か?それは助かる」


「……うん……私はもう……終わってるから……」


「流石、学年一位の優等生。足元にも及ばないわ」



 暗い帰り道で夏休みの宿題に悩む事と結衣の優秀さに感心していると時間はあった言う間に過ぎ、結衣の住むマンションが見えた。



「じゃ、ここでお別れだな」


「……うん……今日はありがと……」


「こっちこそ、プール掃除手伝ってくれてありがとな」


「……達也の役に立って……良かった……」


「もう役に立ちまくりですよ、夏休みの宿題も手伝ってくれる……もう俺は嬉し過ぎて倒れそう」


「……家の前で……倒れられたら……困る」


「あはは、冗談だよ、冗談。それじゃ……おやすみ」


「……おやすみ…」




 結衣がマンションの玄関に入って行くのを見届け、俺は徒歩で家に帰る事にした。



 数分、帰り道を歩いていると後ろから知っている車が道路脇に止り、運転席から海堂が出てきて頭を下げた。



「会長、お疲れ様です」


「おう、お疲れ様。俺がここにいるって良く分かったな?」


「会長の携帯にはGPS機能を搭載しているので」


「マジか?まぁ、良いや」


「本社まで送り致します」



 そして車に乗り、アスタロトグループ本社に向かって動いた。









 プール掃除の疲れと仕事疲れで良く眠れたと言っておこう。









ーーー






 翌日 6・30 黒崎邸





 朝食、家政婦が作ったご飯を叔母さんと一緒に食べている。


 目の前に座っている叔母さんは淡々と無言で朝ご飯を食べているから俺も叔母さんの会話はあまり無かった。


 でも今回は珍しく叔母さんから話しかけて来た。



「そう言えば、手紙が来てたよ」


「手紙……ですか?」


「あんた、あれを持って来なさい」


「はい、分かりました」



 叔母さんの隣にいたお付きの女性が立ち上がり部屋から出て行ったと思ったらすぐに帰ってきた。



「こちらです」


「どうも……和紙?」


 

 お付きの女性から渡された縦長い手紙は和紙特有のざらざら感があった。

 

 いざ、開いて見ると字は墨で、筆で書かれていた。



「『急にこの様な手紙を出した事を深くお詫びします』……何処からだ?」


「高尾ってところだよ」


「……?どうして叔母さんが?」



 確かに、手紙の最後には『高尾』と名が書かれていた。



「高尾って所は和紙で手紙を送る事があってねぇ。そして高尾が手紙を出すって事は……が起きた時だ」


「大変な事……?」


「数年前にも高尾 勝って奴が跡取りで乱闘になった時に黒龍組に手助けをしてほしい為に和紙で手紙を出してきたんだよ」


「それじゃあ今回も?」


「その可能性はあるね、私に聞くよりさっさと読んだ方が良いんじゃないの」



 淡々と朝ごはんを食べながら叔母さんが言う通り和紙の手紙を読み出した。



『急にこの様な手紙を出した事を深くお詫びします。今回、この手紙を出した理由は父である高尾勝が先日、心臓発作で亡くなった事をお伝えしたく手紙として出させて貰いました』



 さっき叔母さんが言っていた高尾 勝が亡くなったと書かれていたのを叔母さんに伝えた。


 それを聞いた叔母さんは朝食を食べていた手が止まり、小さなため息をついた。



「そうかい……なら、内容は跡取りのかい?」



 あっさりと言った叔母さんに少し驚きながらも手紙続きを読み始めた。



『父が亡くなった事によって高尾家の跡取りを決める事になりました。その件について黒龍組に助力をして欲しく、現黒龍組組長、黒崎 達也様に手紙を出させて貰いました』



 叔母さんが言っていた通り、高尾家の跡取りだった。


 俺の方でも高尾家の事は知っていた。なぜ、知っているかと言うと高尾グループが業界で有名だからである。


 農業、漁業、工業、産業に数々の大きな功績を挙げている事で高尾 勝は名誉会長として商談の話で会った事もあった。


 その高尾家の権利は強く、会社だけでは無く、うちの黒龍組や他の組にも友好的だった為、今回の亡くなったと言う知らせは大きなものだった。



「また面倒な事に巻き込まれたみたいね」


「はは、確かにそうですね……」


「あんたがその跡取りに参戦するかはあんたが決めな」


「分かりました」



 高尾家の跡取りの件は朝ごはんを食べてから考える事にした。


 






