第10話

第10話 快楽の代償


2日後、朝。楽子はリビングで遅めの朝食を摂っている。両親はとっくに仕事に出たらしく、家の中は静まり返っていた。少し物寂しさを感じた彼女は、テレビをつける。朝の番組は、先日のトランクルーム変貌事件の事を報じていた。

「借り主からは苦情が殺到しているようです。誰が賠償するのかと」

「そりゃあそうでしょう、保管していたものがなんだかよくわからないものに変えられていたわけですから」

「…結局、魔法少女たちは何がしたかったんでしょうか」

「彼女たちが現れてから怪現象が治まったのは事実ですが、変貌した物質は元に戻っておらず彼女らも何の説明もなしに去っていきましたからね」

「目撃した人たちの証言から、現れた魔法少女は4人。黄色の魔法少女がいなかったそうです。物を変化させるというのもその黄色の魔法少女の能力ですからね、何か関連があるとみて間違いないでしょう」

「思うにですよ、その黄色の魔法少女が何か良からぬ事を企んでいて、その実験として先日のあの現象を」

「ふざけるなッ!」

楽子は衝動的にテレビにリモコンを投げつけた。バキッという音を立て、画面にヒビが入る。破壊されたテレビは、二度と何も映すことはなかった。

「沙弥ちゃんが…沙弥ちゃんが、そんな…こと…沙弥ちゃん…うぅっ…」

砕けたテレビを睨み付けていた楽子の目元に涙が浮かび、頬を伝っていく。ひとしきり泣いた後、力なくカップを手に取り、ぬるくなった紅茶を口にする。

「…はぁ」

少しだけ落ち着いて、ため息をひとつ。落ち込んだ気持ちのままカップをシンクに持っていき、洗面台に向かった。

(ひどい顔だなぁ)

泣き腫らし、覇気のない自分の相貌を楽子はそう評した。実際そこまでひどい顔というわけではないのだが、沙弥を、大切な仲間を亡くした失意のうちにある楽子にはそうとしか見えなかった。

あの事件の後、誰が提案したわけでもなく、魔法少女たちは自然に解散していった。誰もが相当のショックを受け、誰もが落ち着く時間を欲していた。

(いつまでも落ち込んではいられない、か…)

楽子は身支度を整える。昨日は一日、部屋に引き込もって悲しみに暮れていた。正直今日も出掛ける気になどなれないのだが、女の子とデートの約束があった。両親も、口にこそ出してはいなかったがだいぶ心配していたようだったし、多少強引にでも、表面上だけでも立ち直っておかなくては。

(テレビ、どうしようかなぁ)

今更ながらリモコンを投げつけてしまった事を後悔しながら、楽子は玄関に向かった。

そこで足が止まる。

窓の外に一瞬、知った顔が見えた。知った顔だが、知らない表情だ。慎重に窓側に寄って、外を観察する。それは確かに、楽子のガールフレンドの一人だった。だが様子がおかしい。スマホを片手に、鬼気迫る様子で何かぶつぶつ呟きながら家の回りをうろついている。時折キョロキョロと、というよりはギョロギョロと周囲を見回し、何かを探しているようだった。

何を?

まさか。

(…ぼくを?)

孝美がいたら自意識過剰と突っ込まれそうたが、場所を考えるとそれくらいしか思い付かない。楽子は、そこでようやくスマホの存在を思い出す。昨日、鳴るのが鬱陶しくて電源を切っていたスマホの存在を。取り出して再起動すると、通知が鳴り出し、未読メッセージの件数が表示された。

その数、2700件ほど。

「!?」

楽子は目を疑った。一日放置しただけにしてはいくらなんでも多すぎる。しかも、件数は現在進行形で増え続けているのだ。

おそるおそる、再び窓の外に視線を送る。外をうろついていた彼女は今や立ち止まり、にやにやしながら忙しなくスマホを操作している。楽子にメッセージを送っているのだ。すさまじい勢いで。

突然、彼女がぐんと顔を上げる。楽子は慌てて顔を引っ込めた。

目が合った気がした。


(何か…妙だ、明らかに!)

