2ー9





「あ〜、やっちまったなぁ〜」



 屋上で一人の男が寝そべっていた。その人物は、校長室で昔に縁があった女性に強く言い過ぎた事で後悔している黒崎 達也がいた。


 

 本当は教室に帰ろうと思ったけど、校長室から出た後からなんだか嫌なモヤモヤ感が残ってイライラしたので鬱憤晴らしで屋上に来たのだ。


 屋上に来ても晴らせないのに……。



「全く、急すぎるだろ………割と真面目に後悔」



 いつもなら、平常を装えてたのに……流石にまだ俺は引きずってんのかなぁ?自覚してる分、タチが悪よな……。



 父と母を亡くした時の頃は自分でもよく覚えている。両親の葬式をした後、組の者が来て、一本の刀を渡して来た時もしっかりと覚えていた。



「最近、あの刀に触ってないな……。どこしまったっけ?」



 言っていた刀とは、達也の父親のご先祖様がどこかの将軍でそれが受け継がれて今に至るのが俺と言うわけだ。


 親父がその刀を見て、黒龍組という名前が出来たらしい。刀身は薄黒い波紋で、鍔も黒と金の模様だった。




 ま、そんな刀を見た俺も惹かれている人の内だがな。なんかなぁ…こう…自分に似ていると言うか……何というか、親近感が湧いてくるんだよなぁ。





「ま、そんな事してる暇があるなんで無いけどな」


「そうなんですか?」


「え……?」



 え?誰?なんかいきなり声が聞こえたけどって『狐』やん。いきなりやん。



 寝そべっている俺は、頭の方から声が聞こえたので見てみるとそこには後ろに手を回して、姿勢良く立っている『狐』がいた。


 

 前に会ったように、黒装束で狐の面をつけていた。相変わらずだなぁ、と思いながら座って迎え合うと話を続けた。



「暇そうですね」


「そうか?こう見えても忙しいんだけどな」


「えぇ、学生の学業時間帯でもあるにも関わらず、屋上で自傷発言をしている人は暇人以外なんだと?」


「あはは、お厳しい指摘で俺は参るよ」


「はぁ……こんな人に負けたと思うと情けないです」


「それが俺なんだからしょうがない。諦めな」


「最初から諦めています。諦めてなきゃここにいません」


「それもそうだな」



 初めて会った時よりも大分、『狐』と喋れるような関係になった。前に俺と戦いたいと言った時はびっくりしたが、いざ、戦ってみると案外分かるやつだった。



「それで、何の用だ?」


「人質に取られていた岩倉組の娘の居場所が分かりました」


「本当か?それは」


「はい、首謀者の瀧川と警備会社の者が繋がっており、問い出したら港区の五番倉庫に閉じ込めてあると」


「なるほどな…」


「それと、警備会社の社長は瀧川に脅されており、それで従ったとおっしゃっておりました」


「……それで?」


「会長が瀧川邸に仕掛ける時は、警護している警備員達に見過ごすように言い渡しました」


「なるほどな……」



 人質の場所は分かったのは大きいぞ。これで瀧川邸へ突撃して、人質がどうなっても良いのかと聞かれても知らんと言えるのは、大きい。


 そう考えた俺は『狐』に向かって新しい命令を言い渡した。




「『鴉』に言い伝えろ」


「はい」


「今日の夜九時に港区の五番倉庫に総員で向かえ、邪魔する者がいる場合は、殺傷を許可する」


「………私達は」


「お前達、『日ノ河』は岩倉組の組長に『お前の大切な者が見つかった』と伝えろ。それと瀧川の監視を重点的にして、勘づかれないに注意しろ」


「分かりました。すぐに行動致します」


「あぁ、頼んだ」



 そう命令した後、『狐』はすぐに目の前から消えて命令した行動に移した。俺もスマホを取り出して、アスタロトグループ本社にいる海堂に電話をかけた。



「海堂、俺だ」


『どうかしましたか?』


「先程、諜報部の者から人質の場所が分かったと知らされた」


『!、それでは…』


「あぁ、人質は諜報部の者に今夜の9時に助けるよう頼んだ」


『我々はどうしたら良いでしょうか』


「人質が助かり次第、岩倉組に引き渡し、和睦する」


『岩倉組にも協力を要請しないのですか?』


「いや、俺達だけでやる。っと言っても隆介は聞かないだろうな」


『幹部の四組はどう致しましょうか?』


「幹部達には『うちの組と岩倉組で瀧川を消す』と言っておいてくれ。それと、今日は学校に迎えに来てくれ。自分の用意をしておきたい」


『了解しました。夕方に迎えに行きます』





 そう言って海堂との通話は終わった。スマホの電源を切り、ポケット中にしまった。



「開戦の時は近い。後は『鴉』の報告を待つだけだ」





 これから起きる事に高鳴りが止まらなかった。









 そして、その会話を聞いていた者を、この時の俺は分からなかった。










ーーー

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