ーーー






 アスタロトグループ本社 会長室






 俺は会長室で一人、手紙の内容に悩んでいた。いや、内容と言うよりこの手紙の主に悩んでいた。



「跡取りの助力を求めてきたのは高尾 勝の娘ぇ?」

 


 高尾家の跡取りの助力に関しては出来る限りの事はしようと考えていたが、どんな相手なのか調べてみれば高尾 勝の娘、高尾 千夜と言う長女が手紙の主だと言う事が分かった。



 それに高尾 千夜には兄、高尾 剛と言う兄がいる。



 高尾 剛は、バスケット選手になりたいと言って父に反抗して家を出て行ったらしい。しかし、今回の高尾 勝の死後、『家を継ぐ』と言って帰ってきたのだ。



 その高尾 剛に付く組が多数いるらしく高尾 千夜には古くから知っている家の者達しか付いていないらしい。



「それで、高尾 勝の跡取りを手伝った黒龍組に助力を求めた……簡単に予想が出来るなぁ〜、したくないけどぉ〜」



 やっと瀧川の建築問題が終わったと思えば今回は高尾家の跡取りの問題……俺の夏休みが……まだ終わってない宿題をしないとあかんって言ってるのに、降ってくる問題の雨。


 そう考えるだけで、重ーい重ーいため息をついた。



「詳しい事は千夜って奴に聞く事にするか」



 高尾 勝の葬式には一応出るつもりだが、高尾家の跡取り戦に関しては助力を要求してきた千夜と言う奴の話を聞く事にした。



「かと言って、一人で行ったら絶対に高尾 剛に付いている組の者に狙われるよなぁ……」


「私も付いて行きます」


「居るなら居るとあれほど……」


「さぁ?忘れました」


「こいつ……」



 知っている声の方を見ると、そこには狐の面をつけている『狐』がいた。いつの間にいたのに関してはもう慣れて驚くのを通り越して呆れてきた。



「それで?お前がついてきてくれるのか?」


「隠に潜みますけど」


「『瀧ノ衆』でも連れて行くか……」


「……」


「さてと、仕事仕事」


「……」(小刀チラリ)


「冗談だよ、冗談。確かにお前が居てくれたら俺は安心するなーって」


「うむ、ならついて行く」



 満足そうにうなずき、そのまま何処かへと消えて行った。

 

 それを見届けると小さくため息をつき、今後について仕事をしながら考えた。



(かと言って高尾家の影響力と権力は大きい。それを求めて高尾の息子は帰ってきたんだろうなぁ)



 高尾 剛は現役バスケット選手の時、横暴な性格の故、同じチームと喧嘩になる事が多く、酒や女に手を出し、酔っ払った時に通りすがりの一般人に怪我を負わした事にバスケット界から姿を消した。



 その後の剛は分からないが、大方、何処かの組か企業に『高尾家の主になれば多額のお金が入ってくる』とでも言われたのが想像出来る。



(高尾家の跡取りが剛になれば、俺の会社や組に悪影響を起こすかもしれない……かと言ってこの女の事も何も知らんからなぁ)



 高尾 勝は仕事の関係で知っており、剛に関してはテレビで悪い事をしたとしか聞いた事しか無いし……こんな事ならちゃんと素性ぐらいは調べておくんだったな。



 今更、後悔してももう遅い。これからどうするかを考えるか。



 考えた結果、高尾 勝の葬式には出るが、高尾家の跡取り合戦の参戦に関しては俺に助力を求めた手紙を出してきた高尾 千夜と会って決める事にした。



(ま、丸腰で行く気は無いけどな)



 高尾 勝の葬式については出席すると手紙に書いて高尾家の千夜に出すことにした。









 その翌日に返事の手紙が届いた。



『分かりました。父の葬式後、跡取りの事についてお話し致しましょう』


「返事早や。昨日やぞ?俺が手紙出したの」








 後日、高尾 勝の葬式に海堂、『瀧ノ衆』を含め行く事となった。(後、『狐』)








 



《第三章》 【高尾家の跡取り戦】










ーーー

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