第2話  知人の話

 私が数年前に知人のB子から聞いた話を紹介しよう。


 B子の話によると、ここでは仮にA美さんとしよう。このA美さんが紅葉を見ようと高津戸峡に出かけて行き川沿いの遊歩道を歩いていた。紅葉を撮ろうとしてカメラを出そうとした時、丁度そこに木造のいおりがあったので、そこのベンチに腰掛けて写真の準備をしながら一息ついていた。


 すると、川下から一人の女性が歩いて登って来た。


「こんにちは」女性が声を掛けてきた。

「こんにちは、いいお天気ですね」とA美も挨拶を返した。

女性はにこっと笑顔で道を尋ねてきた。

「この遊歩道を上がって行くと、あの橋に行けますか?」


「ええ、出られますよ。途中に急な階段があるけどそれを登って少し行けば左手に橋が見えますよ。お気をつけて!」A美がそう言ってあげると女性は、

「ありがとうございます」と深々と頭を下げて歩いて行った。


 だが、女性の後頭部は血だらけで、ぐしゃぐしゃになって脳の一部がはみ出していた。


 A美は驚いて凍り付いた。


「あの人、この世の者じゃないんだ。服装も昭和初期みたいな恰好だったし・・・」

そう心の中でつぶやいた。


 すると女性が歩みを止め、振り返ってこう言った。


「聞こえたよ、 今のあんたの声。 聞こえたよ・・フフフ・・・」


 A美は怖さのあまり身動きできない。 女性は続けて言う。


「そうさ、あたしはあの橋から飛び降りたのさ。確かに生きた人間じゃないんだよ。けどね、そう言うあんたは生きてるつもりなのかい? フフフフフ・・・・」


 A美はそう言われて、自分の過去が走馬燈そうまとうのように脳裏のうりよみがえる。


「そうだ、私もあの橋から飛び降りたんだった」


 A美は過去の自分を思い出した。そして自身の姿を見ると、かつて日本がバブル経済だった時のイケイケファッションをしている自分に気が付いた。

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