2ー4
「………」
俺は今、会長室に一人椅子に座って静かに時間が経つのを待っていた。
一人になりたくて海堂を数十分後に来るように頼んで、会長室から見える星を眺めていた。
「……誰だ?」
会長室の扉からコンコンとノックする音がした。誰だと聞くと中年男性の声が聞こえ知っている者なので中に入れた。
「失礼します。『鴉』です」
「あぁ、何か問題でもあった……てか、頭の傷はどうした?」
「あはは、バレましたか。上手く隠せたと思ったのですが…」
そう言って『鴉』と名乗る男は苦笑しながらデコの傷を見せた。包帯が巻かれ、少しだけ血が滲み出ていた。
「あいつらにバレたのか?」
「えぇ、瀧川の御宅に盗聴器などは仕掛けれたのですが、帰りに瀧川の専属護衛と少し乱闘してしまって」
「珍しいな、お前が見つかるのは」
「いや〜私もお年ですな。ほっほっ」
諜報部の最高責任者『鴉』。言わばアスタロトグループ社のエージェントみたいな存在だ。
岩倉組と瀧川の関係の証拠を得る為に、瀧川邸に盗聴器と小型監視カメラを仕掛けるように頼んだのだ。
まぁ、その結果は見つかって盗聴器しかつけれなかったと言っているが十分だと思う。
「少し前から後継者を育ててるとは聞いたんだが、その話はどうなったんだ?」
「それがですね、会長様と同い年の女の子を育ててるんですよ」
「同い年の女ぁ?」
「はい。数年前に施設から引き取り『日ノ河』のチームに所属させ、訓練させておりました」
「えぇ?『日ノ河』に所属させていたのか?」
「はい、子供は成長が早い分、吸収力も早いので早めに所属させておきました」
アスタロトグループ社の諜報部は簡単に二つに分かれる。
一つ目は『暗ノ道』。内容は目的人物の追跡、盗聴器・監視カメラの設置、命令とあらば暗殺もする。これには『鴉』が所属している所だ。
二つ目は『日ノ河』。内容は情報収集、潜入、要人の護衛、会長専属護衛。自衛による各自判断。さっき言っていた後継者が所属している所だ。
この二つが我が社の諜報部の真相である。なんつって、かっこよく言ってみました。にしてもすげぇな。子供の頃から『日ノ河』に所属して訓練してたとは……凄いとしか言いようが無いな。
「それがお前の後継者にふさわしい暗者となったと?」
「えぇ、『暗ノ道』と『日ノ河』の両方を極めた弟子なら良き後継者になると断言します」
「お前がそこまで言うほどなら、これからの暗躍に期待しておくよ」
「ほほぉ!それなら達也様のお世継ぎのお相手にもなりますよ?」
「お前まで言うようになったのか……。最近アスタロトグループ社の幹部会の古参達に言われてんだよ」
「ではでは、尚更お世継ぎにどうです?」
この年寄りは〜、人の苦労は知っているだろうが、知っている上で言ってくるとは……立ちが悪すぎる。
良い年なのにニヤニヤ顔でお世継ぎにお世継ぎにと攻めてくる『鴉』を面倒だと思い、元々渡す予定だった書類を顔にぶつけてやった。
「うっぷ」
「この書類は助かった。細かい情報や正確な素性が知れたよ」
「ふむふむ……ほほう!これはさっき言っていた子が調べてきた情報なんですよ?」
「そうか。なら良い仕事だったと言っておいてれ」
「いえいえ、会長様から言ってやって下さい」
「は?どうやってだよ?」
俺は『諜報部』の存在を知っているだけ、一人一人の素性は『諜報部』によって厳重に管理されている為、アスタロトグループ社の会長の俺でも知らないのだ。
「流石に顔は見せんだろ?」
「ほほ、会長がお世継ぎの相手として考えるなら見せなくもありませんよ?」
「じゃあ、見ない」
「……なかなか強情ですな」
「そっくりそのまま返すよ」
そもそも顔も分からんやつと付き合うやつおらんだろ。そう言う習慣があるのはどこかの国で聞いた事あるけど。
「それでは、お呼びしまーーしなくてもいましたか」
「うん?どこにーっ!」
「………」
『鴉』が言った先には一人の狐の仮面を被っている黒のスーツを着ている人が立っていた。会長室の扉が開く音も無く、俺の背後にいた事に俺は驚きが隠せなかった。
それを終始面白そうに見ていた『鴉』はその子を紹介した。
「この子が私の後継者である『狐』です」
「……」
「すみません。この子は昔から無口で任務の報告以外はほとんど喋らないんです」
「なるほど……」
『狐』か……。ニックネームとか言うやつだろう。目の前にいるやつも『鴉』と名乗ってるぐらいだし。
狐面の目から覗いてくるは真っ直ぐ俺の方へ向いており、表情も見えない故に分かりにくいのだ。
そんな事を考えるよりこの書類の情報を身を呈してまで集めてくれた事の話に変えた。
「この書類の情報は君が収集してくれたのだろ?」
「………」(コクンッ)
「そうか……この情報は今の建設問題に有益な情報を与えてくれた」
「………」
う、う〜ん。何か言ってくれないかな?喜怒哀楽が分かんねぇ〜、ってニコニコしながらこっちを見てんじゃねーよ。
人が必死こいて目の前にいる『狐』とどうやってコミュニケーションしようかと考えんのにニコニコと笑いよってからに。
『狐』の隣にいる斎藤はニコニコと笑いながら俺の方を見ているので、正直どうにかしろと言いたかったがそこはぐっと我慢して話を続けた。
「今後も君の腕を頼る場面があるだろう。その時の暗躍を期待しておくよ」
「……」
「それでだ。今回の建設問題の情報の報酬を与えたい」
「良いのですか?会長様」
「あぁ、本当にこの情報は助かったからな。そのお返しにだ」
「なるほど……でしたらこの子の願いを叶えてやって下さい」
「願い?」
『鴉』から出てきた『狐』の願いと言うやつが気になり、『狐』の方へ向くとやっぱり狐の面からは真っ直ぐな目線と筈かな期待の目が見えた気がした。
そんな『狐』から初めて、声を聞いた。
「貴方と戦ってみたい」
あ、俺?
ーーー
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