第九話『もう1人の相棒』

 目の前の竜から暴れ出ている膨大な魔力により、空間が揺れている。


「……馬鹿げてる……はは……」


 笑うしかねぇ……、本当に馬鹿げてる。

何で攻撃しようとするだけで、空間が揺れるんだよ……。


〈マオ、準備良いか?多分もう撃ってくるぞ〉


〈うん。術式の構築は終わったよ!いつでもオッケー!〉


 俺がそう聞けば、予想以上に元気な返事が戻ってくる。……すげぇな。


〈お前何でそんな元気なの?〉


 あれで死んだら転生出来ねぇんだぞ…。

元気になる方法があるなら、教えてほしいものだ。


〈当たり前じゃん!マスターが居るもん!〉


 理由になってねぇよ!全然参考にならねぇ…。


〈まぁ、分かった。やるぞ〉


〈うぃ~す。にゃはは!〉


・・


 よし、集中しよう。

俺は大きく息を吸い、考える。



 通用するかは分からない。一瞬で消える可能性すらある。


 死ぬのは怖い。

それは、何度死んで転生しても変わらない。

憎悪と殺意に満ちた顔の勇者は、何度も俺を殺した。その理由を自分で作っていたとしても、慣れるなんて事は無い。


 でも大丈夫だ。俺はなのだから。

慣れる必要なんて無い。ただ魔王として存在すればいい。



 俺は大きく息を吐く。


「よし!」


 さぁ、心の準備は整った。


「術式起動。展開!『万能:八式結界』!」


 俺の言葉に反応し、円形の結界が出現する。


 『万能:八式結界』俺の持つ多重結界の中で、最も強力な結界だ。

 護れる範囲は小さいが、一応、極大魔法の1つだ。


〈うん!完璧な術式!褒め称えてくれても良いんだよ!マスター!〉


 魔法を発動させると、マオが元気良く話かけてくる。


〈アホか。集中しろ。攻撃くるぞ〉


〈ん~。分かってるよ~〉



「っ!!!」


 突如、暴れ出ていた魔力の流れが止まる。


 竜の顔を見れば、先ほどまで大きく開いていた口は閉まり、こちらを睨み付けている。

 そして一瞬、俺と目を合わせた後、閉じていた口を大きく開け。


 "時殺しの咆哮"を放った。


 それに併せて、一方的に念話が送られてくる。


〈消えろ!!!〉


 シンプルで分かりやすいが、その分怖いな。

 やめてほしい…。



 次の刹那。その赤い光線と、俺の結界が交わる。

 うわ!分かってはいたけど、なんだこれ!魔力がごりごり減ってく。


〈マオ!大丈夫なんだろうな!これ、魔力足りるのか?〉


 1秒で大魔法20回分は減ってるけど、大丈夫だよね?


〈あー、えーと…〉


〈おい、まさか……〉


〈うん!計算ミスった!ごめんなさい!〉


 笑いながら言っているイメージが送られてきた。


〈笑えねぇよ!アホか!馬鹿!!何秒耐えられるか言え!〉


 笑えねぇ!

この土壇場でミスとか、死ぬのが決まったようなもんだぞ!


〈うーん…5秒。いや、3秒……〉


 何でそこで強がってんだよ……………。


 だが3秒か、なら、大丈夫だな。


 いつだってお前のは、俺の予想よりも少ないもんな。


「ナビィ!!」


 顔は向けない。見なくてもわかるから。


 そこにはきっと、


「了解。術式。展開」


 ただ淡々と、不気味な笑顔で宣言する。


「『インビジブル』!」


 ナビィが居る。

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