危険を感じた楽子は、見つからないよう裏口から家を出た。人通りのない静かな昼間の住宅街、足音が響いているような気がして不安になる。そろりそろりと、焦りつつもゆっくりと家から遠ざかる。十分に距離を取り、少し落ち着いたところでこれからどうしたものかと考えを巡らせる。

(これってたぶん、あれ…だよね…)

沙弥の姿が脳裏によぎる。魔法暴走。根拠はない。兆候もなかった。が、そうとしか考えられない。突然、来るのだ。ほぼ万能とも言える魔法を持つ沙弥が手遅れになった理由がなんとなくわかった気がした。

(とにかく、連絡を取らなきゃ…)

ゆいたちに、そして今日のデート相手に。いや、後者は下手に連絡したら危険かもしれないが。

スマホはどうせ役に立たないと思って家に置いてきたので、公衆電話を探して歩き始めた。しかし携帯電話の普及が進んだこのご時世、加えて住宅街という立地。なかなか見つからない。駅など人の多い所に行けばありそうな気もするが、そういった場所に行くとさっきの彼女のように魔法の影響を受けた女の子とばったり出会ってしまう可能性がある。

(人が少なくて、でも公衆電話がありそうな所…公民館とか?)

「つーかまーえたっ」

「うわっ!?」

急に後ろから抱きつかれる。見つかった!?と思ったが、振り向いてみると全然知らない、大学生くらいの女性だった。ほっと胸を撫で下ろす。

「あの、すいません。人違いですよ」

「んー?」

向き合って人違いを指摘するが、女性の方はにこにこ笑っており気にしている様子がない。

「え…と、どこかでお会いしましたっけ?」

「んーん、初対面だよ。でもぉ…」

言いながらするりと首に腕を回してくる。引き寄せて近づいてくる。顔が、唇が。

「キミすごい素敵…変だよね、私そういう趣味ないはずなのに…ねえ、一緒にあそぼ…?」

(まずい…!)

楽子は女性を振りほどき、全力で逃げ出す。

「すみません!」

「えー、待ってよぉー」

女性の方も全力で追いかけてくる。とにかく今は逃げるしかない、走り続ける楽子の前に、高校生くらいの女の子が二人で歩いているのが見えた。

「あ、ねえ」

「ん?あっ…」

二人がこちらを見た瞬間、目の色を変える。

(見られた、だけで…!?)

案の定、その二人も追いかけてきた。方向転換して逃げ続ける。

(なんなんだ、この状況は!)

真っ昼間の住宅街で、会ったこともない女の子3人から追いかけられる。冗談みたいな状況だが、追われてる当人は必死だ。捕まったらどうなるかわかったものじゃない。必死で走って、時折振り向き、逃げ続ける。公衆電話なんか探している場合じゃない。今は彼女らを振り切らなければ。それも、他の女の子に見つかることなく。

逃げる道の先に車が止まっている。大きめのバンだ。車?そんなのに追いかけられたら…と思ったが、よく見ると乗っているのは全員男のようだった。少しだけ安心して、横を通りすぎる。

だがそれこそが、もっとも注意しなければならない相手だった。

「んむっ!?」

楽子は口を塞がれ、車の中に連れ込まれた。車はドアを閉め、そそくさと走り去る。困惑する3人の女の子を置き去りにして。


「んーっ!んんーーーっ!」

口を塞がれたまま、楽子はじたばたと暴れる。同年代の女の子に比べれば遥かに体格に恵まれている楽子だったが、大人の男性に羽交い締めにされていてはどうしようもない。

「おとなしくしてろ」

「っ…!」

目の前に突きつけられるぎらりと光るナイフ。楽子は動きを止め、その間に男たちは彼女の手足と口を縛る。

(こいつら、いったい…?)

