2ー6





 五組会定、当日。



 

 黒崎邸の和室に五人の男が集まり、俺を先頭に四人の男が並んで座っていた。


 この四人は、黒龍組幹部であり、下に付いている組長達でもある。なぜ呼んだかと言うと建設問題の意見をしてもらう為だ。



「お久しぶりです。会長」


「あぁ、久しぶりだな。急に呼んですまなかったな」


「いえ、下に付く者として当然です。それで用とはなんですか?」


「お前達を呼んだのは、建設問題の件についてだ」


「あの問題ですか……我々も知っておりましたが、どうして岩倉組が……」


「確かに、あの岩倉組は昔から黒龍組と良好を続けていたのに……裏切るような真似をするとは…」


「それに関してなんだがな。政治家の瀧川 響が関わっているんだ」


「政府の者がどうしてうちに?」


「瀧川はうちの組では無く、アスタロトグループ社に恨みがあるらしい。まぁ細かく言えば俺の亡くなった父親にだがな」


「それで会長はどうする気なのですか?」


「そうだな……」



 俺的には穏便に済ましたいんだがな……。岩倉組をどうにかする為には、人質に取られている娘を助け出して、説得させるのが良いんだろうが、それに関しては『鴉』と『狐』に頼んであるし……。


 岩倉組組長の娘が誘拐されている場所を諜報部の『鴉』と『狐』に頼んであるのだ。だけど、未だ連絡も無いから今も探しているんだろうな。


 

 だけど……このまま何も進展しないなら…



「俺としては、このまま建設を邪魔されるのを黙って見るのは性に合わん」


「では……」


「あぁ、最悪の場合は人質を見捨て、岩倉組を全力で潰す」


「「「「………」」」」


 

 父が残したこの組と会社を潰されるのは絶対に許す事は出来ん。例え、昔に縁があったとしても、それだけは許されない。



「まぁ、そんな事をしても瀧川の思い通りになってしまうし、それもそれで嫌だからな」


「後手に回ってますな……」


「瀧川と岩倉組との繋がりの証拠はもう掴めてるんだ」


「そうなのですか?それでは…」


「決定打が足りないんだよ。俺はあの瀧川を豚小屋にぶち込んでやりたいんだ」


「なるほど……だけど、その決定打をどうするかですね」


「決定打はだな……」


 

 『鴉』に頼んで瀧川邸に仕込んでおいた盗聴器で岩倉組と瀧川が電話で会話をしている声が録音が出来て、十分に証拠になるんだが、相手は政府の実力者だ。警察に圧をかけて無かった事にするだろう。



「決定打は『人質』だ」


「人質?」


「そう、瀧川が誘拐している人質を助け出して証明すれば決定打になる」



 録音した声に、誘拐された人の証言。これだけ揃っていたら警察が無かった事にしても世間のマスコミがそれを許さないだろう。それを俺は狙っているのだ。



「政治家が誘拐に関与した、とマスコミが知れば嫌でも全国に広がるだろう」


「警察には届かないのですか?」


「警察にはもちろん届ける。だが、それは後の話だ。俺はあいつを社会的に殺すつもりだ」


「………」


「もし、あいつが警察に圧を掛け、無かった事にすればマスコミはそれにも食いつき、瀧川と警察を批判する。そうすれば、さらに広がる」


「なるほど……しかし、その後の岩倉組はどうするつもりですか?」


「岩倉組に関しては……その時に決める。最低でも解体は決めてある」


「分かりました。我々は黒龍組組長である貴方の意思に従います」


 

 目の前にいる四人の組長達は正座をして、頭を下げた。これが黒龍組に対する信頼、服従の大きな証拠でもあるのだ。







 五組会定が終わり、この部屋には俺と海堂がいた。これからの方針が決まり後は実行するだけだった。



「お疲れ様でした」


「あぁ、九割型はもう決まった。後は実行に移すだけだ」


「流石、組長です。それでどう言う方針になったんですか?」


「それはなーー」


 

 五組会定で決めた事を海堂に教えた。狙うのは岩倉組では無く、裏で隠れている瀧川を奇襲する事を話した。

 それを聞いた海堂は納得する表現をした。



「それでは人質が見つかり、助けた時には……」


「あぁ、すぐ瀧川邸に行き、瀧川 響を捕まえ、この建設問題にピリオドを打つ」


「分かりました」



 後は、誘拐されている岩倉組組長の娘の救出の連絡を待つだけであった。



(建設問題だけじゃ無い……俺の父と母が死んだ真相も教えて貰うからな『瀧川 響』)



 




ーーー








 瀧川邸




 大きな豪邸に、その家の周りには警備員の人達が巡回をしていた。


 家の主でもある瀧川 響は、執務室で誰かと喋っていた。



「おい!どう言う事だ!」


「何がでしょうが…」


「わしの家に『ネズミ』が入ったそうだな!貴様の言っていた警備の者はやられたそうではないか!」


「それに関しては大変申し訳ございません」


「何も盗まれていなかったら良かったものの、これでわしの大事な家内に傷でもついたら貴様の首どころか、会社まで潰すとこだったぞ!」


「……本当に申し訳ございません」



 椅子に座っている瀧川は、怒りのあまり机をドン!と叩き、怒られている警備会社や者は頭を下げていた。


 

 私は師匠の『鴉』がつけた盗聴器を使って隣の部屋で聞いているが、それを使わなくても聞こえるぐらいだ。


  会長の命令で、『人質になっている娘の場所の特定、分かり次第救出』を言い渡され、瀧川邸の家政婦として侵入している。



(警備会社の者が岩倉組の娘を誘拐し、それを何処かに閉じ込めているのは確か……しかし、その場所が不明)




 盗聴器から聞こえてくる会話には『人質』の話は一向に出てこないと思っていたら、出てきた。




「それで?あの岩倉組の娘はどんな様子だ?」


「はい、大人しくしております」


「ふんっ、なら良い。それでも人質を取られた時の怒ったやつは面白かったな」


「………」


「これで岩倉組とアスタロトグループ社の者が潰し壊れたら、わしの結果通りになる。……まぁ、岩倉組だけ潰れたら、人質にとってある娘は殺しても構わん」


「……分かりました。それでは失礼します」



 そして警備会社の者が執務室に出ると同時に私は仕込みナイフを取り出し、隣の部屋から出てきた警備会社の者の後ろに周り首にナイフを構えた。



「なっ!誰だ、っ!?」


「静かに……私が質問するからそれに答えて」


「……アスタロトグループ社の仲間か?」


「私はまだ質問していない」


「………」


「こっちの部屋に」


「……分かった」



 瀧川の隣の部屋に連れて行き、縄で手を縛り動けなくした後、またナイフを向けて質問を開始した。

 


「貴方は、建築問題をどれだけ知っている?」


「瀧川が岩倉組の人質を使って、アスタロトグループ社の建設予定の大型スーパーの工事を邪魔しろと言う命令したまでなら知っている」


(建設問題に関しては、ほぼ知っているな……じゃあ人質は?)


「その人質は今どこに?」


「今は、港区にある五番倉庫に閉じ込めてある。ご飯もやっているし、自害しない以外生きているだろ」


「なるほど……」


(港区の五番倉庫か……一応、会長と師匠に報告しよう)



 そう考えていたら、縄に縛られて動けない警備会社の者は終始暗い顔をしていた。瀧川の仲間ならここで怒鳴るか、睨みつけるかするはずなのに何か、全てを諦めているように感じた。


 そう疑問に思った私はどうして瀧川の言う事を従っているのを聞き出した。



「どうしてこんな事をしたんだ?」


「瀧川に……脅されてやったんだ」


「それはどう言うことだ?」


「瀧川は政府の中でも力を持つ実力者だ。我々、警備会社は簡単に潰されるんだ」


「だから従ってこんな事をしたと?」


「あぁ、本当に申し訳ない事をしたと悔やんでいるよ」



 嘘をついているようには見えなく、そんな素振りもない事から本心だと分かった。しかし、私の仕事は人質の救出。それは絶対だ。


 それでも、私は彼に情けを掛けた。彼の後ろに行き、縄を解いた。



「良いのか?俺を解放して…」


「本当ならここで気絶させて処理するけど、この事を話せば……分かるよね?」


「あ、あぁ、もちろんだ。あの瀧川から解放されるなら出来る事はやろう」


「なら、何もしない事」


「え?」


「近々、この屋敷にアスタロトグループ社の者達が攻める。その時は、瀧川の護衛以外の警備員を撤退させる事」


「分かった。しかし、あいつの護衛は元傭兵で、凄腕だぞ」


「私が言った通りにすれば良い……ただそれだけ」



 そして窓の扉を開けた後、家政婦の服を脱いだ。家政婦の服を脱いだ中には、黒装束で狐の面をつけていた。

 

 彼女はそのまま窓から飛び降り、急いで窓に行き、下を見ると真っ暗で彼女は見えなくなっていた。



「彼女は一体……」










ーーー

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