2ー12




 夜の9時




 空は暗くなり、住宅やビルは人工の光で照らせていた。

 そんな中、漁業の港は人がおらず、『五番倉庫』と書いてある建物に一人の男が入っていった。



「人数分と人質の分買ってきた」


「お、待ってました。俺はこれとこれで」


「う〜ん、じゃあ俺はこのパンとお茶で良いや」



 倉庫の中には二人の男がおり、その奥に人質になっている少女が眠っているのか横になっていた。



「それで……人質の様子はどうだ?」


「うーん?いつも通り大人しくしてるけどな」


「それがどうしたんだ?」


「いや、別に少し気になってな」



 倉庫にいた二人は瀧川が人質を監視するために雇っただけの男達であって普通の一般人と変わらなかった。



「う、うぅ……」


「あ?起きたか」


「はい……」


「飯だ。さっさと食え」


「ありがとう……ございます……」



 人質が起きた事が分かり監視をしていた漢がパンと水の入ったペットボトルを渡した。

 少女は疲労とストレスで目に隈があり、やつれていた。



「俺たちがこうして飯も食えて、金も手に入るのは瀧川さんのおかげだな!」


「あぁ!俺はギャンブルで金に困った時に、こんなうまい話あるのかと疑ったけど受けてよかったな!」



 二人はケラケラと笑いながら飯を食い、話し合っていたら飯を持ってきた男が何かを取り出した。



「あ?お前何持ってんの?」


「…?スプレー缶?」


「えぇ、です」


「はぁ?なんーっ!?」



 一人の男に向かって催涙ガスを噴射した。かけられた男は顔を押さえながら横たわり、バタバタと暴れていた。



「目がぁ!目がぁー!」


「お前ぇ!何やってんだよ!」


「何って……催涙ガスを吹きかけただけですよ?」


「く、クソがー!」


 

 そこら辺に置いてあったバットを待ち、勢いよくスプレー缶を持った男に殴りつけようとした瞬間、バットを持った男の頭に強い衝撃を受け、気を失った。


 気を失ったバットの男の後ろには『梟』の面を付いている黒装束がいた。



「ご苦労、その男とあそこで悶えている男は縛っておけ」


「了」


 

 スプレー缶を持った男は『鴉』の面をつけ、『暗ノ道』の梟とその他の者が男二人を縄で縛り上げた。

 人質になっていた少女は目の前で起きている事に追いつけず、


「あ、あ……」


「大丈夫ですよ、自分は貴方は助けにきただけですから」


「た…助けに…?」


「えぇ、それと確認なんですが、貴方は岩倉 隆介の娘さんですね?」


「私の…パパで…す」


「なら良かった。お家でお父さんが待ってますよ」


「本当……?」


「もちろん、では行きましょう」


 

 本当に助けられたと自覚した人質の少女は涙を流し、体の力が一気に無くなり立てなかった。

 鴉はお姫様抱っこで抱き抱え、少女は疲労と泣き疲れたのもあり鴉の腕の中で眠ってしまった。



「『鷹』」


「はい、ここに」


「会長に『人質を救出した』と伝えろ。今すぐに…だ」


「了」



 鴉の伝言を受けた鷹は夜の闇へと消えて行った。

 それを見届けた鴉は車の後部座席に少女を寝かせ、運転席に座り岩倉組の事務所へ向かって行った。





(これで岩倉組が瀧川に従う理由が無くなった……後は会長に任せましょうか)











 アスタロトグループ本社





 高層ビルの最上階、会長室で執務机の椅子に座って書類に目を通している黒崎 達也がいた。

 その達也の前に、鷹の面をつけている黒装束の者が膝を床につけて頭を下げていた。



「人質は救出して岩倉組に届けたか……」



 俺は今、鴉の部下から岩倉 隆介の娘を助けて送っていると伝言を受けた。

 これで岩倉組が瀧川に従う理由はクリアした。後は瀧川のみ……その後はまぁなんとかするか。



「『暗ノ道』のお前らは良くやった。後は休め」


「自分達は主の矛となり盾になる者、休むわけにはいけません」


「あはは……全く、鴉は部下になんて教育してんだよ」



 今は岩倉組に人質を届けているだろう鴉にため息をついた。

 何かと鴉の事は俺が会長に就任してから会社や俺を裏で支えてくれた者で信頼はしている。

 それより人質になった娘が帰ってきた事で隆介が暴走する可能性が高くなるな。



「けど、隆介が瀧川を襲うとなると早くても

二日後ぐらいだろう。その前に動くか」


「会長、自分達は何を…」


「お前達は休め!と言っても聞かないと言ったからな…………お前達は、他の行政関係者の動きを監視してくれ」


「分かりました」



 俺達が瀧川を潰した後、この事を隠そうとする者や干渉しようとしている者が現れるかもしれない。それだと俺が満足いく結果にならないし、実の娘を人質に取られた岩倉組の組長 隆介がそれを許さないだろうな。



(本当に議会までカチコミに行きそうで怖いからその時はマジで止めよ)



 『鷹』の報告を聞き、新しい命令を言った後、会長室に海堂が入ってきた。



「海堂かちょうど良かった、話がある」


「はい、なんでしょう」



 海堂をソファーに座らせ、俺も向かえ合うようにして反対側のソファーに座った。



「さっき諜報部の連絡で人質が救出され、岩倉組に届けられた」


「それでは……」


「俺達も動くぞ」


「分かりました。車の手配、人員の手配はこちらでやっておきます」


「あぁ、頼んだ。こんな面倒事はもう懲り懲りだからな」



 今回の事で疲れている俺は苦笑しながら海堂に言うと、海堂もつられて苦笑した。



「確かに、この件が終わった後は久しぶりに隆介と飲みに行きます」


「それが良いだろう。さてと、残りの仕事を終わらすとしますか」



 今日の仕事もチャッチャッと終わらして明日を迎える事にした。







ーーー

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