2ー11
「ただいま……」
海堂の迎えで帰ってきた俺は靴を脱いでいると家政婦さんがやってきた。
「お帰りなさいませ、尚子様が呼んでおります」
「叔母さんが?」
叔母さんが俺を?何か用でもあるのか?それとも今回の事で………。
家政婦さんに言われた通り、俺は自室に戻る前に叔母さんの部屋へと向かった。
「失礼します。達也です」
「来たかい。そこへ座りな」
「はい」
叔母さんの部屋には、必要最低限の物しか無く、テレビや機械器具なども無く、本当に静かだった。
そんな叔母さんは、何かを書いているのか俺に背を向けていた。
「あんたを呼んだのは他でも無い岩倉組の事だよ」
「はい」
「あんたは岩倉組をどうするつもりだい?」
岩倉組の前組長と叔母さんは昔から知人として知っていた。
そんな叔母さんは今回の建設問題に岩倉組が関わっている事から気になったのだろう。
「俺の邪魔をする奴は全員潰すつもりです」
「……」
「でも、今回は岩倉組も被害者側。潰しはしないけど、それなりに罰は受けてもらいます」
「そうかい……でもやるなら悔いなくやりな」
「失礼しました」
そうして俺は叔母の部屋から出て行き、自室へと向かって行った。
俺の部屋は大抵、寝る為にしか使って無く、昔から使っていた勉強机とか本棚には埃がかぶっていた。
「確かここにしまった筈………あった、あった」
物置の中には、年季のある物や貴重な物まであるが、その中で長方形の木箱があった。
それをゆっくりと取り出し、蓋をゆっくりと開けると布に包まれた一本の刀がしまわれていた。
「これを最後に見たのは俺が組を継ぐ時の後継会定の時以来だな」
ゆっくりと布を一枚、一枚脱がすと薄黒い刃長が見えた。
俺は刃先から鍔まで一直線の綺麗な刃長にいつの間にか見つめていた。
(刃こぼれもして無いし……いつ見ても綺麗だ……)
窓から差し込む夕日の光が刀の刃に反射し、よく切れそうだと思った。
この刀は思い出があり、俺がアスタロトグループ社と黒龍組を継ぐと決めた理由でもあった。
「この刀で自分の手を刺した時は、痛かったなぁ〜」
ま、あの時の俺は怒りと呆れで頭が追いつかず先に行動しちまったからな。
何故刺したかと言うと、後継会定の時に俺が継ぐのを反対した組がいたのだ。簡単に言うと俺が馬鹿みたいな事をして無理矢理納得させたーみたいな感じだ。
黒刀に見惚れて何度も角度を変えて見ていると後ろから知っている声が聞こえた。
「珍しい刀ですね」
「お前にはやらんからな」
「それは残念、諦めましょう」
刀を待った俺の後ろに狐の面をかぶっている『狐』がいた。
こいつが急に後ろに現れるのはもう慣れたと言っても良いだろう。
「それで?岩倉組はどうなった?」
「一応、岩倉組の組長に人質救出の事は伝えました」
「一応…ね?て事は、信用はされてないと?」
「私は貴方に言われた通りに言ったまでです」
「なら大丈夫だな」
岩倉組の件に関してはほぼ終わったのは確定、後は人質の受け渡しで終わると思い心が少し楽になった。
『狐』は、疑問が残り面の中で顔をしかめた。
「何が大丈夫なんですか?」
「ん?岩倉組の事だよ」
「それは分かってます。だから、どうして岩倉組が人質の救出を信用するかで大丈夫だと言えるのですか?」
「そりゃ〜男同士だから?」
「はぁ?」
「そんなのにいちいち理由なんて要らねーって言いたいけど」
「あるんですか?」
「まぁな。俺の考えでは岩倉組は今挟まれてる状態だ。後は瀧川に人質を取られて従うしか無い、前は自分の組よりも巨大な黒龍組。そう考えてみれば、いくら馬鹿でも自分がどう言う状況に置かれているのかが嫌でも分かる」
「確かに……」
こうやって挟まれてる事を
黒刀を布で巻き、木箱にきちんとしまうと元の位置に戻した。
「しかも、自ら敵対した組から救い手を出された時は驚くだろ。『どうして敵対したのに助けてくれるのか?』って普通ならそう疑問に持つ」
「そして助ける理由を考える……?」
「そ、どうして助けくれるのかを考えるんだよ。考えて辿り着いた先が『今、自分がどう言う状況に置かれているのか』だ。『自分は人質に取られて従うしか無い』と言うのが隆介にとって最大の理由。これさえクリアすれば、後は瀧川を追い詰めるだけ」
「それで岩倉組の組長は黒龍組の人質救出を信じた……と?」
「まぁ〜信用度は80%ぐらいじゃ無いかなぁ〜」
本当なら岩倉組を潰して瀧川を追い詰めるのが手っ取り早いが、今回ばかりは岩倉組も被害側。しかも、叔母さんの知人が組長をしていた組でもある。
下手に潰せば別の問題も出てくる。なら、平和的に考えたら岩倉組と和睦し、瀧川を追いかけるのが良いだろう。
「それで?『鴉』から何か返事はあったか?」
「はい、師匠の伝言で『今夜の9時に黒ノ道総員で人質救出に向かいます』との事です」
「今の時間は6時半、後2時間半で人質救出が始まる」
「『日の河』の半数は瀧川邸にて瀧川及びその奥様と子供、家政婦の監視を続けています」
「そう言えば瀧川の専属護衛とやらは何人いるんだ?」
「それが……」
瀧川の専属護衛の事を聞くと、『狐』はいきなり黙り込んだ。
俺はそんな『狐』を疑問に思った。
「瀧川の専属護衛は……二人です」
「二人?流石に少なくないか?」
「はい、それで自分も不思議に思い調べたのですが……」
「それでも二人だった訳だと……」
おかしい。行政の有力者でなら普通、少なくても五人、多くても9人で護衛するのが当たり前だと思っていたけど……いや、二人で十分だと思ってるのか?
「その専属護衛の詳細は分かるか?」
「警備会社の者に聞いた話だと元傭兵だと言ってました」
「元傭兵ねぇ……それだと情報が無いな…」
傭兵は紛争が起こってる地域に行き、戦争に参加する者だ。誰がどこで何をしたかまでは分からん。
弱いならそれで良いが強かった場合、瀧川に逃げられる事を考慮し、考え直した。
「俺と海堂、黒龍組の者が入り込む時に瀧川邸の裏口、車庫から瀧川が逃げた場合追いかけろ」
「分かりました」
「絶対に瀧川を逃すなよ」
着々と建築問題終わりのピースが埋まりつつあった。
ーーー
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