第七話『相棒の目覚め』

「うん!どうみても竜!ふざけろ!」


 そんな俺の言葉が、夜の森に響く。


 人は全然居ないし、危険な施設でもない。

 だけどよ。だからって竜はダメだろ。

 竜は単体で神と対等に戦えてしまう程強力な生命体だ。


「な、え……」


 ほらな、あのナビィさんですら動揺している。


 だが落ち着け、こんな時こそ冷静になろう。

 俺は999回も魔王をやったことのあるんだ。こういう時、何をすればいいかは理解している。


「ナビィ!撤退準備!」


 そう。丸投げである。


 堂々としながらナビィさんに聞こえるように言えば、後はナビィさんがどうにかしてくれる。


「了解しました。御主人様マスターは時間を稼いでください」


「おう。任せろ!」


 あれ?俺、何かとんでもないこと言ってない?

 竜を相手に時間を稼ぐ?



 そんな事を考えているのも束の間、念話で話しかけられる。


〈我の住みかを踏み荒らすとは…、万死に値すると知れ!〉


 この念話の相手は、もちろん『マオ』ではない。俺の目の前に居る竜からだ。


〈いやー、ここがお前さんの家だと知らなかったんだ。見逃してくれ〉


〈な!貴様、念話が使えるのか!?〉


 正確に言えば、俺の使っているのは"魔法念話"であり、竜が種族的に使う念話ではない。まぁ、この竜からすれば、会話出来るだけで驚く事なんだろう。


〈まぁな。お前も念話でしか話せないって事は、まだ生まれてから若いだろ。そうだなぁ…、二千歳ぐらいか?〉


 基本的に竜は、殺されない限り無限に生きる。人間からすれば長い時間だが、竜で言う二千歳ってのは、人間で言う生後数ヶ月の赤ん坊だ。

 これだけ若いなら、とりあえず何とかなる、か?

 まぁ不安な所は、長く生きている竜に比べて、かなり短気な所ぐらいだが、怒らせないようにすれば、会話は可能だ。


〈ほぉ、竜についての知識もあるとはな。感心したぞ。人間〉


 お、見逃してくれそうな流れ!


〈そうか、それは良かった。じゃ、俺達は帰るんで!〉


 竜の機嫌が良い今のうちに、この場からは撤退だ。


〈待て、逃げることは許さん。許さんのだが、今は気分が良い。見逃してやっても良い〉


〈本当か!〉


 それは、マジで助かる!


〈あぁ、その代わり条件がある。時々でいい。我の住みかへ足を運び、我に人間の言葉を教えろ。それが条件だ。どうだ?悪い条件では無いだろう〉


〈仮に、断ったりしたらどうなる?参考までに聞いておきたい〉


〈簡単なこと。ここで貴様を消すだけだ〉


 表情は読み取れないが、なんとなくドヤ顔のイメージが送られてきた。


〈そうか………〉


 だよねー。断れないよね~。


〈で、どうなのだ?〉


 竜は少し、ほんの少しだけ体をモジモジしながら聞いてくる。


〈おう、いいぜ。時々ここに来て言葉を教えるよ…〉


 でもとりあえずどうにかなった………。消される事は無さそうだ。


〈そうか。ならばもう少し我に近付け。契約の……〉


 しかし、竜が最後まで言い切る前に、もうひとつの念話が割り込んできた。


 最悪のタイミングで…………。


〈やっほ~。おはよう~。いい朝だね!結局10秒以上寝てごめんね。マスター〉


〈お、お前なぁ………〉


 今ここに、思いつく限り最悪のタイミングで、俺のもう一人の相棒ポンコツは、目覚めたのだった。

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