1ー3






「どうしようか、タクシーでも使おうかな……」



 乗る予定だった電車の6時はとっくに過ぎたしなぁ………。お金は掛かるがタクシーで乗って帰るのも一案だな。お財布が軽くなるけどね。


 スマホで時刻を確認して家に帰る為にタクシーでも乗って帰ろうとタクシー乗り場に行こうとしたら後ろから誰かが呼び止めた。



「……あの」


「うん?なんですか〜………って白崎さん?」


「……はい、私です」



 肩までしか無い真っ白な髪、整っている美顔、その表情は常に無表情。



「……一応、お礼を言っておこうかと思って」


「いやいや別にたいした事なんてやって無いんでお礼なんて良いですよ」


「……あんな事をたいした事無いって…」



 あんな事ってなんの事かなぁ〜?ボクは分からないなぁ〜って、白々しいか。でも、大した事が無いっていうか、どうでも良いっていうか。面倒ごとだな!うん、面倒ごとだ。



「まぁ、あいつらは学校でも陰湿でいじめをしていたしちょっとは痛い目にあった方が良いと思って、丁度良かったですよ」


「……そう……それでも助けてくれたには変わらない……そう言えば電車が無いって言っていたけど?」


「あぁ、情けない事に、乗る予定だった電車の時間がとっくに過ぎまして…タクシーに乗って帰ろうと考えていた所でございます、はい」



 うちの家って言えば家かな?まぁ、『用事』関係の家だな、うん。



「……タクシーだと電車賃よりも倍以上に掛かるし……お礼に私の家に泊まらせる」



Q、お嬢様、なんとおっしゃいましたか?


A、泊まりに来い


俺、オーマイガー!




「いやいやいや!ダメでしょ!」


「……?何が?」


「えぇ?何がって……一人の女性の家に!一人の男性が泊まるのは関係を持ってからで……!」


「……貴方と私の関係?」


「そう!今日、初めて会って喋っている!それだけの関係やん!なんか最低な男の言葉を使ってるような気がするけど!」



 白崎さんはふむ、と顎に手を当てて考える素振りをして指先を自分の方に向けて……。



「……私は助けられた側」



 そして指先を俺に向けて……



「俺は助けた側ってか?」



 コクンと頷き肯定した。



「……これでも関係云々言い訳する?」


「すげ〜安着で薄い関係だと思うだけどなぁ〜」



 それを聞いた白崎さんは呆れてため息をつくと、左手で前髪を上に上げるようにデコを触ると微かな痛みが生じた。



「いって」


「……あの女が投げた缶の傷もあるし……その手当ても私の家でするから……そのついでに泊まって行けば良い」



 あ、泊まるとのがついでなんですね。どっちかと言うと傷の方がついでの部類に入りそうなんですけど……



 うーーん、と悩んでいたら結衣さんはガシッ!と手を取り引きずって自分の家へと向かって歩いて行った。



「ちょ!ちょい!ちょい!」


「……優柔不断男に待つ時間なんて無い」


「わ、分かりました!分かったから自分で歩きます!」


「……うむ、よろしい。じゃあ行こ」


「ふぅー、なんて馬鹿力なんだ…」



 掴まれた手をさすりながら結衣さんの後を着いて行く事に決めた。痛って!



「……馬鹿力は余計」


「すんません……」

(こえーーーー!!!)






ーーー





「……着いたよ」


「わぁお、マンションか…」



 

 何回建てのマンションか、パッと見では分からないが、絶対に20階以上のあるマンションだと断言は出来る。というぐらい高いマンションで、マンションの出入り口も自動ドアでオートロック式の扉になっていた。




「お邪魔しまーす」


「……邪魔するなら帰って」


「あいよーって!帰っていんですか?」


「……ふふ、冗談。………君って面白いね」


「いやー、ボケの振りには強い方でして。あ、ツッコミもなかなかの腕を持ってると多少の自信はあります」


「……じゃあ本当に入っても良いよ」


「はい」

(ありゃ、無視された)




 この部屋の家主の許可が貰えたと言う事で玄関の扉を開けると、白一色の綺麗な玄関が露わになった。



「……どうしたの?」


「いや、綺麗な玄関だなぁ〜っと、思いましてね」


「……ありがと」


「じゃ、おじゃしまーす………ん?」

(靴が……少ない。こんな広い部屋に一人……暮らしなのかね?)




