第二章 

2ー1




 【アスタロトグループ本社・応接室】


 


 応接室に二人の男が迎え合って座っており、お互いに険しい顔をしていた。



「でぇ?なんの用で俺を呼んだんだ?」


「お前が、関東でうちの邪魔をしてんのは分かってんだよ」


「カッ!なんの事か分からんなぁ」



 応接室にはアスタロトグループ社代表取締役会長の秘書の海堂と、岩倉組組長の隆介がいた。


 海堂は相手を睨むようして言ったが、隆介はそんな威嚇は痒く無いと言わんばかりにケラケラと笑っていた。


 岩倉組は関東で建設予定の大型スーパーの邪魔をして、黒龍組傘下の関東の組と抗戦しそうになっているのだ。



「うちの組長は、建設の邪魔するのをやめろとの事だ」


「だから、なんの事か分からねぇって」


「はぁ……これを見ても言えるか?」



 一枚の写真が隆介の前に出された。その写真には岩倉組所属のヤクザが建設予定地に訪れては邪魔をする姿が写っていた。


 それを見た隆介はさっきまで笑っていたが、見た瞬間真顔になった。



「で?これを見ても言えるか?」


「ふっ、映ったからって何になるんだよ?」


「あぁ?喧嘩売ってんのかぁ」


「あぁ!売ってやるわ!」



 海堂は達也の秘書としているが、黒龍組所属する極道でもあるのだ。極道としての圧と圧のぶつかり合いが起き、廊下で見張りをしていた部下が冷や汗をかいていた。


 そんな緊迫した空気を壊したのは隆介で苛立つようにソファーから立った。



「はっ!話にならねぇ、俺はもう帰らせてもらうからな!」


「……」


「何も言わねぇのか、腰抜けが」



 そのまま扉に向かってドアノブを握ると、後ろから海堂に呼び止められた。



「おい……」


「あぁ!なんだ…っ!?」



 怒りに満ちた海堂の圧が一気に隆介を襲った。あまりにも大きな圧がいきなり襲ってきたので隆介は二歩三歩下がったが、弱音を見せないように強気で言った。



「なんだよ……」


「最後通告だ。手を引け」


「はっ、バカ言うんじゃねぇよ」


「そうか……なら、もう出て行って良いぞ」


「ちっ、クソが」



 苛立ちにかられた隆介は舌打ちした後乱暴に扉を閉めて出て行った。その後すぐに海堂の部下が入ってきた。



「失礼します」


「説得は駄目だった」


「通路まで聞こえてましたよ」


 

 部下は苦笑いしながらさっきの言い争いが聞こえたと言った。


 海堂は少し思案顔になり、今回の建設問題について考えた。



「今回の建設問題はあいつらの単独だと思うか?」


「それは……裏に誰かがいるって事ですか?」


「あぁ、まだ憶測の域を超えないがな」


「そっすね。岩倉組は前から存在しますけど、うちの組と比べると月とスッポンの差。それは相手も分かってる筈ですよね……」



 黒龍組が10とすると、岩倉組は2だ。それに黒龍組の下に所属する組は二桁を超える。それらを合わせると覆せないほどの差が出るのだ。


 合わせなくても構わないと分かっている筈なのに、それでも邪魔や挑発をしてくるのは二人にとって不思議でしょうがなかったのだ。



「でしたら、裏があるんですかねぇ……」


「そう言えば、会長もおっしゃっていたな…」


「え?会長も言ってたんですか?」


「確か…『一つ目は余程の自信があるのか、二つ目は強力な後ろ盾がいるのか、三つ目は脅されているのか。俺の考えでは三つ目だと思う』…と」


「なるほど……流石、会長すね」


「あぁ、本当にお凄いお方だ」


 

 

