第3話 神知通

「マコッ!!」

「言わんでもわかる」

 骨伝導で伝わってきたその幼声を軽く受け流し

 ゲノム編集の野生をただただ静やかに、だがふつふつと煮えたぎらせる。

 目前の血潮がねじれてうねり、鎌首もたげ。

 オノがヤイバ、必殺の兇刃化。

 いっぽうマコトに変化はちいとも見られない。

 霊的亢進、無、チート状態。

 いずれとも違う、もはやSF的な電子、分子の神楽舞ともいえるサイエンティックオーバーマインド。

 見えている、感じているのは未来なのだ。

 疾!

 どちらもが狂いもなく同時に動く。

 空気を削り取る断裂が目も止まらぬはやさで刻み込まれてゆく。

 血蛇と化した豪鬼はお構いなく、マコトは紙一重で避けている。危なげでではなく無駄を省いた極最小の挙動。

 合間合間に電子波動、言うなれば気をを当てるのを怠らない。

 それでも血蛇は暴れに暴れ、目につくものを暴れ倒す、壊す。

 それを、かわし、かわし、かわす。

 なおも、壊す、削る、こそぎ取る。

 終わりが見えなかった。

 隠し立てのない、殺意そのもののエネルギーなだけに、仕掛けてはいるが、決め手に欠けてはいた。

 逸らし、逸らし、逸らす。

 薄く傷跡ができ始める。治る。

 踊り、踊り、舞い、躍る。

 引いては押し、押しては引く。

 攻守入れ替わり、立ち替わり。

 カンッ、キンッ、カッッ、カーン

 動いて引いて攻めて吸うて避けて廻る。

 廻り引いて横槍鎮めて避け廻る。

 片眉、釣り上げる。

 動きの合間に入る合いの手、動きを高め、相手を鈍らせている。

 スマートグラスは未知の現象を映し出していた。

 地上のオーロラの雲、虹の煌めき。

 悪意は感じられず、精霊、妖精、妖怪、変化かと思いきや、骨伝導で伝わってきた言葉は意外だった。

「神降る、ヨ」

 瞬時、千尋となりて螺旋の殺意が垣間襲う。

 誘われるように、オーロラの雲、虹の煌めきを身に纏って。

 それはがんじがらめに巻き取られた哀れな獲物。

 同意の交感が即時に生じる。

 すうっ…

 イチゴムースから入り、無我の境地で、居合の構えをもち、マコトは、

 一太刀のもとに切り伏せる。

 ごおっっ!!!

 鼓膜を破るほどの断末魔。

 凄まじいまでの風圧が生じ、はじけ、悪意は大気に霧散していく。

 朱紐で結んだポニーテールが激しく流れ泳いだ。

 不思議と制服にはシミひとつつかない。

 一呼吸おき、電刀を収めると、マコトは急ぎ確認をする。

 そこには、妙齢の女性が倒れていた。

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