国の名はラヴィニアと言う

この女の涙を見るのは、あなたの名誉になる。ただし、心を火打ち石にして、涙の雨だれなど跳ね返すこと。この女の生涯は野獣に似て、哀れみに欠けていた。死んだ今は、夜鳥程度の哀れみが似つかわしい。

~エイバン公園の吟遊詩人の唄~


「タモーラ!通信!こんな大物、俺たちだけじゃ運べん。応援を呼べ!」

「バルト、食っちまおうぜ。今回の依頼は海竜の討伐だろ。食べても罪にはならんぜ。」

「あんた、バカなの?海竜は高級食材なの。売れば今回の報酬の倍は貰えるのよ。」

タモーラは通信を終えたのか口を挟んで来た。

彼女の言うとおり、海竜は高級食材だ。煮てよし、焼いてよし。シンプルな味つけでも合うが、トマトとの相性は抜群だ。海竜のトマト煮込みは庶民にも人気の定番料理である。

海竜討伐クエストは王都ラヴィニアで受けた。アルテミスの月、海竜は川辺に現れ産卵すると言われている。そして、アルテミス祭りが行われ、そこで出されるのが海竜料理だ。俺の大好物でもある。


腹が減ったな。

バルトは荷馬車に揺られながら海竜料理を夢想していた。海竜のアンドロニカス、タイタス風ソースの海竜ステーキ、ニンニクとトマトと海竜のディミートリアス、デザートの海竜カイロン。

「バルト、私はヴァンダルとアルテミス祭りに行くけどあんたはどうする?」

「悪いけど、先約があってね。」

「バルト、ならそいつも連れてこいよ。祝勝会をやらずにクエストは終らない。冒険者の習わしだろうが!」

ヴァンダルが吠える。まあ、一理ある。冒険者、と言えば聞こえは良いが、所詮は日雇いの狩猟者に過ぎない。旬の食材、大型モンスターを狩り放浪する俺たちみたいな者の唯一の楽しみと言って良い。しかし、今日だけは冒険者の肩書きは捨てよう。久しぶりに家に帰るのだから。


「お客さん、もうすぐ着くぞ。」

荷馬車の運転手がバルトたちに声をかけた。王都ラヴィニアの城門が見えた。

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