2ー10





 岩倉組事務所





 三階建ての建物で、二階にはオフィスチェアに座っている岩倉組 組長 岩倉 隆介が険悪な表情になっていた。



「それは本当だろうなぁ?」


「本当の事を会長に言えと言われたので言ったまでです」



 隆介の正面には、狐の面をつけた諜報部のエース『狐』が立っていた。

 会長である達也が、人質を見つけたっと言う事を隆介に伝えろと頼んだのだ。



「はぁ……はっきり言って信じられねぇ」


「確かに証拠が無いですしね」


「なら何故、来た」


「言えと言われたので言いにきました」


「………」



 なんだこいつ。信じて良いのか訳がわからなくなったぞ。

 正面に、『会長の使い』と言う狐の面をつけた奴を信じるのも不安になって来たな。



「だけど、一つだけ言えます」


「何がだ?」


「会長は無駄な事はしません」


「………」


「会長は若く他の組から見下される事があります」


「確かにな…」


「それゆえに会長は最善だと思う事をしているのです」


「………」


「だから言ったでしょ?無駄な事はしない…

と、だけど売られた喧嘩は買う人でもあるんです」



 『狐』の目が面の中から鋭く見てくる目が見えた。


 『狐』は立っていて、俺は座っている事から見下されているが、『狐』から溢れ出てくる圧を感じた。



「はぁ……そんなにあの小僧を敬愛しとんのか?」


「いや、別に」


「は?じゃあどうして……」


「純粋に会長の方が上だからです」


「立場的にか?」


「確かに会長は地位や財はあります。だけど、

実力でも負けたので従っているまでです」


「戦ったのか?小僧と?」


「はい、完璧に負けましたけどね」


「………」


「マジですよ?」


「お前の方が小僧より強いと思うんだがな」


「思ってるだけで、実際は負けてます」


「……」


「自分は言えと言われた事を言いに来たのでこれにて失礼」


「…!」


 目の前から『狐』と名乗る者が消えた。


 『狐』を警戒していた組員も驚き、騒いでいた。俺も驚いたものの、何故か納得してしまった。



「組長どうするおつもりですか?」


「……黒龍組の事を信用する」


「………」


「止めないのか?」


「組長が決めた事なら、それに従います」


「ふっ、そうか…………綾乃……無事でいてくれ」


「組長……」



 綾乃とは隆介の娘で、瀧川に誘拐された人質でもある。だから、そこにいるのは岩倉組の組長で無く、ただ一人の父親がいた。



(小僧、頼むから……娘を助けてくれ)






ーーー







 俺は海堂との電話が終わった後、数分だけ屋上にいた。


「教室に戻るか」


 そう言ってその場から歩き屋上の扉を開けるとそこには……



「え?結衣…?」


「……あ…」



 白崎 結衣がそこにいた。



「どうして結衣がここに?」


「……え……それは……」



 授業中にここにいるのもダメだけど、屋上の扉のところでいるのに疑問と不信感が少し湧いてきた。



「……達也が……屋上に行くの……見えたから」


「ついてきたの?」


「……うん」


「なるほど……で?いつかから来てたんだ?」



 さっきの海堂の会話を聞かれたら面倒だな……。


 海堂との会話を聞かれたらどうしようかと考えていたら、結衣はポケットから一つのハンカチを取り出した。



「そのハンカチって……」


「……うん……達也の後に……落ちて拾ってたら……見失って……着いたのもついさっきだよ?」


「そうだったんだ……ありがとな」


「……うん……でも、どうして……屋上に?」


「ちょっと授業をサボろうかと……思いまして」


「……むぅ……授業はちゃんとしないと……成績に関わる」


「それもそうだな。俺はこれで失礼するわ」



 そう言って俺は結衣の隣を通って屋上から出た。

 出た後、一息つき一難去ったと思いながら自分の教室へ戻って行った。









ーーー

誤字、脱字などがあればコメントしてください。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る