 達也がアスタロトグループ社の会長と黒龍組組長になるのに不満の者がいた。それらを納得させる為に、我々が驚くべき行動をしたのを今でも覚えている。


 その時を思い出して余韻に浸っていた海堂は腕時計を見て、ソファーから立ち上がった。



「俺は会長のお迎えに行く。お前はあいつらの裏を探ってくれ」


「へい。分かりやした」



 頭を下げた部下の隣を通り過ぎ、応接室から出て駐車場に向かった。







ーーー






「ねぇねぇ、達也っ」


「おう、どうした?」



 なんか荒木の歩き方がめちゃくちゃ変だな。まぁ、理由はなんとなく分かるがな。


 最後の授業が終わり、帰ろうとしたら負のオーラを纏った荒木がゆらりゆらりと近づいてきた。


 何事かと思っていたら『達也〜、白崎さん〜、達也〜、白崎さん〜』と言っていたのであぁ、分かった。と思い苦笑いしながら待った。



「もうこの際、お前が白崎さんと付き合うが俺は!応援するぞ!」


「はぁ?何言ってんだお前…」


「え?白崎さんと付き合ってないの?」



 此奴は一体何を言ってらっしゃるんだ?天下の白崎殿と下っ端Aの俺が付き合うとなったら神罰が下るわ。


 俺と結衣が付き合っていないと言うと荒木は口をポカーンと開けて固まっていた。


 おーい、どうした〜?と聞くと、ハッ!と意識が戻り、凄い詰めてきた。



「ほ、本当なのか?」


「本当だよ。そもそも俺が白崎さんと付き合えるわけないだろ?」


「でもなぁ…」


「何度も言うが、白崎さんとまともに喋ったのは三日前からで、転んだのを助けた理由で付き合うって事無いだろ?」


「確かにそうだな」


「だろ?で、納得したか」


「うむ、こればっかりは信じるしか無いようだな」


「すげぇ、上から目線だな。でも誤解が解けてよかったよ」



 だけどまぁ誤解が解けて良かった良かった。『隠キャの達也と女神の白崎さんが付き合ってる!』ってなったら白崎さんにも迷惑をかけるし、そもそも俺がボコられる。


 安心したのか、ホッと穏やかな笑顔になって最初の暗い負のオーラを纏っていたのが嘘みたいだった。



「これで達也が付き合ってたら俺はお前に右フックを喰らわしてたとこだったわ」


「あはは、付き合ったとしてもそれはやめてくれ」


「冗談だよ、冗談。まぁお前なら白崎さんと付き合うと言うなら甘んじて許してやろう」


「お前は白崎さんの何なんだよ」



 娘の親父的な立場にいるセリフを言っている荒木に少し笑って、荒木もボケが効いたと分かったのか、お互いに大笑いした。



「俺は白崎親衛隊、隊長だぜ!」


「……え?そんなのあるのか?」


「おうよ!総員74名の全員男子の組織よ!」


「ちょっと待てよ。えっと二年生は30人の5クラスだから……お前、俺を除く全て男子じゃねーか」


「ピーンポーン!割とガチの組織だろ?」


「ガチの組織やん。なんか怖くなってきたわ」


「我々二年生だけでは無く、一年生にも僅かながらいるぞ」


「はは……マジか」


 おふざけで構成されたグループかなぁ…っと思ってたら割とガチの親衛隊で俺は少し驚いている。


 こんな親衛隊には目をつけられないようにしようとして決めていたが、それはどうも神様が許してくれなかったみたいだ。


 

「……達也……帰ろう…」



 教室の扉で俺を呼んでいたのは、真っ白な髪、整った綺麗な顔、まさしく女神ような白崎 結衣がいた。


 一緒に帰ろうと思ったのか俺の教室に来たのだ。俺はその返事をしようとした瞬間、クラスにいた男子が負のオーラを纏い始めた。


 もちろん、目の前にいた荒木も負のオーラを纏い、笑っているのに目が笑っていない顔をしていた。


「あ、荒木〜」


「ふふふ、達也よ。お前は今日から白崎親衛隊の宿敵に認定するぅうううう!!」


 はは、やっと誤解が解けたと思ったらもっとめんどくさい事になったな……。



 




 帰って寝よ。






 なんの事か分からない結衣は首を傾げていたのを見て苦笑をした。







ーーー


誤字、脱字が有ればコメントして下さい。


三話で指摘された誤字の間違いが恥ずかしくて爆発しそうです。はい。



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