 キッチンには大きな冷蔵庫、居間には真っ白のソファーやテレビが置いてあり本棚が床から天井まで本で埋め尽くされていた。



「結衣さんって本読むんですか?」


「……うん、土曜日や日曜日はやる事無かったら、一日中本読んで時間を消費してる」


「へぇ〜、そうなんですか」



 制服の上着を脱ぎ椅子の上に置きながら質問をしていると結衣さんはコンビニで買った弁当をキッチンに置いて一つの部屋に入ろうとした時、扉の目の前で止まった。



「……あ、そう言えば。君の名前……なんて言うの?」


「俺の名前は黒崎 達也って言います。おい、達也でも呼んでくれても、お好きにどーぞ」


「……達也……か……良い名前だね?」


「はは、ありがとうございます」

(なーんで、疑問系なのかは聞かないでおくよ)



 俺は結衣さんの後ろ姿しか見えず、結衣さんは俺に背を向けて会話をしていた。



「……私の名前は結衣……白崎 結衣。私も結衣で良いよ」


「え……?」

(初手、下の名前で呼ぶのはキチィすよ!)


「……それと私に敬語で話すのも禁止」


「あー、はい。わかりましー……分かった」


「……うん、じゃあ私は着替えるから……覗かないでね?」


「覗かんわ!」


「……ふふ、やっぱり面白い人」



 どこに面白い要素があるねん!覗く=面白い、わけわからんわ!


 恥ずかしくなって顔を真っ赤にさせながら心の中で結衣さんに向かってツッコミを連発した。





ーーー






「……大丈夫?」


「あぁ、少し頭を使い過ぎたようだ」


「……何に?」


「……妄想に…?」



 結衣さんが着替えると言って覗かないね?と言う言葉も言ってきたので恥ずかしくなり色々と妄想していたので頭がキャパオーバーを仕掛けたのだ。



「……ふふ、何を妄想したのかしら?」


「…………ご想像にお任せします…」



 男はしょうがない。どんな考えもあっち系に行ってしまうのはしょうがない。うん、しょうがない。


 自己暗示を仕掛けている俺を微笑みながら見ている結衣を見てふと思った。



「結衣さんって、微笑むんだな」


「……え?私ってそんなに笑ってなかった?」


「うーん、クラスは違うし学校では分からないけど俺の中じゃあ結衣さんは笑う事が少ないって思っていたし」


「……そっか……笑う事が少なく……なったんだ」



 結衣さんは俺が言った言葉を聞いて少し目線が下がり声が暗くなった。


 それを見て俺はまずい事を言ったと思い弁明した。



「い、いや!悪い意味で言った訳じゃ、無くて…」


「……達也は悪くないよ。昔に……ちょっとね…」


「そうですか…」



 やったな俺、やりましたな俺、空気がいっぺんに暗くなっちゃったわぁぁぁあ!


 俺はデコの傷を手当てもしてくれた結衣さんとの出来たこの暗い空気をどうにかしようと考えていると結衣さんから話しかけてきた。



「……ご飯はどうする?私はコンビニの弁当しか買ってないから……少し分ける?」


「いや、俺は早くご飯を済ませる為にカロリーメイトをいつも持っているんですよ」


「……へぇ、でも喉乾くでしょ?」


「えぇ……それでコンビニで飲み物を買おうかと思っていたけど、あんな事があったので…」


「……じゃあ飲み物は冷蔵庫にあるお茶でも良い?」


「あ、はい。飲めるならなんでも」


 結衣さんは椅子から立ち冷蔵庫を開けてお茶を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「……お礼を言う時も『ありがとう』だけで良い」


「分かったよ……ありがとな」


「……うむ、よろしい」



 カロリーメイトを鞄から出して食べようか

と思い鞄を探ると、ポケットにあるスマホから電話が鳴った。


 ポケットからスマホを取り出し、電話相手の名前を見ると俺は一瞬、真顔になり椅子から立った。



「……電話?」


「おう、家族から電話でちょっと外に出るわ」


「……うん、先に食べてるね」



 そしてスマホを持って玄関から出てマンションから見える景色を見ながら電話に出た。



「あぁ、俺だが」


『海堂です。何時もの時間にいらっしゃってなかったので、駅まで迎えに来たのですが……今どこですか?』


「すまない、電車に間に合わなかったんだ。今日の予定していた会議は明日にしてくれ、それと今日は知り合いの家に泊まっているとお祖母さんに言っといてくれ」


『分かりました。今日の予定は明日の予定に入れておきます。達也様のお祖母様には電話でお伝いしておきます』


「あぁ、頼んだぞ。君?」


『フッ、頼まれました。



 そして海堂との電話を切り、空を見上げた。真っ暗だが、雲が一つ無く、月が綺麗に見えていた。


 余韻に浸っていた俺は数分後、少し寒くなる外から部屋へと入って行った。




ーーー



誤字、脱字などが有ればコメントして下さい。


コロナのせいで生活リズムが崩れてきた作者からでした。はい。



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