第十話『インビジブル』

〈マスター!〉


 マオが声を上げると同時に、結界が砕ける。


〈問題ない!それより"飛行魔法"だ。魔力はギリギリ残ってるから、それで唱えろ!〉


〈分かった!〉


 赤い光線が俺の眼前に迫る。


 結界が砕ける音と、時殺しの咆哮の膨大な魔力のせいで、俺にはナビィの声が聞こえなかった。


 未だに魔法の気配が無い。本当に大丈夫だよね……?


 赤い光線が、俺の体に接触する。


 そして、



 



 "存在消滅魔法"『インビジブル』。ナビィの保有する番外魔法だ。


 この魔法を付与されたものは、自分以外からの有りと有らゆる干渉を受けなくなる。その代わりに、こちらも有らゆる干渉が不可能になる。


 そのため"浮遊魔法"を持っていないと移動する事も出来ないし、魔法を通して分かる視覚や聴覚以外の感覚がほとんど無い。

 加えて、呼吸が出来ないから、『レベルの無い魔王』じゃないと使い物にならない。


 とりあえず良かった……間に合った………。


 怖かったよ!

 ギリギリじゃないか!



「GRR!?」


 視線を上げれば、自分の行動に戸惑っている竜が、辺りを見回しながら浮いている。


 これが、『インビジブル』の更に凄い所だ。

魔法をかけられた存在の記憶を、のだ。たとえ相手が竜であっても、その例外ではない。


 俺はナビィと"魔力回路"を繋げているから大丈夫だけどな。



〈ナビィ!今のうちに逃げるぞ!〉


〈了解。着いてきてください。御主人様マスター


 俺が念話のすると、ナビィはそう言った。


〈着いてきてくださいって言われてもな…、行き先はあるのか?〉


 正直、まだ情報が足らないから、存在がバレるのは避けたいんだが……。


 それも、家があれば解決なんだけどな。


〈問題ありません。女神様に、私達の拠点を用意していただきました〉


〈は!?〉


 て言うかその話、俺聞いて無いんだけど………。


〈いつの間にそんな話してたの?〉


御主人様マスターが白い世界に来る前です〉


〈そんな前!〉


 だいぶ最初だな!

 確かにそう言われて考えてみれば…、俺が呼ぶまで来なかったの、今回が初めてじゃん!


 何で気づかなかったんだ……。


〈…よし……ナビィさん。とりあえずそこに行こう〉


〈了解です。そのポンコツを使って、頑張って着いてきてください。|御主人様マスター》〉


 そう言いながら、ナビィさんは笑顔を浮かべた。


〈うぅ……、寝起きだったからだもん!あたしポンコツじゃないもん!馬鹿!〉


 今にも泣き出しそうな声色で、マオは反論していた。


 やめとけって、ナビィさんとの口喧嘩で勝てるわけ無いだろ……。


〈ナビィなんて、この魔法に長い時間使ってたじゃん!〉


〈あらあら。私の魔法は"番外魔法"です。貴女の使った結界魔法とは格が違うんですよ。それに貴女、演算失敗していたじゃないですか。本来なら後3秒は耐えられるはずですよね?〉


〈ん……それわぁ……〉


〈はい!どっちもそこまで!ナビィさんは案内!マオも言い返さない!〉


 これ以上続いたらマオが泣いちゃいそうだし、やめてあげて!


〈分かりました。これぐらいにしおてきます〉


〈…分かったよぉ……〉


 俺の中断により、何とか喧嘩はおさまる。

まったく、喧嘩は程ほどにね。見てるこっちが疲れるから…………。

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