男、ということは魔法とは関係ないはずだ。

「おい、確認しろ」

「ああ、間違いない」

「そうか…クソ、こいつが…!」

男たちは楽子を睨み付けてくる。憎しみを込めて。楽子にはもちろん何の心当たりもない。わけのわからぬまま、車はどんどんと建物の少ない方へと向かっていく。

何がなんだかわからないが、ろくでもない事しか起こらないだろう、とだけは分かった。


車は少し大きめのガレージのような所に入っていった。壁は汚れており、隅に錆び付いた工具などが雑多に積まれている所を見るに、おそらく今は使われていないのだろう。

「おらっ!」

「んんっ!」

ドアが開き、楽子が乱暴に放り出される。身を捩って顔を上げると、車から降りてきたのを含めて20人ほどの男たちが自分を囲んでいるのが見えた。やはり全員、恨みがましい目でこちらを睨んでいる。

「こいつが…こいつのせいで!」

「んぐぅっ!」

男の一人が楽子の腹に蹴りを入れる。楽子は転がされ、打撃の痛みと呼吸を阻害される苦しみに悶える。

「おっ…?」

「どうした?」

「いや、なんか…」

蹴った男が何かを感じたようだが、蹴られた楽子の方はそれどころではない。轡をはめられたまま懸命に呼吸を整える。

「おい、お前なんでこんなことになってるかわかってねえだろ」

別の男がしゃがみこみ、楽子の顔を覗きこんだ。返事は期待していないらしくそのまま続ける。

「俺たちみーんなお前のせいで大切な人を狂わされたんだよ。恋人、友達、母、娘、姉、妹。身内の女がお前に全部捧げるとか言って、家やら車やら体やらを売っ払ったり、犯罪に手を出したり、失踪したりな。ちなみに俺の彼女は結婚準備金持ってトンズラしちまった」

楽子は察した。おそらく、魔法が暴走した結果だろう。惚れさせるという効果が強化され、狂信の域にまで達してしまったものだと考えられる。もちろん、楽子の意思とは関係なく。

「だからよぉ…鬱憤晴らすくらいはさせてもらってもいいよ…な!」

「ぐぅっ!」

「…ん?」

楽子は再度、蹴りを入れられる。蹴った男は、やはり何かを感じ取って振り返る。最初に蹴った男と目が合った。

「なぁ、これ」

「ああ」

「なんだ?どうした?」

周りの男たちが二人の態度に疑問を抱く。二人は少し言葉を交わして何か確認した後、説明を始めた。

「いやなんか、こいつ蹴ると…ていうか、苦しんでるのを見るとかな。すげー気持ちいいんだわ」

「は?そりゃお前がSなだけだろ」

「違うって。ちょっとやってみ?」

元より、楽子を痛め付けようと集まった男たちだ。試しにと次々に楽子を蹴飛ばしていく。

「んっ!…んぐっ!……んんっ!」

蹴られる度、楽子は苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げる。その顔を見るたび、その声を聞くたび、男たちは逆に快感を覚えていく。

「マジだ…どうなってんだ?」

「憂さが晴れたからか?やべえ、すげーいい気分だ」

「おら!もっと鳴け!」

「んっ!…ああっ!やめて、痛…っ!」

轡が切られ、声が出せるようになった。だが楽子にとって何ら状況は好転しておらず、その声は男たちを喜ばせるだけだ。

(まさか…これも…?)

暴力を一身に受けながら、楽子はその考えに至る。まさかこれも、魔法暴走の一種なのでは?女たちには狂信を、男たちには嗜虐心を…。そういう暴走の仕方なのでは?

(最悪だ、どうしたら…)

痛みに耐え、なんとかここから脱出すべく考えを巡らせ始めた…が。すぐにそれどころではなくなった。

「ひっ…」

男の一人がナイフを取り出した。小さな悲鳴が漏れる。刺される恐怖に体が強張る。

しかし、予想に反して刺されることはなかった。事態はもっと最悪だった。

服が切り裂かれたのだ。手足の拘束も解かれたが、無論逃亡は許されず、すぐにその場に押さえつけられる。

「…やだ…」

欲望と害意に満ちた男たち。衣服を剥がされた自分。これから何をされるのか、嫌でも理解できてしまう。

「やだ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁ!」

みっともなく手足をばたつかせて抵抗しようする。楽子の体格は同年代の女子に比べて恵まれている方ではあったが、所詮は少女。その上多勢に無勢。逃げる事などできはしない。

「やだ!やめて!お願い!お願いだから…っ…っっ…あああああああ!」

楽子の慟哭が響き渡る。それを聞いて、男たちは一様に恍惚の笑みを浮かべた。




長い。






長い、時間が経った。


今はいったい、何日の何時だろう。時計など見れるはずもなく、どのくらい時間が経ったのかさっぱりわからない。ひょっとしたら一日も経っていないかもしれないが、楽子にとっては永劫の地獄に感じられた。

あれから男たちは一通り、楽子の体を楽しんだ。涙を振り撒き、叫びを上げ、許しを乞う楽子をにやけ顔で汚し続けた。人数が多いから一巡する頃には最初の方の男は回復しており、再び輪に加わる。それが何周、あるいは何十周。

しばらくすると、奴らの趣向は痛め付ける方にシフトした。殴る、蹴る、踏む。それに飽きると再び汚された。その繰り返しが何回かあった後、ガレージに人が入ってきた。どこから連れてきたのか、見るからに不潔な浮浪者たち。そいつらは大喜びで楽子を汚し、周囲の男たちはその光景を見てゲラゲラと笑っていた。さんざん汚されて、痛め付けられた後だったので嗅覚が麻痺しており、くさい臭いを嗅がずに済んだのだけは不幸中の幸いだったのだろうか。

行為はだんだんエスカレートしていき、暴力行為に道具を用いるようになった。肉を切られ、骨が折られる痛みに喉が裂けるほど叫んだ。男たちは笑っていた。

犬を数匹連れてきた。全て雄犬だった。

注射器だ。

半田ごて。

それから。

それから。

それから…。


何人かがスマホを見て、再生数がどうのと言ってはしゃいでいる。楽子は乱暴に腰を打ち付けられながら、無感動にそれを見ていた。

「っ…ふぅー…出た出た」

「まだ出んのかよ、飽きねーな」

「そういうお前もまだ元気そうじゃねーか。次やるか?」

「おう。へへへ」

男は半笑いで楽子に覆いかぶさる。その時、楽子の口が動いてるのを見た。ただ呼吸しているのだと思ったが、微かに声が聞こえる。何か喋っているようだ。

「なんだ?なんか言ってるぞ」

興味を引かれ、口元に耳を近づける。

「噛みつかれても知らねーぞ?」

ゲラゲラと笑いながら言った男の足元には、ペンチと、白いドングリのようなものが10個くらい転がっている。

「うまく聞き取れねーな。おいちゃんと喋れ」

楽子の頬を拳で殴る。白いドングリが、また一つ楽子の口から転げ落ちた。それでもなお、楽子は何かを呟き続けている。

「ほんと何言ってんだこいつ?いい加減…」

聞くのをやめようとした男の顔から笑いが消えた。代わりに怒りの相が浮かび上がり、再び楽子を殴りつける。

「どうした?またいたぶんのか?」

「こいつ…こいつあああああ!」

馬乗りになり、顔面を殴り続ける。何事かと他の男たちも集まってきた。

「おい、突然どうした?」

「こいつ…名前を…!」

「名前?」

男の一人が楽子の口元に耳を近づける。途切れ途切れだが、確かに名前のような呟きが聞こえる。

「……あん…ぬ?誰だ?」

「…俺の彼女だ」

「…さち、これは」

「それ、俺の妹…」

「…もえっていうのは?」

「俺の婚約者…元だけど」

「どういうことだ?なんで名前を」

「決まってんだろ…!」

馬乗りになっていた男が、怒りの表情のまま立ち上がる。

「助けてもらおうってんだよ…!よりによって、女たちに。俺たちから奪った女たちにだ!」

完全に憶測でしかなかった。見当違いの思い込みでしかなかった。だが、最初から楽子に怒りを持って集った男たちは、魔法暴走の影響下にある男たちは、容易くそれを信じ込み、怒りは伝染する。

「ふざけやがって…!」

「まだ懲りてねえのか!」

男たちは次々と楽子を足蹴にしていく。顔も蹴られて、これ以上は呟けそうもないので、楽子は続きを心の中でつぶやき続けた。

(あけみちゃん…この前もらったクッキー、本当においしかった。ありがとう)

それは、助けを乞う言葉などではない。

(ゆきちゃん…君なら絶対、優しい保母さんになれるよ。がんばってね)

それは、仲良くした女の子一人一人に対する。

(こよりちゃん…勉強教えてくれてありがとう。今度からは、他のみんなにも教えてあげてほしいな)

別れの言葉だった。

(ようこさん…あの時はごめんね。もう、迷ったりしないでね)

男たちは絶えず蹴り続け、踏み続けている。

(ゆいちゃん…悲しませることになっちゃうかな。ごめんね。ゆいちゃんが悲しいとぼくも辛いから、早く立ち直って欲しいな)

楽子は耐える。というより、もうほとんど全身の感覚がない。痛みもあまり感じないのを幸いに、言葉を紡ぎ続ける。

(まことちゃん…実はまことちゃんって、すごくかわいい女の子なんだよ。もったいないから、早く気付いてね)

これでほとんど、別れの言葉を言い終わった。残しているのはあと一人。

(たかみちゃん…)

なんて言おうか考えていると、楽子の口元にかすかに笑みが浮かんだ。だが、それを見ている者などこの場には誰一人としていやしない。

(どうせ蹴られるなら、たかみちゃんの方が良かったなぁ)

楽子はそのぼやけた視界で、男たちの中で一際体格のいい男が足を振り上げるのを捉えた。靴底がみるみる大きくなり、視界を埋め尽くしていく。

(さやちゃん…もうすぐ、会え)


――ガァァァン!!!


「なんだ!?」

強烈な衝突音に、男たちはいっせいに振り返る。音の出処はシャッターだ。それも一回だけではない。シャッターのあちこちから、何回も聞こえてくる。何者かが集団でシャッターを叩いているのだ。破壊しようとしている。いったい誰が?その疑問はすぐに解けた。シャッターは容易く破られ、なだれ込んでくる。手に傘やバット、鉄パイプや包丁、はさみなどの武器を持った、何人もの女たちが。

「え…」

「あ…」

「なんで…?」

その姿を見て、男たちは更に困惑した。男たちの恋人が、あるいは姉が、妹が、友人が。その集団の中によく見知った顔が混じっているからだ。

女たちは戸惑う男たちに目もくれず、その足元に視線をやる。

足元の、楽子、だったものに。

一斉にその姿を確認し、そして一斉に。

「…キィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

奇声をあげて、男たちに襲い掛かった。

「おい、冗談だろ!?」

「やめてくれ!俺だ!わからないのか!?」

「逃げ…」

男と女。だが男は疲弊と困惑の中にあり、女たちは殺意と武器を持っている。争いにすらならず、男たちは一方的に虐殺されていった。


「ああ…」

「あああ…」

「うぅっ…」

邪魔者を排除したガレージで、女たちは楽子の遺体を取り囲み、一様に涙している。楽子が死に、魔法の発動は収まっている。だが、発動し終えた効果が消えるわけではない。女たちは変わらず楽子に対して狂信めいた思いを持ち続けているのだ。

やがて女の一人が立ち上がり、楽子の遺体の側へと近づいていく。

そしてしゃがみこみ。

手を伸ばし。

潰れた顔から、左目をくりぬいた。

「…」

「…」

「…」

それを見ていた女たちは、一人、また一人と楽子の遺体に近づき、次々にその一部を手に取っていく。

髪を。

爪を。

鼻を。

耳を。

皮膚を。

指を。

舌を。

肉を。

臓物を。

自分の分を手に入れた女たちの行動は、様々だった。

うっとり眺める者。

目を閉じ頬ずりする者。

優しく抱きしめる者。

慰める者。

そして、自らの身体に取り込む者。

咎める者など誰もいない。サバトのようなこの空間は、翌日、警察が踏み込むまで続いた。


<二つめ>


つづく

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