第8話 室内戦闘の注意点
――そして夕方。
倉庫へ移動して配置についた。
だが、パルルさんのご機嫌がすこぶるよろしくない。
原因は、隊長の騎士コンソッポ殿だ。
騎士コンソッポ殿の隊は、コンソッポ殿、パルルさん、俺の三人編成で、盗賊団のアジトから伸びる抜け道の出口を抑えるのが役目だ。
場所は街の西側にある盗賊団のアジトと目される建物から、二十メートル離れた倉庫だ。
倉庫の床に扉があり、この扉から地下通路が伸びていて、盗賊団のアジトに通じているらしい。
俺たちはここを見張り、万一逃げて来た盗賊が出たら討ち取るのだ。
討ち取る……のだが……。
「いや~なんか緊張しますね。パルルさんは、どんなお気持ちですか?」
困った事に隊長の騎士コンソッポ殿は、頼りない事このうえない。
食堂で青い顔をして食事が出来ないでいた若い騎士なのだ。
パルルさんは、自分たちの隊長が、あの青い顔をしていた騎士だと知った瞬間、やる気をなくした。
早く帰りたいと連呼している。
さらに始末の悪い事に……、騎士コンソッポ殿はパルルさんが女性で、さらに幼く見えるので話しかけやすいらしく、ベラベラと話し続けているのだ。
たぶん、緊張を紛らわす為に、パルルさんに話しかけているのだろうけれど、集中力がそがれて迷惑だ。
パルルさんもウンザリしている。
ただ、騎士コンソッポ殿は、騎士爵家の四男だそうで、下級ではあるけれど一応貴族だ。
パルルさんとしてもあまり邪険にはしづらいらしく、嫌々ながら相手をしている。
この異世界は、フランスの絶対王政ほど身分に厳しくはないけれど、それでも貴族だから、一応粗相があると問題だからね……って事だろう。
「パルルとは、珍しい名前ですね?」
「パルルは、あんたたたち人間が呼びやすいように本当の名前を省略しているの」
「えっ!? じゃあ、本名は?」
「パパラ・パーラパ・パルレ・パルムンド・パラ・パラーリ・パル・パルル」
「はい!?」
会話が続いているな。
パルルさんはブカブカのローブにブカブカの三角帽子をかぶっているので、子供が大人の魔法使いの衣装を着込んだように見える。
騎士コンソッポ殿としては、ぶっきらぼうに対応する俺よりもパルルさんの方が話しやすいのだろう。
お陰で俺は楽だが。
しかし、その長い名前はねーだろう。
騎士コンソッポ殿を、かつぐにしてももうちょっとマシなかつぎ方をすれば良いのにな。
「人間にはわからぬだろうが、これは古エルフ語だ」
「はー、エルフの言葉は難解ですね」
「昔のエルフの言葉で、神に祝福されし森に生まれた、麗しい乙女と言う意味の名だ」
「ははあ。その名前に家名はあるのですか?」
「パパラ・パーラパが家名だ」
違った!
マジにあのパなんとか言う長い名前なのか!
パパラ・パーラパって、どんな家名だよ!
「パパラ・パーラパ……」
「違う! パパラ・パーラパ! 古エルフ語の発音では、パは三種類、ラは五種類あるのだ! 人間の使う言葉のパとラとは音が違う! 良く聞け! パパラ・パーラパ!」
いや、全部おなじパとラにしか聞こえねえよ。
音階としては、暴走族のホーンに近い気がするがな。
心の中でツッコミを入れながら、倉庫の中でジッと待つ。
今回の作戦、正直不安がある。
と言うのは室内戦闘になるからだ。
室内戦闘は、自分が持つ武器の長さに注意が必要になるのだ。
特に日本家屋の場合は欄間や天井が刀を振るうのに邪魔になる。
そこで抜刀術や居合では、座った状態から膝立ちや中腰になり刀を振るう動きが取り入れられている。
膝立ちや中腰であれば、刀を天井や欄間にひっかける事は無い。
俺が祖父から教わった星影流抜刀術一の型でも、座った状態から刀を抜く型がある。
室内戦闘では、自分の得物の長さに気を使わなくてはならないのだ。
今、俺たちがいる倉庫も天井が高いとは言えない。
倉庫と言っても、現代日本の倉庫のようにデカくない。
普通の家よりも一回り大きい程度の建物だ。
倉庫と言うより蔵だな。
俺が借りて来た刀を思い切り振り回せば、天井に引っかかりそうだ。
壁や積み上げてある荷物の位置にも注意が必要になる。
俺は素振りをして、天井との距離感、壁や障害物との距離感を体に覚えさせていく。
だが、騎士コンソッポ殿、コイツはダメだ。
持っているのは天井に届きそうな長槍。
室内戦闘で槍を持つなら、ヘルガさんの持っていた短槍の長さでギリだ。
騎士コンソッポ殿の長槍では、振り回す事はおろか、突きを放つ事も困難だろう。
室内戦闘なら、短めの剣や長めのナイフの方が良いかもしれない。
ネコ獣人のミキさんが腰にぶら下げていた短めの曲刀なんかは、戦い易いだろうな。
なのにだ!
騎士団の連中の装備と来たら、ロングソード、ハルバード、長槍とロングリーチの得物ばかり持ちやがって!
屋外で大型の魔物を相手にするわけじゃないし、平原で合戦をする訳じゃない!
室内戦闘では、リーチの長さが有利に働きづらいのがわからんのか!
……と、怒鳴り付けたい思いもあったが、俺も実戦は初めてだし、全ては祖父から教わった事、つまり耳学問だ。
俺は自重した。
黙って自分の勤めを果たせば良い。
アデリーナ教官との約束を果たす。
パルルさんを守るのが第一優先だ。
「おっ!」
「あっ!」
「ひいっ!」
少し離れた場所から、鬨の声が聞こえた。
本隊が盗賊団のアジトに踏み込んだらしい。
かすかに剣戟の音も聞こえる。
騎士コンソッポ殿が、真っ青になりガタガタ震え出した。
長槍にすがりついているが、今にも倒れそうだ。
こいつは戦力外確定。
生き残れるように祈るのみだ。
騎士コンソッポ殿から解放されたパルルさんが、そばに来た。
パルルさんは、俺の剣を指さす。
「得物の長さが合わなそうだな?」
魔法使いなのにわかるのか……。
さすがだな……。
「ちょい長い。もっと短いのにしとけば良かった」
「私のナイフを貸そう」
パルルさんは、腰にぶら下げた巾着袋から、ニューっと鞘付きのナイフを取り出した。
あの巾着袋はマジックバッグだな。
見た目よりも沢山物が入る。
パルルさんからナイフを受け取り、美しい銀の装飾の付いた鞘から抜く。
長さは五十センチって所か、小太刀だな。
これなら扱える。
刃は青白く光って美しい。
掘り込まれた繊細な装飾は、使うのがもったいないくらいだ。
だが、今は美術品ではない。
敵を倒す為の武器でしかない。
「ミスリルだ。遠慮なく使え」
「かたじけない。拝借する」
なんか受け答えが時代劇風になってしまった。
パルルさんから受け取ったミスリルナイフを左腰に差し、右手にドワーフ店主から借りた剣を握る。
さあ、ござんなれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます